「好感を持たれるには、第一印象が大切」とよく言われます。果たしてそれは、外見だけのことなのでしょうか?
「ビジネスにおいて“信頼されること”をゴールとすると、外見以上に大切にすべきなのが、話し方に加え、言葉の使い方です。社会人経験を積んできた場合、その中でも特に『敬語の使い方』で相手の信頼感は大きく変わってきます」と語る桑野麻衣さん。
これまでにANA、ディズニーランド他の大手企業で接遇マナー、コミュニケーションスキルを磨き、現在は研修やセミナーの講師として活躍する桑野さんは、言葉コミュニケーションの実践的な専門家です。
そんな桑野さんが教えてくれる、好かれる人はビジネスで使わない5つの言葉。日頃の自分の口癖と照らし合わせながらチェックし、正しい言葉づかいを身につけることで、より周囲から信頼される女性を目指しましょう!
■1:「~さんが言っていた」
もしあなたが会社の後輩から、「先ほど先輩が言っていた企画案の件ですが、もうできていますよ」などと告げられたら、どう思いますか? これに「違和感はない」という方は要注意。この場合、相手が仮に親しい先輩であったとしても、上司なのですから「先ほど先輩がおっしゃっていた」と敬語表現にすべき場面だからです。
こうした敬語を使うべき場面で自然にそれが使えない原因を、「日頃から敬語に慣れ親しんでいないから」と指摘する桑野さんは、こう問いかけます。
「例えば、ビジネスコミュニケーションでも頻出する、言う・聞く・知るの3つを、尊敬語と謙譲語ですぐ口にできますか?」
言う:尊敬語「おっしゃる」 謙譲語「申す、申し上げる」
聞く:尊敬語「お聞きになる」 謙譲語「うかがう、お聞きする」
知る:尊敬語「ご存知になる」 謙譲語「存じる、存じ上げる」
いかがでしょうか、すぐに口にできましたか?
「一瞬で信頼される人というのは、こうした言葉づかいを日頃からしっかりと勉強して、ビジネスシーンとプライベートシーンで使う言葉を使い分けられるように努力しています。ぜひ皆さんも、敬語を使うべき局面で、正しい言葉づかいができているか、日頃からチェックしてくださいね」
■2:「~で大丈夫ですか?」
飲食店で上司に食事をごちそうになり、その会計のときに「領収書もらわなくて大丈夫ですか?」などと口にしていませんか? あるいは仕事場で物を借りる際の、「この~、借りても大丈夫?」などの使い方も要注意です。
「大丈夫という言葉は本来、病気の人に『具合は大丈夫?』と聞いたり、『大丈夫、すぐ治るよ』と励ましたり、『安心・安全・確信していること』を伝える際に用います。それが近年、コンビニ敬語の影響なのか『必要・不要』を問う際などに大丈夫が使われており、誤用がすごく気になる日本語のひとつですね」
桑野さんによれば、「大丈夫」の誤用は、主に以下の3つのケースで起こっていると言います。
(1)必要・不要を問うとき、またそれに答えるとき
×誤用例:「レシート、大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です」
〇正しくは「レシートは必要ですか?」「いいえ、要りません/不要です」など
(2)できるか・できないかを問うとき、またそれに答えるとき
×誤用例:「支払いはカードで大丈夫?」「はい、大丈夫です」など
〇正しくは「支払いはカードでできますか?」「はい、お使いいただけます」など
(3)許可をもらう・与える・断るとき、またそれに答えるとき
×誤用例:「この台車、使っても大丈夫?」「はい、大丈夫です」
〇正しくは「この台車、使ってもよろしいですか?」「はい、どうぞお使いください」など
「これらの『大丈夫』の使い方は残念ながら、大丈夫ではありません。敬語以前に日本語として間違っていますので、『この人、日本語、大丈夫かな?』と、信頼を損ねる可能性もあります。特に日本人はあいまいさを好む傾向から、イエス、ノーをはっきり言いづらいときについ、大丈夫を使ってしまいがちです。
しかし、人としてのやわらかみは、声や表情などのノンバーバル・コミュニケーションでいくらでも表すことができます。ぜひ皆さんは、イエス・ノーをはっきりと感じよく言える、正しい日本語での表現力を磨いてくださいね」
また、声や表情磨きなど、ノンバーバル・コミュニケーションのスキルアップについては、こんなアドバイスをしてくれました。
「残念ながら人から指摘してもらえる機会は少ないので、表情や声の抑揚やトーンなどノンバーバルなコミュニケーションは、スマホを使って自撮りして修正するのがお勧めです。恥ずかしいと思うかもしれませんが、『自分でさえ見るのが恥ずかしい姿を他人に見せているかもしれない、というほうがよっぽど恥ずかしい』と言い聞かせて、がんばってみてくださいね!」
■3:「~させていただく」
取引相手の提案に対して「確認させていただき、すぐに返答を検討させていただきます」など、最近のビジネスコミュニケーションでの乱用・多用が目立つのが、「~させていただく」という言葉づかいです。
「この言葉をめぐっては『させていただきます症候群』とも揶揄されるほど、誤用での乱用・多用が目立っています。乱用される理由は、一見『低姿勢で丁寧な印象のある言葉』だからです。しかし誤用は、言われた相手が慇懃無礼に感じ、トラブルにもつながるので要注意です」
「~させていただく」の正しい使い方について、桑野さんはこうアドバイスします。
「シンプルに『相手の許可が必要な場合に使う』と覚えておきましょう。確認する、検討するなどの場合は、相手の許可は必要ないので、『確認いたします』『検討いたします』と言い切ればいいのです」
「~させていただく」の間違った使い方例:
×相手の許可が不要な場合
「報告させていただく」ではなく→「報告いたします」
「検討させていただく」ではなく→「検討いたします」
「~させていただく」の正しい使い方例:
〇相手の許可が必要な場合
「この資料をコピーさせていただいてもよろしいでしょうか?」など
「先日、私もあるアパレルのお店で対応してくださったスタッフの方から「確認させていただきます」「調べさせていただきます」「報告させていただきます」と「させていただく」と連呼され、なんだかとても面倒くさいことをさせているような気持ちになってしまいました。このように、不本意にも、相手の不快感を招いてしまうこともあるぶん、正しく使いたいのが『~させていただく』なのです」
■4:「形になっております」
接客業務などで何か対応を断る際に、「申し訳ございません、当店ではこういう形になっていますので」という言葉づかいを耳にしたことありませんか? もしくは、あなたは使っていませんか?
