「二重敬語」とは、敬語を重ねて使用すること。正しい日本語的にはNGとされています。「より丁寧なほうがいいのでは?」という考えも一理ありますが、実際は敬語をたくさん使っても敬意を高めることにはならず、まわりくどくてわかりにくかったり、かえって失礼にあたることも。今回は「二重敬語」を通して、“端的で感じのよい敬語”についておさらいします。

【目次】

ワンセンテンスに1敬語で十分です!
ワンセンテンスに1敬語で十分です!

【「二重敬語」とは?「意味」と「敬語連結」との違い】

■「二重敬語」の意味

簡単に言うと、ひとつの語を二重に敬語化した言葉のこと。もう少し詳しく解説すると、ひとつの語に同じ種類の敬語を複数使うことです。

敬語には5種類あります。まずはサクッとおさらいしましょう。

・尊敬語(例:いらっしゃる、おっしゃる)

・謙譲語Ⅰ(例:うかがう、申し上げる)

・謙譲語Ⅱ(例:参る、申す)

・丁寧語(例:です、ます)

・美化語(例:お料理、お肌)

例えば「資料をお読みになられましたか」は、「読む」の尊敬語「お読みになる」の語尾に「…れる」という尊敬語を重ねているのでNG! この場合は「お読みになりましたか」あるいは「読まれましたか」が正解です。会議やプレゼンでつい言ってしまいそうな「お読みになられましたか」というフレーズですが、実は「二重敬語」だったのですね。「お読みになりましたか」や「読まれましたか」では丁寧さが足りないと感じるシーンでは、語尾を「~でしょうか」とするのも一案です。

■「敬語連結」とは?

ふたつ以上の語をそれぞれ敬語にして、「て」でつなげたものを「敬語連結」と言います。例えば「お読みになる」と、「いる」を敬語にした「いらっしゃる」をつなげた「お読みになっいらっしゃる」が「敬語連結」。「二重敬語」ではないのですが、まわりくどくて意味が伝わりにくいので、基本的には「お読みになっています」でいいでしょう。とはいえ、個々の敬語の使い方は間違えではないので、「あり」です。

■「二重敬語」と「敬語連結」の違いをまとめると…

「二重敬語」は同じ種類の敬語を重ねること、「敬語連結」は敬語を「て」でつなげることです。


【「二重敬語」はなぜNG?

「二重敬語」が適切ではないと言われるのは、敬語を使いすぎるとまわりくどくなり、真意が伝わりにくくなるから。ひとつの語を二重に敬語化しても、相手に対する敬意が高まるわけではありません。まわりくどい言い方は美しい言葉遣いとはいえないので、敬語はできるだけシンプルに、気持ちを込めて、が正解です。


【使いがちな「二重敬語」と「正しい敬語」3選】

■1:×「先方とはもうお会いになられましたか?」

   ○「先方とはもうお会いになりましたか?」

■2:×「新サービスをご利用になられてはいかかでしょうか」

   ○「新サービスをご利用になってはいかがでしょうか」

■3:×「おっしゃられることは正論ですが」

         ○「おっしゃることは正論ですが」

ほかにも、ビジネスシーンで使いがちな「二重敬語(✕)」と「正しい敬語(○)」を挙げておきましょう。

✕お話しになられる ○お話しになる、話される

✕お聞きになられる ○お聞きになる、聞かれる

✕お読みになられる ○お読みになる、読まれる

✕ご覧になられる ○ご覧になる

✕お越しになられる ○お越しになる

✕お見えになられる ○お見えになる

✕おいでになられる ○おいでになる

✕お戻りになられる ○お戻りになる、戻られる

✕お帰りになられる ○お帰りになる、帰られる

✕お求めになられる ○お求めになる

✕ご出席になられる ○ご出席になる、出席される 

×いらっしゃられる 〇いらっしゃる


【「~させていただく」の「二重敬語」にも注意!】

「させていただく」の過剰使用についての賛否が問われて久しくなりますが、「二重敬語」としての誤用にも注意が必要です。「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語ですから、ほかの謙譲語と併せて使うと「二重敬語」となってしまいます。例えば「拝見させていただきます」の場合、「拝見」は「見る」の謙譲語なので「させていただきます」と併用すると「二重敬語」に。この場合は「拝見します」「拝見いたします」が正解!

ビジネスシーンでは「伺わせていただきます」や「頂戴させていただきます」も使われがちですが、「お伺いします」や「頂戴いたします」が適切です。「二重敬語」も「させていただく表現」も、相手に対する敬意ではなく、自分がどう見られたいか(見せたいか)による自己愛的な表現だとする研究者も。どちらもシンプルな言葉遣いとは言い難いので、“大人の語彙力”としては避けたいところです。


【え!?これも「二重敬語」だった!】

役職付きの人へのメールや書簡の宛名で間違えがちなのが、「役職+様」「役職+殿」といった表現です。「○○部長様」や「○○社長殿」は敬称の二重使用となり、「二重敬語」の例にあてはまります。「各位」も「皆様」と同意の言葉なので、「各位様」や「各位殿」も「二重敬語」になります。つまり、「○○部長」「○○社長」「各位」「関係各位」などが正解というわけです。


【「二重敬語」でも「使用OKなフレーズ」も】

本来は「二重敬語」なので適切な表現ではありませんが、「拝見いたします」や「お伺いします」のように一般化していて「使用OK」とみなされているフレーズも。これらは「二重敬語」であることを理解したうえで使いたいものですね。

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この“大人の語彙力強化塾”は、ビジネスシーンを中心に“大人として感じのいい言葉遣い”を一緒に学んでいく連載です。「二重敬語」はまわりくどいばかりでなく失礼にあたることもあるので、十分注意したいですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『敬語ネイティブになろう!!』(くろしお出版)/『とっさに使える 敬語手帖』(新星出版社)/『すぐに使えて、きちんと伝わる 敬語サクッとノート』(永岡書店) :