「耄碌」という漢字は読めなくても、「もうろく」という言葉は聞いたことがあるのでは? 「耄碌(もうろく)」は「加齢による衰え」を表し、年配者が自分自身について、謙遜や自虐的なニュアンスを込めて使うことの多い言葉です。返答次第では失礼な対応になってしまうこともありますので、注意が必要です。今回は「耄碌」について、その意味や使い方、言い換え表現などを解説します。

【目次】

当事者が謙遜や自虐の意味で使うことも。
当事者が謙遜や自虐の意味で使うことも。

【「耄碌」の「読み方」「意味」など「基礎知識」】

■「読み方」  

「耄碌」は「もうろく」と読みます。「耄」も「碌」も常用漢字ではないので、読むのも書くのも難しい熟語ですね。

■簡単に言えば「加齢で衰えた」ってこと

「耄碌」は、「年を取って頭脳や身体のはたらきが衰えること。老いぼれること」。加齢による心身の衰えを指す言葉です。

■「語源」

「耄碌」の「耄」は音読みで「ボウ」、もしくは「モウ」。「年寄り(平均寿命が50才のころの80歳、90歳)」、「老いる、老いぼれる」、「くらむ、乱れる」といった意味をもちます。「耄」の文字は「老」と「毛」からなることから、老髪が乱れた姿を表すとされています。一般に「ほうけ」といわれる、ぼんやりと知覚が鈍った状態のことで、いわゆる「ボケ」は「ほうける」からきた言葉で、「惚ける」あるいは「耄ける」「呆ける」と記します。「碌」は、音読みで「ロク」。「正常であること」を意味しますが、一般にうしろに打消しの語を伴って、「まともではないこと」、「満足できる状態ではないこと」を表します。例えば、「ろくに休みも取れない」「ろくな人間ではない」は、それぞれ「満足に休みが取れない」「まともな人間ではない」という意味になります。「つまらないもの」「役に立たない」という意味をもっています。以上のことから、「耄碌(もうろく)」は加齢による老いで知覚が鈍り、まともでなくなる、つまり「役に立たなくなること」を意味する熟語となりました。


【「使い方」がわかる「例文」6選】

「耄碌」は加齢により心身が衰えた状態を指す言葉ですが、日常生活では自らの衰えを感じた年配者が、謙遜や自虐的なニュアンスで使うことが多い言葉です。

■1:「こんな間違いを新人に指摘されるとは、私も耄碌したものだ」

■2:「私もいよいよ耄碌したのか、近頃、人の名前がなかなか出てこない」

■3:「耄碌したとはいえ、まだまだ若い世代には負けられないよ…」

これらの例文は謙遜の要素も強く、あえて「耄碌」という言葉を使うことで、自虐的な台詞にユーモアを感じさせようという意図が隠れています。ですから、まともに受け取って「そうですね、お年を取りましたね」などと応えるのはもってのほか。「耄碌だなんてとんでもない。まだまだ頼りにしていますよ」のように、年配者の健在ぶりを肯定した受け応えをするのがセオリーです。

■4:「部長、ここのところうっかりミスが多すぎない? 耄碌したかな」

■5:「耄碌した年寄りは大人しく引っ込んでればいいのに」

■6:「いくら若い若いと思っていても、80(歳)を過ぎるとやっぱり耄碌してくるものだな」

年配者を揶揄した表現にも「耄碌」は使われますが、かなり辛口な表現になりますから、会話の相手はごく親しい人に限られますね。いずれにしても、他者に対しては少し侮蔑が含まれるので注意が必要です。


【失礼にならない「類語」「言い換え」表現】

例文からもわかるように、自虐的に使う場面以外での「耄碌」は控えた方が無難です。失礼にならない言い換え表現を覚えておきましょう。

■「類語」「言い換え」表現

・老境に入る
「老人の境遇や境地に入ること」を「老境に入る」と言います。「あの方は老境に入られてもお気持ちがお若いですね」のように使います。「耄碌」のように「加齢による衰え」を直接的に示す言葉ではありません。

・焼きが回る
「頭のはたらきや腕前などが衰える。ぼける」といった意味の言葉で、「耄碌」同様、自虐的な使用以外には注意が必要な言葉です。

■対義語

・矍鑠(かくしゃく)
「年を取っても夫で元気のいい様子」を「矍鑠」と言います。「何歳になられても矍鑠とされていて羨ましい限りです」などと使います。

・壮健
「体が元気で丈夫なこと。また、その様子」を「壮健」と言います。


【「英語」で言うと?】

「耄碌」に相当する英語は[senile]です。[a senile old man]で「耄碌した老人」ですが、主に加齢による身体機能の衰えを表します。

・I'm so forgetful lately, perhaps I'm getting a little senile.(近ごろ物忘れがひどい。耄碌したかな)

***

「耄碌」は軽い侮蔑が入った言葉とされていますが、「朗らかで気丈夫だったのに、最近やけに涙もろくなって、家に引きこもりがち。お母さんもいよいよ耄碌してしまったのかな…」のように肉親のことを表現した場合、年齢による老いを悲しんだり労る気持ちが込められていることも。言葉は使う人と状況次第で、愛情を示したり、反対に人を傷つけもします。難しいですが、こんな言葉の機微を知ることも「大人の語彙力」と言えるでしょう。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『字通』(平凡社) :