「画竜点睛」は中国の故事を由来とした四字熟語です。あなたは「正しく」読めますか? 言葉は生きもの。「正しい読み方」も時代とともに変化しつつあるようです。今回は「画竜点睛」の読み方や意味、使い方のわかる例文や英語表現を解説します。

【目次】

「がりょう」は漢音。「がりゅう」は慣用音。
「がりょう」は漢音。「がりゅう」は慣用音。

【「画竜点睛」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「画竜点睛」は「がりょうてんせい」と読みます。「がりゅうてんせい」は誤読と言われ、実際に『デジタル大辞泉』(小学館)では「がりょうてんせい」の項目にわざわざ[「がりゅう」とは読まない]との記載があります。一方で『日本国語大辞典』『日本大百科全書」(小学館)には「がりゅうてんせい」の項目が存在し、[「がりょうてんせい(画竜点睛)」に同じ]とされています。この現象は、かつては誤読とされていた「がりゅうてんせい」が今や多勢を占め、市民権を得つつあることの顕れでしょう。『悩ましい国語事典』(角川ソフィア文庫)も、[揺れる読み方]として「画竜点睛」を取り上げています。

「竜」の文字自体は、「りゅう」と「りょう」、どちらで読んでも間違いではありません。違いは何かというと、「りょう」は中国本来の漢字音、「りゅう」は日本で昔から通用している慣用音であること。単独で想像上の動物を指すときは「りゅう」が一般的ですが、中国の故事を由来とする四字熟語などでは、「りょう」と読むのが習慣なのです。

「画竜点睛」にまつわる勘違いとしてはもうひとつ、「点睛」を「点晴」と書いてしまうこと。なぜ「晴」ではなく、「睛」の字なのか、理由は由来を読んでいただくと、よくわかりますよ。

■意味

「画竜点睛」の意味は、「最後の大事な仕上げ」。「ほんの少し手を加えることで全体が引き立つこと」です。「画竜」は「竜の絵を描く」こと。「点」はこの場合「印を付ける」という意味。「睛」は「目偏(めへん)」からも推察できるように、「瞳(ひとみ)」を指します。つまり「点睛」で「瞳を書き入れる」という意味になります。竜の絵に、最後に瞳を書き入れることは「最後の大事な仕上げ」なのですね。

■由来

「画竜点睛」の出典は、9世紀の中国で書かれた画論・画史『歴代名画記(れきだいめいがき)』です。ストーリーを簡単にご紹介しましょう。

6世紀の中国、画家として知られた張僧繇(ちょうそうよう)が、金陵の安楽寺の壁に4匹の白い竜を描いた。「瞳を描くと竜が飛び去ってしまうから描かない」という帳に対し、人々はそれを嘘だと言って無理やり2匹の竜に瞳を書き入れさせた。すると雷が落ち、2匹はたちまち雲に乗って昇天してしまった。残りの2匹はのちのちまで安楽寺に残ったという。

このストーリーから、「画竜点睛」は「最も大切なものを最後に加えて物事を完成させる」という意味で用いられるようになりました。


【「使い方」がわかる「例文」3選】

「最後の仕上げ」という意味を表す「画竜点睛」ですが、現在の日本語では以下の例文2の「画竜点睛を欠く」のかたちで、「全体としては素晴らしいのに、最も重要なものが欠けている」ことを表すことが多いようです。この場合、「欠く」を「書く」あるいは「描く」としないように注意してくださいね。また、3のように、「画竜点睛」だけで「画竜点睛を欠く」の意味で使われることもあるようです。

■1:「立派な社屋が完成した。あとは優れた経営陣が揃えば、画竜点睛ということになる」

■2:「よくできた報告書だが、問題の解決策についてまったく触れていない。これは画竜点睛を欠くというものだ」

■3:「せっかく奨学金の制度を整えても、受給資格が厳しすぎると、“画竜点睛”ということになりかねない」


【同じ意味の「類語」「言い換え」表現】

「画竜点睛」を「最後の最も大切な仕上げ」という意味で捉えた際の「類語」にはどんなものがあるでしょうか。

■入眼(じゅがん)

あまり馴染みのない言葉ですが、「新作の仏像などに開眼(かいげん)をすること」から、「 物事が成就すること。完了」という意味をもった言葉です。「仏作って魂入れず」あるいは「仏作って眼(まなこ)入れず」は、「物事をほとんど仕上げながら、肝心な最後の仕上げが抜け落ちていること」のたとえ。「画竜点睛を欠く」と同じ意味で用いられています。

■眼目

「目。眼」という意味のほか、「ある物事の最も重要な点」という意味をもちます。

日常会話でも使える、もう少しくだけた「言い換え表現」も覚えておくといいですね。

■最後の仕上げをする

■完成させる


【「反対語」は?】

「画竜点睛」の反対語もご紹介しましょう。

■蛇足

「だそく」あるいは「じゃそく」と読み、「余計なもの。あっても何の役に立たないもの。不必要なもの」を表します。こちらも中国の故事を由来としています。

■おまけ

「おまけ」は本来「値引き」の意味ですが、「これで終わっていいのだが特にその上に付け加えること」という意味ももっています。


【「英語」で言うと?】

「画竜点睛」を「最後の仕上げ」と解釈すると、[the finishing strokes(touches) ]で表現できます。

・It lacks the finishing touches.(画竜点睛を欠く)

***

「言葉は変化するもの」とよく言われます。「画竜点睛」の読み方についても、「がりゅうてんせい」が認知されつつあるようです。「正しい読み方」を知っている人にとっては違和感があるかもしれませんが、「誤読ではないかもしれないけれど、私は言わない」というスタンスを取るくらいが、ちょうどよいのではないでしょうか。肩の力を抜いていきましょう!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『悩ましい国語辞典』(角川ソフィア文庫) /『四字熟語ときあかし辞典』(研究社) :