日本語にはさまざまなことわざがありますが、「なぜ?」と不思議なものも多いですね。今回取り上げる「カラスの行水(ぎょうずい)」もそのひとつではないでしょうか。今回は「入浴時間が短い」ことをたとえた「カラスの行水」について解説していきます。

【目次】

「スズメの行水」ではなく、なぜカラス?
「スズメの行水」でもいいのに…なぜカラス?

【「カラスの行水」とは?「意味」と「由来」】

■読み方、書き方

「烏の行水」と書いて「からすのぎょうずい」と読みます。「烏」は「鳥」とよく似ていて紛らわしいので、文章にするなら漢字ではなくカタカナの「カラス」、あるいは平仮名で「からす」とすると読みやすいですね。

■意味

入浴時間が極端に短いことのたとえです。

■由来

とかく敵視されがちなカラスですが、なぜことわざに用いられているのでしょう。カラスは習性として夜明けの30分くらい前から捕食活動を開始します。ゴミ置き場に出された生ごみをあさるので、「散らかして迷惑」「汚い」「臭い」などのイメージをもつ人が多いでしょう。ところがカラスはとってもきれい好き! 水たまりなどで水浴びすることを日課としているそうです。というのも、汚れや寄生虫などが羽につくとうまく飛べなくなったり病気になったりするため、常に清潔を心掛けているのだとか。とはいえ、カピバラや猿のように温泉に浸かるわけではなく、浅い水たまりでくちばしを使ったり羽をはばたかせてさっと水浴びをするだけ。このことから、入浴時間がとても短いことを「カラスの行水」と言うようになったのです。


【「使い方」がわかる「例文」3選】

■1:「子どものころから、カラスの行水だ、ちゃんと洗ってるのかって言われてたよ」

■2:「普段はカラスの行水だけれど、温泉に行ったらゆっくり湯船に浸かりたい」

■3:「水不足だし光熱費も節約したいから、あえてカラスの行水を実践している」


【「カラスの行水」に似た表現、反対の表現】

「カラスの行水」に関連したことわざや慣用句を紹介します。

■似た表現

・ひと風呂/ひとっ風呂:さっと入浴を済ませること。また、風呂に1回入ること。「ひと風呂浴びる」

■反対の表現

・腰抜け風呂:長湯の人をあざけって言う語。主に京都で使われます。「だんさんは、腰抜け風呂やなぁ」

・垢も身の内:もとを正せば垢も体の一部分だから、むやみにに落とすものではないと、長湯する人を冷やかして言う際に使います。


【「英語」で「カラスの行水」を言うと?】

「カラスの行水」をう英語で表す場合、「カラス」という単語は使いません。「素早い」「急速な」という意味の[quick]と、「ちょっと浸す」「ちょっと浸る」などの意味をもつ[dip]を用いて[quick dip]が正解。

また、[take a dip in the bath]でも「カラスの行水」と同じ意味になります。

・My husband always takes a quick dip in the bath.(私の夫はいつもカラスの行水です)


【意外にある!「カラス」を使ったことわざ・慣用句】

嫌われ者のイメージが強いカラスですが、ことわざや慣用句には多く用いられています。それだけ人間の生活に近い存在であり、また高い知能をもつからなのでしょうか。いくつかご紹介しましょう。

■泣いたカラスがもう笑う

今まで泣いていたと思ったら、すぐに機嫌を直して笑っていること。主に子どもの喜怒哀楽の感情表現がコロコロ変わることをたとえて言います。

■暗闇にカラス/闇夜にカラス

見分けがつかないことのたとえ。「闇夜に烏、雪に鷺(サギ)」とも言います。

■鵜の真似をするカラス/カラスが鵜の真似

自分の能力をよく考えず、みだりに人真似をすると必ず失敗するということをたとえて言います。

■カラスに反哺(はんぽ)の孝あり

鳥獣さえも養育の恩に報いるということのたとえです。カラスは子が生まれると60日間食べ物を子に与え、子は成長すると親への恩返しとして、親に食べ物を口移しにして与えるという古い言い伝えが元になっています。

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特に都市部で嫌われ者扱いのカラスですが、実は吉兆を表す鳥だと知っていますか? 日本神話によると、神武天皇の東征の際に、熊野から大和へ入る山中を導くため天照大神が遣わしたのが、3本足の八咫烏(やたがらす)なのだとか。八咫烏は、日本サッカー協会のシンボルマークにも使われています。

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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『決定版 すぐに使える! 教養の「語彙力」3240』(西東社)/『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) :