多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、大切な「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。第11回は、2018年1月にオープンした大手町の「アルヴァ」をご紹介します。

「アマン」が辿り着いた、タイムレスな食空間

「ひとりで軽くワインと食事」「友だちと集まってわいわいランチ」「ロマンティックな記念日ディナー」「アテンドで海外からのゲストと食事」「大切なクライアントとの会食」「年齢層が広い家族の集まり」。私たちがレストランを利用するシーンは、メンバーも目的も多岐に渡ります。幅広いレンジのニーズに応える上質なレストランを探すのは至難の業……そう思っていましたが、先日、唸ってしまうお店を見つけてしまいました。場所は地上33階、東京屈指の眺望を誇る「アマン東京」のメインダイニング。

天井高8m、端から端まで約40mとダイナミックな空間が広がる店内。写真向かって右側は一面の窓、突き当たりには約1,200本をストックするワインセラー。イタリアを中心に各国のワインがそろいます。シャンパン以外のグラスワイン(泡1種類、白・赤それぞれ4種類)はすべてイタリア産(グラス¥1,900〜、ボトル¥9,000〜)。料理に合わせたペアリングコースも相談可能です。
ダイニングフロアの上階には「桜」「檜」「椛」など日本の花や木の名前がつけられた個室が5つ。格子など和の意匠を施した空間から東京の街並みを眺めることができます。晴れた日には富士山の姿も。

店名はラテン語でHarvest(収穫)の語源となる「アルヴァ」。旬の食材をいかしたシンプルな料理を親しい人たちと分かち合うイタリアの食文化にインスパイアされて誕生したイタリアンレストランです。

その土地の個性を融合したホテルづくりとパーソナルなおもてなしを特徴とする、小規模なラグジュアリーホテルグループ「アマン」。独自の哲学をもつ「アマン」が追求した食の空間は、オーセンティックな料理を提供する、トレンドに左右されないタイムレスなダイニング。「アルヴァ」はグループ全体で始まった新しいコンセプトで、「アマン ヴェニス」を皮切りに世界各地の「アマン」に反映されつつあります。そのなかでも、1988年の「アマンプリ」誕生から30年という記念すべき節目に誕生したのが「アマン東京」の「アルヴァ」。

日本とイタリア、ふたつの土地がもたらす恵みを凝縮

シェフを務めるのは、イタリアで17年を過ごした平木正和さん。最初の4年をミラノ、トリノ、ローマなど各地のさまざまな業態のレストランで修行し、以降の13年はヴェネチアに拠点を移して5つ星ホテル「バウアー・ホテル」に勤務。最後の3年は同ホテルで総料理長を務めた、現地での経験豊かなシェフです。

「自分にとってイタリア料理の魅力は素朴であることと、何より素材を重視する点。東京にはイノベーティブでモダンなイタリア料理を提供するところも多いなか、自分がつくりたいのは奇を衒わない、素朴なマンマの味。その土地らしさを大切にする『アマン』なので、もちろん日本の素晴らしい食材もふんだんに使いますが、イタリアの伝統的な加工食品は不可欠。和食でいえば出汁のようなものですね。例えばグアンチャーレ、アンチョビ、チーズ……これらなしに現地の食文化を伝える料理は完成しません。逆に、これを基本に据えれば、ぐっと本場の味を引き寄せることができます」

世界の『アマン』に広がる『アルヴァ』の料理は、その土地とイタリアの恵みを融合したもの。それぞれのメニューはまったく異なります。ここでは日本とイタリアの食材を活かしながら、マンマの味を家庭料理の域から出して、レストランの料理として提供したいですね」(平木さん)

「アマン東京」の総料理長も務める平木シェフ。全12席からなるシェフズカウンターにはプンタレッレやラディッキオ・ロッソ・ディ・トレビーゾ・タルディーボといったイタリア野菜をはじめ、土や葉付きの野菜が並びます。東京に数多ホテルはあれど、総料理長とこの距離感で接することができる場所はなかなか見つからないでしょう。