「私自身、お断り対応をすることが多かった航空会社での仕事において、『このような形でのご案内でよろしいでしょうか』など、つい、『形になっている』という言葉を使っていたことがありました。
しかし後で気づいたのは、この言葉には、『自分自身がするのではなく、あくまで成り行きでそういう対応しかできないのです』という、とても無責任な印象を相手に与えているということでした。やはりお断りする際は、『したい気持ちがあっても、規則により、どうしてもできない』という誠意を示すことが大切です」
では、どのように断れば誠意が示せるのか。桑野さんが勧める対応例をご紹介します。
何かを断る際の誠意ある言葉づかい例:
×「申し訳ございません。当店では、このような形でしか対応できませんので」
〇「私個人としては、ぜひそのように対応したい気持ちは山々なのですが、お客様のご期待に沿うことができず、誠に申し訳ございません」
「何かをお断りする際には、自分自身、本当はどうしたいのか、責任をしっかり持ち、主体的な断り方をしたいものですね」
■5:「なるほど」と「なるほどですね」
いつの間にかビジネスシーンにも広まった、ちょっと違和感のある言葉づかい。「なるほど」、「なるほどですね」はその代表格です。
「先輩や上司に対して、なんとなく使ってしまいがちなのが、『なるほど』や『なるほどですね』です。というのもそもそも『なるほど』には、あなたの意見に深く賛同・理解・共感したわけではないけど、とりあえず相槌を打っておきます、という上から目線的なニュアンスがあるからです。ちなみに『なるほどですね』というのは、そもそも日本語の文法上誤っているため論外です」
「ですね」をつけることで、なんとなく相手に対して丁寧な言葉づかいをしている気にはなっても、実際のところ、相手に与えている印象は決してよくないのが、「なるほど」や「なるほどですね」だと言います。では、どう言い換えたらいいのか、桑野さんにアドバイスを聞いてみましょう。
「『なるほど』を一番かしこまった表現にすると、『さようでございますか』『おっしゃる通りでございます』が挙げられます。ただ、これではあまりに仰々しいので、『そうなんですね』『そういうことなのですね』などと言ってもよいでしょう」
ただし、「なるほど」は必ずNGというわけではありません。桑野さんがこう続けます。
「つい『なるほど』が口から出てきてしまった場合は、『なるほど』の単独づかいはNGと心得ましょう。例えば『なるほど、そういうことだったのですね!』『なるほど、先輩のおっしゃることよくわかります!』など、『なるほど』にプラスアルファの相手への共感や同意の言葉を加えることで、一気に上から目線的なニュアンスが消えて、好印象が与えられる言葉になります」
「なるほど」の使い方例:
×NGな使い方:「なるほど」を単独で使う。「なるほどですね」もNG。
〇正しい使い方:共感の言葉を添えて「なるほど、おっしゃる通りです!」
以上、言葉コミュニケーションの専門家、桑野麻衣さんに好かれる人はビジネスで使わない5つの言葉を教えていただきました。どれもこれも、つい使ってしまいそうなものばかり。さっそく明日から、日頃の口癖をチェックして、より周囲から信頼される女性を目指してステップアップしていきましょう。そして最後に桑野さんからのメッセージを。
「コミュニケーションでは、時に距離の近さを出すことも求められます。しかしその場合でも、信頼される一流の人というのは、相手への尊重、そして自分の表現として、言葉づかいは一切崩しません。馴れ馴れしさと親しみやすさの違いをよく理解しています。
たとえ相手が年下や後輩でも、言葉づかいを崩さず、正しく使うことが信頼につながります。その分、表情やジェスチャーなど、ノンバーバルな部分で相手との距離を縮める努力をすると、さらに愛され、信頼される女性へと成長できるでしょう」
『思わずマネしたくなる 好かれる人の話し方、信頼される言葉づかい』桑野麻衣・著 クロスメディア・パブリッシング刊
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 町田光