「斟酌」は「しんしゃく」と読み、多くは「相手の事情や心情をくんで配慮すること」という意味で使われます。「斟」は常用漢字ではありませんし、あまり一般に使われる言葉ではありませんが、法律の世界では条文や判決文においてよく「斟酌」が使われます。ビジネスシーンで使用されることもありますので、この機会に正確な意味や使い方をマスターしておきましょう。

【目次】

リーガルワードのひとつでもあり、ちょっと堅い表現です。

【「斟酌」の「読み方」「意味」など「基礎知識」】

■「読み方」

「斟酌」は「しんしゃく」と読みます。「割り勘」の「勘」の字と似ていますが「かんしゃく」ではありませんよ。

■「意味」

「斟」という文字には「くみ取る」「推し量る」という意味があります。そして「酌」は「酒を杯に注ぐこと。また、注ぐ人」を表しています。つまりどちらも「くむ」という意味の言葉です。「斟酌」は直接的には「水や酒をくみ交わす」という意味から、3つの意味で用いられるようになりました。
1)相手の事情や心情をくみ取ること。また、くみ取って手加減すること。
2)あれこれ照らし合わせて取捨すること。
3)言動を控えめにすること。遠慮すること。

「斟酌」は主に1のように、「相手が言葉にして伝えてはこない気持ちをくんで」、さらにそれを「配慮する」とい言葉の意味で使われます。実感として理解するには、例文を読むのがいちばんです。1〜3の意味合いで、使い方のわかる例文をチェックしてみましょう。


【ビジネスシーンでの「使い方」がわかる「例文」4選】

■1:「業務評価に斟酌を加えるのはよくないとはわかっていても、あのチームの頑張りを知っているだけに胸が痛む」

■2:「彼に過失があったことは間違いなかったが、若年であることを斟酌し、責任は問わなかった」

例文1と2は「相手の事情や心情をくみ取って、配慮すること」という意味で使用されています。「斟酌」の用い方としては、この使い方が一般的です。

■3:「経営を立て直すには、もっと市場の状況を斟酌し、生産高を決める必要がある」

「あれこれ照らし合わせて取捨すること」という意味で「斟酌」を使った例です。

■4:「今後、企画進行の参考にさせていただきたいので、ここではぜひとも斟酌のない批評をお願いします」

「遠慮すること」という意味で「斟酌」を用いています。話し言葉としては「忌憚のないご意見を」のほうが一般的で、意図が通じやすいかもしれません。


【「忖度」との違いは?】

■そもそも「忖度」って?

一時期は流行語のようになっていた「忖度(そんたく)」という言葉。『デジタル大辞泉』によれば、「他人の心を推し量ること。また、推し量って相手に配慮すること」という意味だそうです。「斟酌」の「相手の事情や心情をくみ取って手加減すること」という意味とよく似ていますね。ただ、実は「忖度」には本来、推し量ったうえで、「さらに何か配慮をする」という意味はなかったと言われており、『日本国語大辞典』にはその意味が「他人の心中やその考えなどを推し量ること。推量。推測。推察」と記載されています。

■「斟酌」と「忖度」の違い

元小学館辞典編集部編集長の神永曉氏によれば、「相手の事情や心情を推し量ったうえで配慮をする、という意味まで含んだ語を使いたい際には、『斟酌』のほうがふさわしい。ただし、斟酌も忖度も、本来の意味からどんどん離れて、新しい意味が付け加わっていった語だという意味で、非常によく似ている」とのこと。時代と共に使われ方、そして意味が変わっていく言葉は多いものです。


【そのほかの「類語」「言い換え」表現】

相手の事情や心情を推し量ったうえで、「さらに配慮をする」か否か、その加減によって、「斟酌」の「言い換え」表現は変わってきます。

・推察:他人の事情や心中を思い遣ること。推し量ること。

・配慮:心を配ること。心遣い。

・手加減:取り扱いなどのほどよい調節。

・匙加減:薬の調合の具合。手加減の意味にも。

・酌量:裁判の判決などで事情をくんで手加減すること。

・手心(てごころ):状況によって適当に取り計らうこと。


【「英語」で言うと?】

「考慮する」という意味で「斟酌する」をとらえれば、[consider]や[take something into consideration]という表現が使えます。また「大目に見る」という意味合いを強調するならば、[make allowance(s)for something]というフレーズになりますよ。

・We will take your youth  into consideration and not hold you responsible for this mistake.
(あなたの若さを斟酌して今回の過失の責任は問いません)

・We will make allowances for his inexperience.(彼の経験不足を斟酌してやろう)

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「斟酌」は日常でほとんど使う機会がない言葉のため、読み方や意味を記憶にとどめておくのが難しい言葉のひとつです。それにしても、「相手の事情や心情をくみ取って」、そのうえで「配慮」したり「遠慮」するというのは、いかにも日本人的な感覚ですね。「斟酌」という言葉と共に、こんな繊細な感覚も、覚えておきたいものです。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :