「取り繕う」は主に「不都合などを隠そうとしてごまかすこと」という意味で使われます。ですから、もしも誰かから「うまく取り繕いましたね!」などと言われたら、それは決してほめ言葉ではありません。むしろ相手はあなたに対して「こういう人なんだ…」と微妙な気持ちを抱いているかもしれませんよ! 今回は「取り繕う」の意味や使い方、「取り繕う人」の心理について解説します。

【目次】

少々古風な響きの言葉です。
少々古風な響きの言葉です。

【「取り繕う」とは何をすること?「読み方」「意味」など【基礎知識】】

■読み方

「取り繕う」は「とりつくろう」と読みます。

■意味

「取り繕う」には3つの意味があります。

1)外見を整えて見栄えをよくする。
2)不都合などを隠そうとしてうわべを飾る。ごまかすこと。

3)間に合わせに修繕する。

「取り繕う」の「とり」は接頭語で、動詞に付いてその動詞の意味や語勢を強める働きがあります。「繕う」には「補修する」「乱れた身なりなどを整える」「体裁をよくする」「具合の悪いことや過失を隠して、うまくその場をとりなす」「病気の手当てをする」などの意味があります。「繕う」の頭に「とり」を付けることで、「間に合わせに」「その場しのぎの」「うわべだけ」といったニュアンスが加わっています。

「取り繕う」は、「根本的な解決」を得た案件に対して使われることはありません。誰かに会う前に取り急ぎ身だしなみを整えたり、自分にとって都合の悪いことや過失などを非難される前にうわべを整えてごまかすなど、その場をしのぐための行為や小賢(こざか)しい行為に対して用いられます。


【「使い方」がわかる「例文」5選】

例文を読むと、どのケースも「根本的な解決」には至っていないことがわかります。「応急処置」的な対応であることが「取り繕う」ことの特徴です。

■1:「来客があると聞き、慌てて化粧室に行きメイクや身なりを取り繕った」

2: 「母は陽気に振る舞うことで落胆を取り繕っていたが、その指先は小さく震えていた」

■3:「引っ越し前日、愛猫が穴を開けたふすまの破れを必死で取り繕った」

■4:「店主が体裁を必死に取り繕っても、その店が経営難にあることは、誰の目にも明らかだった」

■5:「その場は取り繕ってなんとかしのいだとしても、いずれボロが出るだろう。そのとき、彼が周囲からの信頼を失ってしまうことを懸念している」


【「取り繕う」を表す「ことわざ」「言い換え」表現】

■同じような意味の「ことわざ」は?

・猿に烏帽子

「猿に烏帽子」は「猿に烏帽子(昔の成人男子の帽子)を被(かぶ)せる」意から、「人柄にふさわしくないこと」のたとえです。「内容と外観とが一致していないこと」「無理をしてもろくなことがないこと」を表します。

■「言い換え」表現は?

・ごまかす

「ごまかす」とは「だまして、目先や表面を取り繕う。欺き偽る」といった意味の言葉です。「都合の悪いことをごまかす」という意味で「取り繕う」と意味が共通しています。

・その場しのぎ
・その場逃れ
・当座しのぎ
・一時逃れ

このつの言葉は、「なんとかその場だけ取り繕って済ますこと」という意味で共通しています。「しのぎ(=耐えること)」と「逃れ」の相違がありますが、実際には、かなり近い意味で用いられます。

・間に合わせ

「間に合わせ」は「 本来用いるべきでないものを用いて、当面の役に立てること」を意味します。

・正当化する

「正当化」は「自分の言動などを、道理に適っているように見せること」。「うわべを整えてごまかす」といった意味で「取り繕う」と共通した意味になります。

・お茶を濁す

「お茶を濁す」は「その場を繕ってごまかす」こと。


【職場で「取り繕う人」の「心理」と「対処法」】

あなたの職場に「取り繕う人」はいますか?ビジネスシーンにおける「取り繕う」は、自分のミスをごまかそうとしたり、他人のせいにしたり。あるいは言い訳を並べてその場をやり過ごすなど、小賢しく立ち回るタイプの人を指します。物事の根本的な解決には取り組まずに、その場をうまくごまかそうとするのです。「取り繕う人」には、どんな心理が働いているのでしょうか。

■「取り繕う人」の「心理」

・プライドが高いため、他人からよく見られたい

・ありのままの自分を受け入れられない

・自分に自信がない

・長期的な視野をもたず、目先のトラブルを少しでも先送りにしたい

■自分が「取り繕う人」になってしまったら…「対処法」は?

「取り繕う」行為は、あくまでその場しのぎです。根本的な解決にはなりませんから、問題を先送りしているだけとも言えます。小さな失敗を人に知られたくないとか、実際以上に自分をよく見せたいという気持ちは、多かれ少なかれ誰にでもあるものですが、常に小手先で誤魔化すクセがついてしまうと、「失敗から学ぶ」あるいは「自分の欠点を克服する」チャンスを失ってしまいます。さらに、周囲から「取り繕う人」というレッテルを貼られてしまうと、信用は失われます。「取り繕う人」には、「ズルい人」「不誠実な人」「卑怯な人」といったイメージがまといつくからです。「取り繕う人」になってしまった自分を変えるには、どうしたらよいのでしょうか。

・自分のことだけでなく、周囲の人、所属するチームのためになる行動を考えてみる

・自分の過失や欠点を認め、自分を受け入れる

・その場を収めるための「ウソ」はつかない

自分自身に対して、そして周囲の人に対して誠実であろうと努めること。思いやりの心を改めて大切にすることで、「取り繕う」行動を変えていけるのではないでしょうか。

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「取り繕う」ことは、言い換えれば「問題の先送り」「ごまかし」です。その場のノリで、つい話を盛ってしまうのは誰にでもあることですが、それがたび重なると、周囲からの信用を失ってしまいかねません。一度失ってしまった信用を回復するまでには、多大な努力が必要です。もしも「取り繕ってしまった自分」に気付くたときは、素直にそれを認めてやり直す勇気をもちたいものですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :