柔らかくしなやかに歩み続けて、自分を更新していく
Preciousの表紙キャラクター卒業から3年半。昨年は日本とフランスの二拠点生活を始め、感性豊かなその暮らしも注目される杏さん。今、変化を楽しみながら、新たな領域へ進む心の軌跡は―。
「できない」を認めたら、楽になって丸くなれた
世界の映画界で活躍する女性監督と女優が集結した話題の映画、『私たちの声』。杏さんが演じたのは、子供たちを育てるため、毎日休みなく働くシングルマザーだ。朝から晩まで仕事・家事・育児と忙しなく立ち回り、日が変わった頃、電池が切れたように眠りに落ちる―。ごく自然体で繰り返される日々が、日本の女性に課せられてきた “当たり前” を静かに映し出す。
「“私たち女性って、大変だよね” “母親はこんな思いをしてるんだ” と声高に語るのではなく、ただ日常を描く。だからこそ、客観的に自分たちを見つめられるし、観る方も何を受け取るかゆったりと幅をもてるのではないか、というお話を呉 美保監督とさせていただいて。淡々としたなかにもドラマが明確にあり、それゆえに伝わるものがあると感じました」
自身も3人の子育てに奮闘する母。’22 年から日本とパリの二拠点生活に。
「フランスは、子供の時間ありきで仕事をしていくのが当たり前…という社会で。というのも、日本ほど治安がよくないので、小学生まで保護者が一緒でないと、外を歩けず家にもいられないんです。大変でもあり、安心でもあり。そのぶん、親子の時間は少し増やせたのかなと」
YouTubeでは、異国の地で友人たちの助けを借りながら試行錯誤する様子も配信。飾らない姿に、温かな応援コメントが数多く寄せられている。
「今まではギリギリまで自分でやらなきゃと抱えていたのですが、『ひとりではできないな』と割り切ったら、すごく楽になりました。丸くなったのかな。いい意味で “おばちゃん力” がついてきて、『ごめんなさいねぇ』と、少し肩の力を抜いて周りの人を頼れるように。それでも大変なときに思うのは、戦国時代よりはマシだ、ということ。何かと比べるのはよくない側面もあるけれど、現代は電気もある、大した悩みじゃない、と(笑)。とはいえ、セルフケアが必要になってくる年齢。家族優先で自分への注意が薄れがちなので、体から見えない信号を感じ取ったら、早めに休むようにしています」
「おもしろいことには果敢に飛び込んでいきたい。いつか自分自身の評価で戻ってきたい場所にも出合えました」
本作では、主題歌が米アカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、杏さんもLAで授賞式に出席。世界最高峰の祭典が放つ大きなうねりを肌で感じたとか。
「俳優の仕事はオファーあってこそ。この先の自分の演技は予想できないものですが、何かおもしろいことをやりたいなとは常に思っています。多言語などのハードルがあったとしても、オファーしていただける可能性があるなら、果敢に飛び込んでいきたい。いつか、自分自身の評価であの舞台に戻ってきたいです」
■映画『私たちの声』
現在、WOWOW国際共同制作・映画『私たちの声』が新宿ピカデリーほか、全国公開中。本作は、世界各地で人生の難局に立ち向かう女性を主人公にした7つのショートストーリー。杏さん主演の『私の一週間』は、日本の情緒溢れる家族の姿が切なくも愛しい。
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- 三宮幹史(TRIVAL)
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- EDIT :
- 福本絵里香(Precious)
- 取材・文 :
- 佐藤久美子