「漁夫の利」は、ムダな争いに気を取られていると、第三者に利益を横取りされるだけでなく、結局は共倒れになってしまうから注意せよ、という戒めを意味する故事成語です。目先のことしか考えられなくなっている間に、ノーマークだった人に出し抜かれ、「あれっ! いつの間に⁉」という経験、ありませんか? 今回のテーマは「漁夫の利」。出典や例文、言い換え表現、対義語までご紹介します。

「【目次】

目先の欲に気を取られ過ぎると失敗するものです。
目先の欲に気を取られすぎると失敗するものです。

【「漁夫の利」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「漁夫の利」は「ぎょふのり」と読みます。

■意味

「二者が利益を得るために争っている隙に、無関係な第三者がなんの苦労もなしに利益を横取りしてしまうこと」のたとえです。ムダな争いは第三者に利益を横取りされるだけでなく、結局は共倒れになってしまうことを戒めた言葉と言えます。

■語源・由来は?

「漁夫の利」の出典は中国の戦国時代の史書『戦国策』に書かれた逸話です。浜辺で口をあんぐり開けているハマグリを見て、鷸(しぎ)がその肉をついばもうとしましたが、ハマグリは鷸のくちばしを挟んで水に引き込もうとします。その争いの最中に偶然、漁夫が通りかかり、まんまと両方とも捕らえてしまった、というお話です。

■「漁夫の利」は「ことわざ」?「故事成語」?

『ことわざ』と『故事成語』。違いをご存じですか?

「ことわざ」とは、教訓や知識、風刺などが、長い時を経て言い伝えられた言葉のことです。気付きやためになる教えが、簡潔な言葉に集約されています。日本で用いられている「ことわざ」は、日本文化のなかで自然発生的に生まれ、育まれてきたものです。一方、「故事成語」の「故事」は、大昔に起きた出来事やかつて存在したものを指します。遙か昔のことでありながら、明確な事件や事柄など、主に中国の古典に由来がある逸話です。この故事に基づく慣用語句のことを「故事成語」または「故事成句」と呼びます。代表的な出典は史記のほか、論語孫子など多数。

つまり「漁夫の利」は漢書『戦国策』を出典とした「故事成語」です。

ちなみに「慣用句」は2語以上の単語が結びつき、意味を表現する語句のこと。「足元に火がつく」「足を引っ張る」「油を売る」などは慣用句です。「ことわざ」や「故事成語」はひとつにまとまったフレーズとして固定されていますが、「慣用句」は使われ方次第で語尾などが変化します。例えば「足元に火がついたら、逃げるしかないでしょ」などと使われたら、それは「慣用句」です。


【「使い方」がわかる「例文」3選】

「漁夫の利」は「得る」「収める」といった動詞と共に使われることが多いですよ。実際にどう使われるのか、例文でチェックしていきましょう。

■1:「同期のライバルと目先の売上を競っている間に、別の同期が漁夫の利を得てするりと昇進していた」

■2:「A社の契約を巡り、B社と争っているつもりでいたら、ノーマークだったC社に契約を取られてしまった。これこそまさに『漁夫の利』だな」

■3:「生真面目な長子と甘えん坊の末っ子。何かと要領のいい真ん中が兄弟の中で漁夫の利を占めるのは、よくある話だ」


【「漁夫の利」の「言い換え」表現は?】

■同じような意味の「故事成語」

・鷸蚌(いっぽう)の争い 

「漁夫の利」の原典であり、鷸はしぎ、蚌はハマグリのことです。

・犬兎(けんと)の争い

「漁夫の利」同様、『戦国策』に出てくる逸話が出典の故事成語。犬がウサギを追いかけて山を駆け回っているうちにどちらも力尽きて倒れてしまい、農夫に簡単に捕まってしまったというお話で、「漁夫の利」と意味もほぼ同じです。

■同じような意味の「ことわざ」

ご紹介する以下のふたつに共通するのは、「苦労せず利益を得ること」。「漁夫の利」のように、「ムダな争いをしている間に」や「共倒れ」といった意味はありません。

・濡れ手で粟

たいした苦労もせずに簡単に多くの利益を得たり、大金を手に入れたりすること。乾いた手ではたいした量の粟はは掴めませんが、濡れた手であれば大量の粟が勝手にくっついてくる様子から生まれた言葉です。「濡れ手で泡」ではありませんよ。念のため。

・棚からぼた餅

労せずしてよいものを得ることのたとえです。「たなぼた」とも言いますね!


【「反対語」は?】

厳密な意味での反対語はありませんが、「漁夫の利」の漁夫はある意味「無欲の勝利」。そういった意味で反対の意味をもつことわざをご紹介します。

■虻蜂取らず(あぶはちとらず)

「虻蜂取らず」は、「あまり欲を深くすると、かえって失敗する」ことのたとえです。

■二兎を追うものは一兎をも得ず

「同時にふたつの物事をしようとすると、いずれもが成功せず、中途半端に終わる」ことを意味することわざです。

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「漁夫の利」は、目先の欲に気を取られすぎると失敗することを戒めた故事成語です。偶然も味方しないといけない、「漁夫」はなろうとしてなれるものでもありませんが、少なくとも、「漁夫」に必要な素養は、状況を俯瞰できる視野の広さと冷静な判断力と言えるのではないでしょうか。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社) :