「歴史上の人物で彼以上の策士はいないだろう」「相手はなかなかの策士だから油断できない」…こんなふうに使われる「策士」という言葉の意味を正しく理解していますか? 「ネガティブなイメージがあるからビジネスでは使いづらい」と感じている人もいるでしょうか。今回はこの「策士」の使い方についておさらいしましょう。

【目次】

策士とは悪口になる?
「キミって策士だね」と言われたら喜ぶべき?

【「策士」は悪口?「読み方」「意味」など基礎知識】

■読み方

「策士」は「さくし」と読みます。

■意味

はかりごとを巧みにする人、策略に富んだ人のことを「策士」といいます。

はかりごとを漢字にすると「謀」に。これはどういう語かというと、「物事がうまくいくように、また、ほかを騙(だま)そうとして前もって考えた手段、方法。計略。もくろみ」という意味が。「陰謀(いんぼう)」や「謀反(むほん)」「謀略(ぼうりゃく)」「首謀(しゅぼう)」などたくさんの熟語があって、ほとんどはネガティブワードですが、「謀」という語自体には「懸念すること。気がかりなこと」や「あれこれと工夫してみること。工面。創意。思いつき」などの意味もあります。

■「悪口」と言われる理由は?

「彼は策士だ」「またしてもあの策士にやられた!」こんな文脈での「策士」は、よくは思われていない人を指していることがわかりますね。ではなぜでしょう? 目的を達成するのは仕事の基本、そのための手段を創意工夫するのはビジネスパーソンとして正しい在り方です。しかし「策士」は「騙す」「蹴落とす」「欺(あざむ)く」などの策をとることがあるため、他者からよく思われないことも。悪口とまでは言わなくても、ネガティブな感情を込めて使われることが多いようです。


【具体的にどんな人?】

では、仕事において「策士」と言われる人の特徴をあげてみましょう。

1)冷静で臨機応変

はかりごとを巧みにする人、策略に富んだ人である「策士」の特徴は、第一に「常に冷静でいられる」ことが挙げられます。策を練るにも最高のパフォーマンスを実現するためにも、もてる力やスキルを発揮できるか否かが肝心。周囲をよく観察し、的確な状況判断をすることで、他者を上回るパフォーマンスが可能になるのです。感情に左右されないので「冷たい人」「ドライな人」とも思われがちですが、臨機応変に対応できる人が「策士」であるとも言えるでしょう。

2)頭の回転が速く論理的

他人を欺くこともいといませんが、それは目的達成のため。やみくもに頑張る人とは対照的に、策士と言われる人は物事を理論的に考え行動する能力に長けています。したがって、他者は「頼りになる」「賢い」という印象を与えることも。群れるのは好まないので「チームの一員」としては難しいこともありそうですが、「陰のチームリーダー」や「営業職」にはうってつけです。

3)向上心がある

現状に満足することはなく、常にさらなる上を目指しています。プロジェクトの成功や新製品のヒットというような成果だけでなく、昇給や昇進に関しても意欲的。ただ待つのではなく、いかに効率的に上昇していくかということについてもしっかり戦略を立てられます。

4)コミュニケーション能力に長けている

1で「冷たい」「ドライ」という特徴も挙げましたが、実はコミュ力が高いのも「策士」の大きな特徴です。人脈が広く、なかでも自分の利益になりそうな人や都合のいい人に取り入る能力は天才級! いわゆる「根まわし上手」ですが、実はその能力を発揮して宴会上手だったり、楽しい人という印象をもたれることも。このように「策士」と言われる人の特徴を分析してみると、「悪い人」「嫌な人」というより、「一緒にいると役に立ちそう」「頼もしい」などと好印象をもつかもしれませんね。 「策士」は人付き合いや駆け引きが上手なので、味方につけるべき人でもあるのです。

5)例えばこんな人が「策士」です

歴史上の人物で「策士」といわれる人の2トップは、黒田官兵衛(くろだかんべえ)と諸葛亮(しょかつりょう)でしょう。黒田官兵衛は、織田信長から中国攻めを命じられた豊臣秀吉から頼りされた人物。備中高松城を落とすため、城の周囲に8メートルというとんでもない高さの堤防をつくって川の水を堰き止め、梅雨の大雨に城を水没させました。2014年放送の大河ドラマ『軍師官兵衛』では、主人公・黒田官兵衛を岡田准一さんが演じて話題にもなりました。一方、諸葛亮は、中国三国時代の蜀(しょく)の軍師です。中国の興亡史であり歴史書でもある『三国志』の主要人物で、漫画や小説、ゲームで知っている人も多いのでは? 諸葛孔明(しょかつこうめい)の名前のほうがなじみがあるかもしれませんね。


「策士」という言葉の使い方がわかる「例文」3選

■1:「異動してくる○○さん、策士と評判だけど部長とうまくやれるかな…」

■2:「口がうまいとか根回し上手なだけでなく、能力があって努力もしている人こそ本物の策士だ」

■3:「周囲の状況を見極めて分析し、的確な判断を下すことができる策士が必要だ」


【「類語」「言い換え」「ことわざ」】

■策略家

■凄腕

■戦術家

■術士(じゅつし)

「策士」の類語には、「策略家」「凄腕」「戦術家」「術士」などがあります。「策士」をネガティブな意味で使うことがあるので、仕事の場やメールなどでは気を付けて。「戦略的」や「頭の回転が速い」などに言い換えるのも一案です。

■策士、策に溺れる

「策士、策に溺れる(さくし、さくにおぼれる)」ということわざは、「策士であるほど自分の策略に自信があり、かえって失敗する」ということ。「策士、策に倒れる」ともいいますが、「策士、才に溺れる」や「策士、策に敗れる」は誤りです。


【「策士」は英語でどう表現する?】

策士は駆け引きが上手な人、戦術家という意味から[a resourceful person][a tactician]が当てはまります。また、悪だくみをする人だと[a schemer]や[a wily person]に。また、「策士、策に溺れる」は[It is the deceitful man who most often falls into the snares of deceit.]というようですよ。

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「策士」は悪い意味だけではありませんでした。味方につけると頼もしい人でもありますね。ただし「恋愛策士」にはご注意を~!

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