Precious本誌10月号では、パリと日本の二拠点生活や新たな心境の変化を語ってくれた俳優・杏さん。現在公開中の映画『私たちの声』では、ふたりの子供をもつシングルマザー・ユキを演じています。自身も3人の子育てに奮闘しながら、どのように仕事に向き合っているのか。作品への想いと日々の工夫をうかがいました。

俳優の杏さん
ドレス¥544,500・ブーティ¥253,000/共に予定価格・ピアス¥83,600(フェンディ ジャパン)
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杏さん
俳優
(あん) 1986年、東京都生まれ。'01年モデルとしてデビュー。'05年から海外のプレタポルテコレクションで活躍。'07年に俳優デビューし、近年では映画『キングダム 運命の炎』に出演するなど、俳優業を中心に、ナレーターや声優など多彩に活躍。2022年からは、3人の子供と共に日本とパリの二拠点生活を送る。

ふっと息をつくわずかな瞬間に、込み上げる感情がある

――アメリカやイタリア、インド、日本と世界各地を舞台に人生の困難に立ち向かう女性の姿を7 つの物語で綴り、国連がその趣旨に大きく賛同したことでも注目を集めた本作。杏さん主演の『私の一週間』は、日本の情緒溢れる家族の姿が切なくも愛しく、胸に迫るものがありました。このプロジェクトに参加した理由は?

「いい部分ももちろんあるけれども、日本では、こと育児や家事という領域では女性の負担や背負う部分がかなり大きいのではないのかなと思います。本作は、子をもつ母の多忙な日常を過剰にドラマティックにするのでもなく、普通の物語として描く点がすごく素敵だなと感じて。参加できたらうれしいなと思い、オファーを受けさせていただきました」

インタビュー_1
NYの国連総会ホールで試写会が許された稀有な映画作品『私たちの声』に、主演のひとりとして参加した杏さん

――子育てを経験した人なら、誰もが自分ごとに感じるであろう目まぐるしい一週間が描かれていますね。

「お風呂もトイレも、自分が行きたいタイミングでは行けない、食べられる食材の種類も限られる。ふっと息をつける瞬間は、たとえば自転車で移動しているちょっとしたひとり時間くらい。そういう時に込み上げてくる感情があって、それがすごくリアルだなと感じました。今まさに子育てをがんばっている方が主人公の姿を通して気づくこともあるかもしれないし、子供と接する機会の少ない人や海外に住む人に対しても、日本のお母さんがどんな生活をしているのかを描けたことは、すごく意味のあることなのかなと思います」

――杏さんご自身はフランスでも暮らすようになって、「今まではがんばっていたけど、力を入れなくてもいいかな」と思えたことはありますか?

「料理ですね。現地の方に話を聞くと朝は火を使わないのがスタンダードのようで、ヨーグルトとパンですませたり、ビスケットを牛乳に浸して食べたり。あとは調理方法も『茹でる』とか『焼く』といった複数の工程を踏まずに、『オーブンで焼くだけで完了!』というシンプルなものが多くて。日本に帰ってじっくり料理をするのも楽しいのですが、フランスではキッチンでずっと細々何かをしている…ということが減りました」

――ユキの役を通して気づいたことは?

「自転車移動の大変さでしょうか。私は子供が3人いるので、道路交通法のルール上、車で移動せざるをえなかったのですが、寒い日も暑い日も、雨の中も、子供を乗せてさらに買い物をして自転車で走る難しさを身をもって知りました。状況によっては、身動きがとれなくなってしまう人もいるのではないかと。なんとかしたい問題だと思うのですが、時間がたてば子供は育ってやり過ごせてしまうので、なかなか負担が是正されづらいのかもしれません」

――物語の中では、子供たちのふるまいがユキの心に変化をもたらします。杏さんはお子さんにハッとさせられたことはありますか?

