「食い扶持」は簡単に言うと「食費」のことです。日常的に使う言葉ではなく、少々乱暴な言い方にも聞こえますね。今回はこの「食い扶持」について、由来や使い方、言い換え表現などをチェックしていきましょう。
【目次】
【「食い扶持」の「扶持」とは?「読み方」など基礎知識】
■読み方
「食い扶持」は「く-い-ぶち」と読みます。
■意味
「食う」と「扶持」の2語からなる熟語「食い扶持」は、食料を買うための費用、食費のこと。「食う」には生活をする、暮らしを立てるという意味もあり、「食い扶持」は生活費全般を指すことも。気になるのは「食い扶持」の「扶持」ですね。「扶持」は、援助すること、力を貸すことという意味があり、そこから「俸禄(ほうろく)を与えて臣下とすることを表す言葉です。「扶持米(ふちまい)」に聞き覚えはありませんか? これは戦国末期から江戸時代に主君から家臣に、給与として支給された米のことで、略して「扶持」ということもありました。
■由来
「食い扶持」は、江戸時代の給料の支給制度に由来します。当時は下級家臣や奉公人への給与は金銭ではなく米で支給されていて、これを「扶持米(ふちまい)」、あるいは「俸米(ほうまい)」と呼びました。米という俸禄を与えることで、臣下として抱え置いたのです。ちなみに、江戸時代の武士の給与の最少単位とされた「一人扶持(いちにんぶち)」は、1日5合の米を標準として、1年分1石8斗をまとめて与えるもの。1日5合の米で家族の3食を賄うだけでなく、現金化するなどしてほかの食材や生活必需品を買わねばならず、生活に余裕はありませんでした。「武士は食わねど高楊枝」(貧しく空腹でもお腹いっぱいのように楊枝を高々とくわえる、の意)は本当だったのですね。
【「使い方」がわかる「例文」4選】
■1:「40年間まじめに働いてきたのに、年金生活は夢のまた夢、定年後も食い扶持を稼がなければならないなんて…」
■2:「学生時代はアルバイトの掛け持ちで食い扶持をつないでいました」
■3:「今より食い扶持が減るのが不安で、ストレスを抱えたままこの会社に居続けることを選択した」
■4:「高圧的な上司に堪えられず、食い扶持を失った」
例文を見ると、「食い扶持」は食費のことだけでなく、生活するための費用全般を指すのだとよくわかりますね。
【「食い扶持」は「類語」や「言い換え」表現で!】
「食う」を丁寧にした言葉である「食べる」が日常的に使われている現代では「食う」は少々乱暴に聞こえるため、「食い扶持」も日常会話で使うのは不向き。大人が言い換えに使えるワードをチェックしておきましょう。
・食費 ・食事代 ・生活費 ・給与 ・給料 ・サラリー
【「食い扶持」を「英語」で言うと?】
「食い扶持」は[the cost of one's board]となりますが、「食費」や「生活費」などに置き換えて言うこともできます。
・earn one's living(食い扶持を稼ぐ)
・pay for one’s board with one's first paycheck(初月給から食い扶持を入れる)
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ふだんはあまり使うことはないかもしれませんが、時代小説やドラマにはよく登場する「食い扶持」。「扶持」ともども、知識として知っておいてくださいね。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『世界大百科事典』(平凡社)/『日本国語大辞典』(小学館)/『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) :