今、個性あふれる日本のホテルが面白い!今訪れたい、「デスティネーション・ホテル」|この秋は、自分の希望がかたちになった場所へ
あぁ、旅に出たい。やっと自由にどこへでも行ける、という解放感と共にこの秋、旅への熱は、ますます高まっているのではないでしょうか。
日本の風土を味わう一棟貸しや、地域密着型リゾート、心躍る体験型施設や日本初上陸のラグジュアリーホテルまで。今、世界が注目する「デスティネーション=目的地」は日本のホテル、といっても過言ではありません。豊かな自然や絶景を堪能しに、そこでしか味わえない食を求めて、アートや建築を愛でに、ひとり静かな時間を過ごしに…。
今回は、静岡県・沼津市の隠れ家的ホテル「沼津倶楽部」をご紹介します。
静岡・沼津「沼津倶楽部」の美しい水盤と数寄屋建築
名建築に身を委ね静けさを慈しむ贅沢な時間
富士山と駿河湾を望み、日本百景のひとつでもある静岡県沼津の千本松原。東京から車で約2時間ということもあって別荘地として栄え、旧御用邸をはじめ、文人や名士たちの邸宅が多く見られます。
今年6月にリニューアルオープンした「沼津倶楽部」は、そんな風光明媚な場所にひっそり佇む隠れ家的ホテル。約3000坪の庭園の中に、国の有形文化財に登録された数寄屋造りの建物と、「二期倶楽部」などを手掛けた名建築家・渡辺明設計のモダンな宿泊棟が並びます。
遡れば、大正2(1913)年、ミツワ石鹸二代目社長・三輪善兵衛がこの千本松原に別荘を建てたことから始まります。生粋の趣味人で、茶人だった善兵衛は「千人茶会を催したい」と、すべての部屋が茶室になる数寄屋造りの別邸(茶亭)をつくりました。戦時下には将校たちの休息所に、戦後は政治家の集う場として利用されるなどの歴史をもつ別邸は、2006年、老朽化対策の補修がなされ、その際、新たに宿泊棟が増築されました。
到着すると、手入れのゆき届いた庭と茅葺屋根の長屋門がお出迎え。夫婦松と呼ばれる不思議な松の下をくぐり抜けると、数寄屋造りの茶亭と向き合うように建つ土壁のモダンな別邸が。ゆったりと流れる静かな時間の始まりを感じます。
圧巻なのは、客室の前に広がる穏やかな水盤! 水面に映る四季折々の木々や、朝昼夜、刻々と変化する空の色を眺め、吹き抜ける風を感じるだけでも、「ここに来てよかった」と実感するはず。
名建築に滞在し、鳥のさえずりや松の木の葉擦れ、わずかに届く波音を聞きながら、静けさを楽しむ。大人の女性のホテルステイの醍醐味がそこにあります。
客室はわずか8室。小上がりを配した和室や、和洋混在のメゾネットなど5タイプあり、すべての客室から水盤を見ることができる。
高い天井が開放的なロビーの目前にも水盤が。富士川の砂と土を積層させた「版築(はんちく)」という伝統工法を採用した壁は、思わず触れたくなる温もりと美しさで、モダンなインテリアとも調和している。
リニューアル時に誕生した「沼津スイート」。京都の西陣織の老舗「HOSOO」が内装を手掛け、西陣織のテキスタイルを使ったファブリックやアートなどが随所に。
茶亭の「昭和の間」。和洋折衷の空間に、大正時代から受け継がれてきた家具が並ぶ。庭を眺めながらティータイムも楽しめる。美しい網代天井にも注目。
茶亭のメインダイニング。匠の技が光る内装も当時のまま。
リニューアル時にもうひとつ茶亭に誕生したのが、鎌倉「イチリンハナレ」の齋藤宏文シェフが監修するモダンチャイニーズレストラン。夕食は、沼津港の魚介類など地元の豊かな食材を使ったコース料理が楽しめる。写真はスペシャリテの「よだれ鶏」。醤油と黒酢をベースに2種類の辣油、胡麻などでつくられた名物のたれを、鶏肉→餃子→麺と三段活用で楽しむ遊び心溢れる逸品。
ウエルカムドリンクは静岡名物の緑茶と地元で人気のパティスリー「苺いちえ」の半熟チーズタルト。
茶亭の一室。かつては善兵衛の書斎だったと資料に残るが、現在は見学のみ。
客室には檜風呂があるが、宿泊棟にはスパも完備。内風呂と露天風呂、サウナや岩盤浴も楽しめる。
玄関口の長屋門。こちらも国登録有形文化財。
茶亭の入口には、宿泊者専用のバーカウンターも。
ロビーの美しい照明。
撮影時、庭園には随所に栗が。
【DATA】静岡・沼津「沼津倶楽部」
静岡県沼津市千本郷林1907-8
TEL:055-954-6611
¥53,000〜(1泊2食付き、2名利用時1名料金)
●おすすめの過ごし方
部屋で水盤を眺めながら、お酒やお茶を楽しんで。
客室冷蔵庫内にある静岡県のクラフトビールや、緑茶を使ったオリジナルカクテルなどはすべて無料。
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- PHOTO :
- 川上輝明(bean)
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)