「猫も杓子も大絶賛だ」や「猫も杓子もグルメ番組ばかりだ」といったときの「猫も杓子も」の意味、わかりますよね? 「猫も杓子も」は「誰も彼も」や「何もかも」を示すもの。でも、なぜ「猫」と「杓子」なのでしょう。今回はこの慣用句について解説します。
【目次】
【「猫も杓子も」の由来は諸説あり!「意味」など基礎知識】
■読み方
「猫も杓子も」と書いて「ねこもしゃくしも」です。
■意味
「何もかも」「誰も彼も」という意味。多くのものや事柄、人が、ひとつのことに集中する際に、肯定的にも否定的にも使われます。「ごくありふれた人々がそのことに関わる」という意味で、軽い軽蔑を込めて使われることもあります。
■語源
猫と杓子の組み合わせ、よく考えたらおかしなものですね。「猫も杓子も」の語源には諸説あるのでご紹介しましょう。
(1)「禰子(ねこ/神主)」と「釈氏(しゃくし/釈迦や僧侶)」で、「神に仕える者も仏に仕える者もみな」という意味を示す「禰子も釈氏も」が変化したという説。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』に用例あり。
(2)「女子(めこ/女性)」と「弱子(じゃくし/年少の子供)」で、「女も子どもも、みな」という意味。古典落語「横町の隠居」で使われた「女子も弱子も」の聞き間違え、という説。
(3)「杓子」は「しゃもじ」のことで「主婦」を表し、「猫も主婦も家族総出で」という意味から変化したという説。
(4)「寝子(ねこ/よく寝る子)」と「赤子(せきし/乳飲み子)」を用いた「寝子も赤子も」が変化して「猫も杓子も」になったという説。
(5)「猫」はどこにでもいる動物、「杓文子(しゃもじ)」は毎日使う道具ということから、「ありふれたもの」を意味するのに「猫も杓子も」を用いたという説。ちなみに杓子は杓文字を略した言葉です。
とんちで人気の一休和尚の逸話を集めたとされている『一休咄』に、「生まれては死ぬるなりけりおしなべて釈迦も達磨も猫も杓子も」という一節があります。一休さんは室町時代の僧、『一休咄』は江戸時代につくられたものなので、根拠は定かはありませんが…。ことわざや慣用句の語源や由来は諸説あることが少なくありませんね。それだけ印象的であり、また用いる機会も多いということでしょう。会話の小ネタとして、覚えておくのもビジネススキルのひとつかもしれません。
【「使い方」がわかる「例文」5選】
■1:「テレビや雑誌で取り上げられると、猫も杓子もその料理を注文する」
■2:「うちの上司は、今どきの若者は猫も杓子も…とまとめがちだけど、個々の特性や能力を見極めて評価してほしいよ」
■3:「電車内では、本はおろか、漫画や雑誌さえ読んでいる人はいない。猫も杓子もスマホで読書の時代だね」
■4:「クイズ、グルメ、旅や街歩き…って、猫も杓子も同じような番組ばかりで飽き飽きするよ」
■5:「長期連休は猫も杓子も海外旅行という、コロナ禍前の状況に戻りつつある」
否定的であったり皮肉を含んだりして使われることが多いのがわかりますね。肯定・否定のどちらの意味でも使えますが、あまり良くないイメージをもっている人もいるのでは? 「猫も杓子も」はビジネストーク向きとは言えないかもしれません。
【ビジネストークで使える「言い換え」表現】
では、「猫も杓子も」をビジネストーク用に言い換えてみましょう。下記のようにさまざまな語が当てはまります。
・誰も彼も ・右も左も ・誰も皆 ・全員 ・揃いも揃って ・一様に ・ひとり残らず ・誰もが ・みんなが ・全員が ・老若男女
「どいつもこいつも」も同様の意味で使えるフレーズですが、「どいつ」「こいつ」ともにぞんざいで軽んじたニュアンスがある人代名詞なので、ビジネスシーンに適切とは言えません。
【「猫も杓子も」を「英語」にすると…】
■(all) the world and his wife
■everybody and his brother
「誰も彼も」「みんな」という意味の英単語は〔everyone)や〔everybody)ですね。
***
ことわざや慣用句には、動物を使ったものがたくさんあります。なかでも猫は身近な存在だからでしょうか、「猫に小判」「猫に鰹節」「猫にまたたび」「猫の手も借りたい」「猫の首に鈴を付ける」「猫をかぶる」「借りてきた猫」──ちょっと調べると“猫使い語”が何十とあることがわかりますよ。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『情報・知識imidas』(集英社)/『角川類似新語辞典』(KADOKAWA)/『今日から役に立つ! 使える「語彙力」2726』(西東社)/『決定版 すぐに使える! 教養の「語彙力」3240』(西東社)/『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) :