「小さなことは日々たくさん。ふいにお手紙をくれたときなど、誰に言われるでもなく、本人が自発的に書いたものというのはやはりすごく刺さるなぁと感じます。子供が描く絵の顔が笑っているのも、うれしいものですね。それが私であっても、他の人や動物でも。というのも、姉弟でケンカをしているときは、不穏な言葉を書いて怒った顔をしているんです(笑)。心のバロメーターなんだなと」

俳優の杏さん
子供が描く絵の顔が笑っているのはうれしいものです。(杏さん)

――子育てを楽しむ日常が伝わってきますが、「もう無理だな」「どうしよう」と思われることもあるのでしょうか?

「ありますね。『ちょっとごめん、無理かも。別の部屋に行ってきていいかな』と子供に伝えたことも。これは子供たちが原因だった場合に限ってですけれど、あまりに姉弟ゲンカが続き、仲裁しすぎて疲れ果てまして(笑)。いったん距離を置いてみました」

――多忙な毎日に、自分時間はどのように確保されていますか?

「仕事関係の準備は基本的に夜に。本作の撮影に向けては、セリフはまず書いて少し眠って、4時、5時台の明け方に犬の散歩しながら覚える…というスタイルでした。私はショートスリーパーなので寝なくてもけっこう平気で動けるのですが、ギリギリまで続けると気絶するように眠ってしまうことも。最近は、そうなる前に先んじてケアするよう気をつけています。

プライベートでは、時間づくりがうまいタイプではなくて。本心ではヨガの教室や語学学校に通いたいけれど、実際は子供が寝た後にオンラインで動画を見ながらレッスンを受けるくらい。子供が急に熱を出すこともありますし、計画的に進めるより予定は流動するものだと捉えて、隙間時間を日々やりくりしています」

――YouTubeで発信されている暮らしには、人とのつながりを大切にする、穏やかな杏さんのお人柄が表れていると感じます。制作は、プライベートの延長でリラックスできているものですか?

「何かしらを伝えようとはしているので、必ずしも力を抜けるわけではないのですが、本当にいろんな方が見てくださっているんだなと実感しています。コメントでは感想やご自身のことを気さくに伝えてくださるなど、ここは本当にネット空間なのだろうかと思うほど皆さん優しい。温かな場に癒やしをもらっています」


同じ子をもつ母として、自身の体験も活かしながら撮影にのぞんだという杏さんの新作。様々な国の生活や文化、抱えている問題などにも学びがあります。ぜひ劇場で体感を!

■映画『私たちの声』2023年9月1日(金)より全国公開中!

出演:ジェニファー・ハドソン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、カーラ・デルヴィーニュ、エヴァ・ロンゴリア、杏、マルゲリータ・ブイ、ジャクリーン・フェルナンデス
原題: Tell it like a woman
製作・企画・プロデュース:WOWOW
配給:ショウゲート

公式サイト

「映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける」というスローガンに賛同したキャスト&スタッフたちが世界中から集結。実際の出来事に着想を得たエピソードから、物語仕立てのフィクション、アニメーションまで、7つの珠玉のヒューマンドラマに仕上げた。仕事や家庭、人間関係、メンタルなど様々な人生の難局に立ち向かう主人公たちの姿は、どこか自分と重なって見えたり、新たな視点に気づくことができたり。女性のエンパワーメントやジェンダーの多様性が叫ばれる現代に、一石を投じる。

杏さんが主演を務めた『私の一週間』は、『そこのみにて光輝く』が国内外で高い評価を受けた呉美保監督がメガホンをとり、子育てと仕事に追われるシングルマザーの多忙なルーティンを自然体で表現。子供たちとのやりとりに心温まる。主題歌『Applause』は、第95回アカデミー賞歌曲賞にノミネート。そのタイトルどおり、観る者の心にも〝喝采〟を送り、今を生きる人々の背中をそっと押してくれる。

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WRITING :
佐藤久美子