テリーザ・メイ。2016年7月に、英国76代首相に就任。マーガレット・サッチャーに次いで英国2番目の英国保守党の女性党首であり、26年ぶりの女性首相である。

ブレグジッド(欧州連合離脱)の国民投票の結果を踏まえ、キャメロン首相の辞意を受け、首相に選出された。マーガレット・サッチャーが「鉄の女」と呼ばれたように、メイ首相は議員仲間と深い付き合いや、しがらみを好まず、「氷の女王」という呼称で呼ばれている。

テリーザ・メイ

年齢に見合った引き締まった体こそ、おしゃれな着こなしの基本

EU離脱という難題を最初から抱えたスタートであるが、なぜか注目されるのは、国際会議や首脳会談のときのメイ首相の「靴」ばかり。国際的な大問題を抱えながら、内容の進捗状況よりも、外見が注目されるのは、ひとつはそれほど目立つ靴を履いているということ。ふたつ目は、会談の内容の進展に恐ろしく時間がかかり、ヘッドラインを飾るような大きな成果が見えづらく、目につきやすいファッションの話がでてくるという筋書きではないだろうか。

だが、靴が話題になるというのは、履く脚がまた綺麗ということでもある。自信がある部分を強調するのがファッションの基本であるからだ。

最近このコラムを書いていて思うことだが、ファッションセンスのよさが賞賛を浴びる政治家やその妻は、ほとんど全員といってよいほど、ボディーラインが整っている。モデル並みのプロポーションという意味ではなく、ヨガやワークアウトなどで体を鍛え、ブリジッド・マクロンや、ミシェル・オバマなどハイヒールからスニーカーまでよく似合う、年齢に見合った引き締まった美しい体つきをしているのだ。これはファッションを着こなすにあたって根源的なことであり、何よりも若々しく健康的に映る。いくつになってもぜひ、見習いたいものだ。

メイ首相は、綺麗な脚の持ち主であるが、ワークアウトやダイエットをしているという話は聞こえてこない。体つきもややふっくらだ。ただ趣味がトレッキングなので、バカンスにはアルプスなどを夫のフィリップとともにトレッキングし、ストレスなく体を鍛えているという言い方が適切だろう。

メイ首相に学ぶ、見栄えのよい着こなしの極意は?

1956年生まれで、現在61歳のメイ首相。ファッションに関しては、マーガレット・サッチャーと比べると、細心な女らしさへのこだわりはあまりないようで、大胆な配色やカラフルなスーツ、大ぶりのアクセサリーなど女性政治家によく見られる、遠くからも見栄えがよく、写真映えのする着こなしが多い。なかでもレッドが最も好みのカラーのようだ。ネイルもエナメルシューズも、イブニングドレスも真紅が目立つ。プーチン大統領との会談も真紅のスーツで臨んでいて、暖色系のオレンジ、ピンク、アメジスト、パープルなど華やかなカラーが公式の場ではよく見られる。

テリーザ・メイ首相とプーチン大統領

エリザベス女王に首相任命の謁見したときの、黒とイエローの堂々とした大きなカラーブロッキングのアンサンブルは話題になったが、メイ首相の大向う映えするファッションへの姿勢がよく見て取れる。この服はお気に入りのようで、黒にブルーという色違いも持っており、外交訪問の折にはよく着られている。

イエローとブラックのドレスが印象的なテリーザ・メイ
ヒョウ柄のパンプス

ブラウンやグレーなどのスーツも場に応じて着ているが、やはり似合うのは華やかなカラーだ。地味な容姿を自覚し、それを引き立たせ、印象づける「戦闘服」的な意味合いのカラフルさではないのだろうか。サッチャーが愛した保守党のカラー「ウルトラマリンブルー」の着こなしも、それほど出番がない。来日した折、安倍首相とともに京都の表千家の不審菴を訪れた際など、真紅のドレスに白のジャケット姿の日の丸を思わせる配色の着こなしであった。

愛用のデザイナーはロンドンンコレクションのメンバーである英国人アマンダ・ウエイクリー。服からジュエリー、ブライダルまで幅広く手がけ、芸能人からロイヤルファミリーまで顧客にセレブリティーが多い。色んなシーンで見かける愛用のチェーンネックレスも彼女のデザインだ。

服に関しては、クリスティーヌ・ラガルドのスカーフやマーガレット・サッチャーのボウブラウスのようなこだわりのアイテムもなく、ジャケットとスーツを多用するグローバルな政治家スタイルと言ってもよいが、ある意味典型的な英国らしい大掴みのスタイルでもある。だがそれを特別に見せ「おしゃれモンスター! テレーザ」と言わしめているのが「靴」の存在感だ。

無類の靴好きであり、靴へのこだわりは、語らずともひと目見れば伝わるほどの迫力だ。昨今パリやミラノのコレクション会場周りでファッションスナップが流行っているが、もしメイ首相が、その場に居合わせたにしても、靴だけフォーカスされて撮影されるのではないかと思うほど、デザイン性の高い靴が好みである。

最初にメイ首相のこだわりが報道されたのは、先にも述べたエリザベス女王へ謁見のときであった。世界が注視する中、大胆な配色のアンサンブルに、ヒョウ柄のオペラパンプスを合わせ、足元に小粋なアクセントを効かせて、おしゃれ感を漂わせたのだ。

それ以降、外交時の演説でのヒョウ柄のバリエーションがどれほどメディアを騒がせたことか。ヒョウ柄にリボン付き、ヒョウ柄とゴールドのパイソンのコンビ、ヒョウ柄をライムグリーンのクロコダイルとレッドのレザーで挟んだコンビなど、いったい、どこのブランド? と訊きたくなるほど派手な靴もある。ロジェ ヴィヴィエなども、クリスタル飾りのデザインを選んでいる。そのほかにもビーズ飾り付きのピンクのコンビ、PVCとの組み合わせなど数え切れないほどのヒョウ柄デザインがローヒールからハイヒールまでそろえられている。

ヒョウ柄とパイソンのシューズ
ヒョウ柄とクロコダイルのシューズ

アニマル素材がモチーフが好みのようで、シンプルなパンプスも、ゼブラ柄や、パイソン、クロコダイル製が多い。パンツスーツにはフラットで歩きやすいメンズタイプのレースアップシューズなども履いているが、かかとには大きなクリスタルやメタルアクセントがついていたりと、必ずプラスアルファの飾りやキラキラがついているのが、メイ首相らしさなのだ。バラの花の刺しゅうや唇モチーフのかわいい靴も黒いパンツスーツなどに合わされていて、女子の心意気が伝わってくる。服を選ぶときは、極めて政治家的な選択眼で、自分らしさの演出は「靴」でということであろう。

スタッズ付きパンプス
唇モチーフのパンプス

現在の政治状況は、保守党にとって決して有利ではない。国を二分した欧州連合離脱という大命題の解決に尽力しながらも、行先がなかなか見えず、次の選挙で、果たして再選なるかという微妙な段階でもある。果たしてマーガレット・サッチャーのように再選なるかは神のみぞ知るが、少なくとも「いつも素敵な靴で楽しませてくれた脚が綺麗な首相」として名前が残ることは、間違いないだろう。政治家であろうと、どのような職業であろうと、どこかにハッとさせられる女らしさを秘めていれば、それは人間的な魅力として、男女を問わず、魅了するものだろうから。

この記事の執筆者
1987年、国際羊毛事務局婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。2000年より情報用語辞典『イミダス』でファッション分野を執筆。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
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AFLO
EDIT :
渋谷香菜子