食材と並ぶ「アルヴァ」の大きな特徴が、厨房の前に並ぶ「シェフズカウンター」。「アマン」の真髄であるパーソナルなおもてなしの象徴ともいえるスペースです。平木シェフの「定位置」はこのカウンター。ここで食材や料理について説明するほか、メニューにない1品をさっとつくって出すことも。敷居の高いイメージがある「シェフズテーブル」と違い、ひとりで気軽に訪れることができるカウンターなのがポイント。これを「アマン」の非日常感とクオリティーをもって実現してしまうところが素晴らしいですよね。

「料理人が表に出てお客様と顔を合わせることは、自分たちへの刺激とよい意味でのプレッシャーになります。誠実な料理を提供しなければ、自分たちに跳ね返ってきますから。ホテルやファインダイニングに感じる堅苦しさを取り払うのも狙い。心からリラックスして、精神的な贅沢も楽しんでいただきたいと思っています」(平木さん)

即興的に登場する、メニューにないサプライズの1品。イタリア産のプンタレッレに平木シェフ思い出のバーニャカウダソースを添えて。「イタリアに渡ったばかりのころに感動した味。山奥で家族経営する小さなレストランのマンマのレシピをもとにしています。シンプルですがとにかく時間をかけてていねいにつくるソースで、『これが本物の味だ』と衝撃を受けました」(平木さん)。

シンプルなぶん、じっくり手間暇をかけた料理

「アマン」の哲学と平木シェフのイタリア経験を掛け算して生まれるのは、「最上の素朴」とでもいうべき料理たち。前述の通り、食材は日本各地とイタリアから。その土地の独自性を大切にする「アマン」と、イタリアのものでなくては出せない味があることを熟知するシェフのベストな解がここにあります。ホワイトアスパラガスを使った春のメニューも然り。岩手のアスパラガス、相模原の有精卵、サルデーニャのボッタルガがひと皿の上で温かく響き合います。

3月末〜4月初旬にかけてお目見えする「ホワイトアスパラガスと相模原産有精卵 ボッタルガ」。コース「RACCOLTA(収穫)」(1名¥14,000/2名からオーダー可能)の前菜として登場するほか、アラカルト¥3,000でも提供。

一方、味の引き出し方は完全にイタリア流だとシェフは語ります。「しゃきっとした食感を残すのではなく、ゆっくり火を入れてやわらかく仕上げます。これはホワイトアスパラガスの甘みをしっかり引き出して、ボッタルガの塩味と共に食べていただく料理。アスパラガスというとパルミジャーノが定番ですが、ボッタルガで春の瑞々しさを表現しました」(平木さん)。

味のベースとなる部分はイタリアの基本に則り、そのうえで食材をいかすためのオリジナリティーを加える……これが「アルヴァ」の料理といえましょう。素朴な料理だからといって工程が少ないかといえば、それは大間違い。「シンプルですが、そのぶん手間暇をかけています。例えば、7、8種類ほどご用意しているパスタもほぼ自家製。味のために時間も手間も厭わない、イタリアの昔ながらの製法でつくっています」(平木さん)。

鳥取産の猪に自家製手打ちパスタを絡めた「パッパルデッレ 猪のラグーとトリュフ」。いくつかのコースで登場するほか、アラカルトでも注文可能です(Sサイズ¥2,200、Mサイズ¥3,100)。

こちらはトスカーナの代表的な料理、猪の煮込みパスタ。ドライポルチーニやグアンチャーレで味に深みを出し、仕上げにはトリュフと24か月熟成のパルミジャーノ・レッジャーノ。もう、食欲をそそられざるをえない組み合わせ!  このほか、アラカルトの手打ちパスタにはラビオリやトロフィエ、ビーゴリなどもラインナップ。それぞれポーションが2種類あってボリュームを調整できるのも特筆。「ワイン1杯とパスタ、そんな使い方も大歓迎です」というシェフの言葉もうれしい限り。

