「多勢に無勢」は、戦いにおいて味方が圧倒的に不利な状況にあることを示すことわざです。古くは軍議などで使われていましたが、現在ではビジネスの場において意見の対立が見られるシーンや、スポーツの実況を伝える際に使われています。今回は「多勢に無勢」の意味や由来、使い方、英語表現を解説します。

【目次】

兵士の数が勝敗を分けました。
かつては兵士の数が勝敗を分けました。

【「多勢に無勢」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「多勢に無勢」は「たぜいにぶぜい」と読みます。古くは「たせいにぶせい」と読まれていたようです。

■意味

大勢の力に対し、少数の力では“まるで勝ち目がない”ことを表す言葉です。「多勢」は「人数が多いこと」。対義語である「無勢」は「人数が少ないこと」。ぱっと数を見ただけで「戦っても勝ち目がない」とわかるくらい、圧倒的な力を相手が有している状態を意味します。ポイントは、多勢に対して勝ち目がないのは自分たちのほうであることです。自分たちが多数側であり、優勢である場合には「多勢に無勢」は使いませんので注意してくださいね。

■由来

「多勢に無勢」の明確な出典はわかりませんが、もともと「勢」という文字には「勢い」という意味のほか、「人数」や「兵士の集団」という意味があります。鎌倉時代の軍記物語である『平家物語』には、すでに「多勢に無勢」の表記が見られました。当時の戦においては、兵士の数が戦の勝敗を分ける最大の要因であり、情勢を見極める基準でした。現在では人数差だけでなく、パワーバランスにおいて圧倒的に不利な状況についても「多勢に無勢」は使われます。

■「孤立無援」との違いは?

「孤立無援」とは「仲間がいずにひとりぼっちで、援助する者が一切いないこと」を表します。完全に孤立している状態ですね。「無勢」は「人数が少ないこと」ですから、個人としては「孤立無援」とはいえませんね。とはいえ、戦いの場でチームとして人数差で勝ち目がない…という場合、「多勢に無勢」と「孤立無援」は似た状況であるといえます。


【ビジネスでの使い方がわかる「例文」4選】

ではビジネスシーンにおいて「多勢に無勢」がどのように使われているのか、例文でチェックしてみましょう。

■1:「現状維持を望む専務と、改革を望むA部長。若手はA部長を支持したが、派閥の大きさでは多勢に無勢で、結果、専務派に押し切られてしまった」

■2:「コンペでA社と競うなんて多勢に無勢もいいといころだが、どこかに突破口はあるはずだ」

■3:「彼は多勢に無勢と悟るやいなや、さっさと前言撤回してしまったよ。まったく機を見るに敏な男だ」

「機を見るに敏」とは、好都合なタイミングを的確につかんで行動する様子を表します。

■4:「レッドカードをもらった我がチームはひとり少ない人数での戦いを強いられた。文字通り多勢に無勢だ」


【同じ意味となる「類語」「言い換え」表現】

「多勢に無勢」と同じような意味の言葉をいくつかご紹介しましょう。

■衆寡(しゅうか)敵せず

「衆寡敵せず」は「多数と少数では相手にならない。少数では多数にかなわない」という意味の言葉で、「寡は衆に敵せず」ともいいます。

■大勢に手なし

文字通り「多数には勝つべき方法がない」から「世の成り行きの赴くところには抗しようがない」という意味で使われます。

■数の論理

田中角栄の発言「政治は数であり、数は力、力は金だ」に由来すると言われる言葉です。政治用語のひとつで、少数派との対話を重視せず、意見の集約を行わないまま単純な多数決で結論を導こうとする姿勢を指します。

■八方塞がり

■打つ手がない

「八方塞がり」は「どの方面にも差し障りがあって、手の打ちようがないこと」を表す言葉です。「勝ち目がない」という意味が「多勢に無勢」と共通しています。

■お先真っ暗

「前途に見通しがつかない様子」を「お先真っ暗」と表現しますね。


【「反対」の意味になる言い方は?】

「少ない勢力で大きな勢力に勝つ」という意味の言葉も覚えておきましょう。

■寡(か)を以(も)って衆を制す

「寡」は「人数または勢力の少ないこと」。「衆」は「多くの人たち」。従って、「寡をもって衆を制す」は「少人数で大人数に勝利する」という意味になります。

■少数精鋭(しょうすうせいえい)

「人数は少ないが、優れた者だけを揃えること」を「少数精鋭」といいます。


【「英語」で言うと?​】

「多勢に無勢」そのままの英語表現はありませんが、「〜に数で勝る」という意味の[outnumber]を受動態にすることで、「数で圧倒された」という意味が表現できます。

・We were outnumbered by the enemy.(我々は多勢に無勢だった)

「数で敵わなかった」という表現をふたつご紹介しましょう。

・The enemy was superior to us in number.(敵は数において我々に勝っていた)

・It was impossible to fight against such fearful [long] odds.(多勢に無勢ではかなうはずはなかった)

***

「多勢に無勢」とは、圧倒的にこちらが不利とわかるような場面で使われる言葉です。とはいえ、ここで「打つ手がない」と諦めるか、あるいは「寡を持って衆を制す」を目指し策を巡らすかによって、その後の状況は変わるかもしれません。無駄な戦いは避けたほうが体力温存はできますが、一発逆転は望めません。悩みどころですね!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :