「酉の市」という言葉を聞いたことがありますか? 「神社」「熊手」「商売」などのキーワードが思い浮かんだら大正解。今回は、11月の話題として知っておきたい「酉の市」について、さくっと解説します。

【目次】

酉の市新宿いつどこで
江戸っ子が好きな威勢と見栄も「酉の市」名物です!

「酉の市」とは?「読み方」「意味」「起源」など基礎知識】

■読み方

「酉の市」と書いて「とりのいち」と読みます。

「酉」は十二支のひとつです。江戸時代は1日を2時間ずつにして十二支を割り当て、現在の午後6時前後(5時から7時)を「酉の刻(とりのこく)」や「酉の時(とりのとき)」と呼びました。時代小説や時代劇によく出てきますよね。

■どんなもの?

毎年、酉の日に、関東の鷲神社(おおとりじんじゃ/大鳥神社)などで行われる、開運招福・商売繁盛を願う「酉の市」。古くは「酉のまち」や「おとりさま」などとも呼ばれました。

■起源

関東に点在する鷲神社(大鳥神社)は、武運や商売繁盛の神として信仰される日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀ります。本社は大阪府堺市の大鳥神社といわれていますが、由緒や関係は明らかではありません。この鷲神社(大鳥神社)などで江戸時代から続く一大行事が「酉の市」なのです。

■歴史

「酉の市」の発祥は、東京都足立区花畑にある大鷲神社(おおとりじんじゃ)のよう。東征の帰路に当地に本陣を置いた日本武尊は、盗賊に苦しめられていた人々を救済。その善行に厚く感謝し、日本武尊崩御ののち大鷲神社の御祭神として祀りました。室町時代の応永年間(1394~1428年)には、日本武尊の命日とされる11月の酉の日に祭事がはじまり、これが花畑の大鷲神社が“酉の市発祥の神社”といわれる由縁です。※ほかにも諸説あります。

江戸時代中期までは、博打が公認されていたこの大鷲神社の「酉の市」は大変な賑わいを見せていたそうですが、やがて人の流れは遊郭吉原のお膝元である浅草(台東区千束)の鷲神社へ移ったのだとか。


【「酉の市」は「どこ」で「何をする」?】

■やっぱり行きたい!酉の市三大神社

大鳥神社の本社は大阪ですが、「酉の市」は関東のもの。なかでも、浅草の鷲神社(おおとりじんじゃ/東京都台東区千束3-18-7)、新宿の花園神社(はなぞのじんじゃ/東京都新宿区新宿5-17-3)、府中の大國魂神社(おおくにたまじんじゃ/東京都府中市宮町3-1)は“酉の市三大神社”といわれ、その賑わいは群を抜いています。夜店や露天商の数も飛び抜けて多く、花園神社には前夜祭もあって見世物小屋なども出るので、国内外から観光客も多く訪れるのです。提灯が煌々と灯され華やかな熊手が並ぶさまは、どう撮っても「映え写真」に!

■何をする?

「酉の市」の日、神前にはサトイモ科の八つ頭と熊手が奉納されます、これは、日本武尊が東征時に敵対する八族を鎮圧した功績を表したもの。熊手は焼討ちの難に遭った際に金属製の熊手が火を防いだことによるとか。境内や参道には熊手の露天が立ちます。「酉の市」がはじまったころから、大切な農具のひとつである熊手にお札と稲穂を付けた「かっこめ熊手」が頒布されるようなり、これが“酉の市名物”になったのです。“運を掻き込むように”と熊手が採用された説が一般的ですが、“運を鷲づかみにする”と鷲の足からの連想で熊手を…ともいわれています。

「酉の市」は商売をする人にとっては特に重要で、大小さまざまな「かっこめ熊手」を求めて集まります。稲穂や大福帳、七福神にお多福の面、松竹梅に鶴亀、大判小判や米俵など、さまざまな吉祥風物が付いたこの熊手は、よい新年を迎えるために欠かせないのです。商売をしていない人も縁起物として買い求めるようです。

■「熊手の商談」をしてこそ!

この「かっこめ熊手」には、売り手と買い手に粋(いき)なやり取りが。値切れば値切るほど縁起がいいといわれていますが、値切った値段で買うのは野暮というもの。はじめの言い値(定価)を支払い、お釣りはご祝儀にするのが江戸っ子なのです。買った(勝った)、値段をまけた(負けた)と、売り手も買い手もご満悦の気風(きっぷ)のいいやり取りも「酉の市」の名物。熊手の商談をして買った熊手を、福を掻き込むように高々と掲げて持ち帰るのも「酉の市」ならではの光景です。

ちなみに…縁起物だからと最初から大きな熊手を買うのは厳禁。「かっこみ熊手」は毎年少しずつ大きくしていくのが習わしなのです。


【2023年の「酉の市」は「今週土曜日」と「勤労感謝の日」!】

「酉の日」は11月の酉の日に開催されます。今年(2023年)は、11月11日(土)が一の酉、11月23日(木・祝)が二の酉。十二支が順繰りに巡り、年間を通して12日に一度酉の日がやってくるので、年によって11月の酉の日が2回だったり3回だったり。来年(2024年)は5日、17日、29日と三の酉まであるので、各社で「酉の市」は3回開催されるはず。三の酉がある年は火事が多いともいわれますが、明確な根拠はないようです。商売繁盛や開運を祈願する「酉の市」の風習は関東圏が中心。関西で商売繁盛の神様といえば恵比須様(親しみを込めて「えべっさん」と呼ばれます)で、1月9日から3日間かけて行われる「十日戎/十日恵比須(とおかえびす)」の縁日が「酉の市」同様に賑わいます。

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「かっこみ熊手」を購入したら神棚に祀りたいところですが、神棚がなければ室内の玄関ドアに向く高い位置に供えたいもの。ドアから運気が入ってくるように…ということですね。神事と庶民の生活が結びついた「市(いち)」や「祭」はさまざまあります。「酉の市」もビジネス雑談に話題にしてみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館) :