つくり手の顔が見える、インタラクティブなサービス

サービスも「アルヴァ」の要。ホテルのメインダイニングたる上質なサービスは大前提として、温かみのある「崩し」に「アマン」らしさが表れています。その最たる例がディナーのコース「RACCOLTA(収穫)」。

「RACCOLTA(収穫)」コースの魚料理から「カマスのグリル カリフラワーのアッローストとアッチューガ」(2名分)。千葉産のカリフラワーは豪快に丸ごとひとつ! 2時間ローストしてスプーンで分けられるほど柔らかくなったカリフラワーにアンチョビバターを詰め、バターがとろっとしたらガーリックトーストを加えて食感にアクセントをつけて。口のなかでほろっと崩れるカリフラワーの甘みと、香草を効かせたカマスのほどよい塩味がマッチします。
「カマスのグリル」はストウブ鍋でテーブルに登場し、その場でシェフが仕上げてサーブ。

シェアして楽しむこのコースは2名から注文可能。なかでもメイン料理はシェフやスタッフがゲストとの会話を楽しみながらテーブルで取り分けるスタイル。「カマスのグリル」は熱々のストウブ鍋とともにテーブルに登場し、その場でシェフが仕上げてサーブします。先に登場したボッタルガやトリュフ、チーズによる仕上げもシェフがゲストの目の前で行うのが基本。料理のほか、食材を説明するためシェフがテーブルに赴くこともしばしば。料理のもと顔を合わせ、言葉を交わす。一方通行に終わらないインタラクティブなサービスが「アルヴァ」流です。

食事の最後に登場するおまけのデザートも、「アルヴァ」ならではのお楽しみ。自家製アイスクリームをパティシエが昔ながらの手動マシンでつくり、自らサーブします(アイスクリームはランチ/ディナー、コース/アラカルト問わず、食事された方全員に提供されるおまけのデザート。コースには別途デザートが含まれています)。

木樽に氷を詰めたシンプルなマシンでアイスクリームをサーブするパティシエ、中山和博さん。「おいしさの秘密? おいしくなりますようにと念じながら回すことです(笑)」。

手でレバーを回し、約20分かけてつくるアイスクリーム。提供する際はパティシエが木樽のマシンと共にテーブルまで訪れ、目の前で仕上げてからミニコーンに盛ってサーブします。できたてのアイスクリームは、いい意味でなめらかすぎないシャリシャリとした食感で、噛むほどにバジルの香りが爽やかに広がります(ミルクなどほかのフレーバーが登場することも)。食事の最後にさっぱりと口のなかをリフレッシュしてくれるデザートは、改めて「アルヴァ」に流れる温かな時間を再確認させてくれます。ホテルのダイニングに少し緊張して足を踏み入れた方も、いつのまにか自分がすっかり寛いでいたことに気づくことでしょう。

「料理もサービスもより柔軟な形にしていきたいと思っています。コースのメニューは大まかに2か月に1度変わりますが、その時々の旬の食材に合わせてメニューを細かくチェンジしたり、お客様とのお話のなかで料理を即興でつくってお出ししたり。よりパーソナルでライブ感のあるおもてなしがしたいですね」(平木さん)

冒頭に挙げたように、レストランを利用する目的はさまざま。オンもオフも、ひとりでも大人数でも、「アマン」が誇る世界最高峰のクオリティーとホスピタリティーをもって対応してくれるのが「アルヴァ」。日本とイタリアの恵みが温かく交差するこの場所は、無数の飲食店がひしめく東京にあっても、きらきらとまばゆい光を放ちます。

問い合わせ先

  • アルヴァ 
    営業時間/11:30〜14:30、17:30〜22:00(LO)
    定休日/なし
    ランチはコースのみ(¥4,200、¥4,900、¥6,900)、ディナーはコース(¥9,000、¥17,000、2名から注文可能な¥14,000の3種類)のほかアラカルトあり(¥1,300〜)
    全132席(うち個室5室/8〜10名まで対応)
    TEL:03-5224-3339(「アマン東京」レストラン予約番号)
    住所/東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー アマン東京33F

この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
竹之内祐幸
EDIT&WRITING :
門前直子