神秘的な光、暖かい光、人工的な光、広大な光─。イギリス・テート美術館から多様な「光の名作」が一挙来日!

雑誌『Precious』8月号では、国立新美術館にて開催中の「テート美術館展 光 ─ ターナー、印象派から現代へ」をご紹介。

つねに移ろい、表情を変える「光」を、どうとらえ、表現するのか。イギリスを代表する国立美術館テートの、質の高いコレクションに目をみはる必見の展覧会です。なかでも「光の画家」ターナーはこの機会にたっぷりと! 美術ジャーナリストの藤原えりみさんにお話しをうかがいました。

藤原えりみさん
美術ジャーナリスト
女子美術大学、國學院大学非常勤講師。雑誌などでの執筆のほか、展覧会図録制作にも携わる。現在「アプリ版ぴあ」で水先案内人を務める。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)ほかがある。
国立新美術館で開催中の「テート展」
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《湖に沈む夕日》1840年頃 テート美術館蔵 Photo: Tate

《湖に沈む夕日》というタイトルでありながら、湖も夕日も空も、明確な輪郭線がなく、すべてが溶け合ってぼんやりと発光している。大気中に満ちる光を独自の手法で描き出したターナーは、19世紀のイギリスで最も愛された画家のひとり。今回の展覧会ではほかにも日本初出品となる《光と色彩(ゲーテの理論)─大洪水の翌朝─創世記を書くモーセ》も見どころ。「光の画家」の代表作をまとめて観られる貴重な機会に。


「光」という抽象的なものを、18世紀末から現代までのさまざまな作家の作品で体験させてくれる、非常にユニークな展覧会です。18世紀のジョゼフ・ライト・オブ・ダービー《噴火するヴェスビオ山とナポリ湾の島々を望む眺め》は、スケールの大きさに圧倒され、19世紀デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイの静謐な室内画に吸い込まれ、現代作家ブリジット・ライリー《ナタラージャ》の錯視を利用した色彩表現にくらくらし、と、見どころ満載の予感ですが、なかでもジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーとジョン・コンスタブルの表現にはご注目を。イギリスの近代美術を代表するこのふたりの巨匠は、ほぼ同時代に風景画家として活躍し、ライバル的存在でした。それぞれ、風景に対するアプローチが違うんですね。地誌的な風景画を描いていたターナーは、やがて大気に満ちた光を通して風景を描く表現へと至ります。一方でコンスタブルは、身近な風景を写実的に描き、“コンスタブルの雪” と呼ばれた光を白い粒で表す手法を生み出すなど、ターナーとは異なる光のとらえ方を追求しました。彼の作品は、その後の印象派の誕生にも影響を与えたとされています。今回はクロード・モネの作品も紹介されますので、光の表現の変遷を見比べてみてください。

それにしても、コレクション品だけでこの質、規模の展覧会を企画できるとは、テート美術館のすごさに改めて驚嘆します。展示構成も工夫が凝らされているので、時間をかけてぞんぶんに堪能していただきたいですね。(談)

国立新美術館で開催中の「テート展」
ジョン・コンスタブル《ハリッジ灯台》1820年出品? テート美術館蔵 Photo: Tate

画面の大部分を占める空と、そこに広がる雲、海面と地面の明るさの変化など、刻々と移り変わる光の加減が細密に描写されている。イングランド南東部のサフォーク州に生まれたコンスタブルは、自身の周辺にある慣れ親しんだ風景を描き続けた。この作品で描かれている「ハリッジ灯台」もロンドンの東海岸にある。展覧会では油彩画のほか、当時人気を博した、コンスタブル作品を原画として制作された銅版画も数多く出品される。


【Information】テート美術館展 光  ─ ターナー、印象派から現代へ

18世紀末から現代までの約200年間におよぶ、「光」を巡るアーティストたちの独創的な創作の軌跡を紹介。絵画、写真、彫刻、素描、インスタレーションなど、約120点中のおよそ100点が日本初出品という貴重な機会。
■7月12日〜10月2日 国立新美術館

※ 10月26日〜2024年1月14日 大阪中之島美術館へ巡回

問い合わせ先

国立新美術館

TEL:050-5541-8600

取材・文 :
剣持亜弥(HATSU)
構成 :
正木 爽・宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)
TAGS: