「一矢報いる」は「相手からの攻撃に対して反撃する」ことを意味する慣用句です。結果的には「報われなかった場合」に用いられ、最後に形勢を逆転した場合には使われない、というところがポイント。今回は「一矢報いる」を理解するため、その正確な意味や使い方のわかる例文、言い変え表現について解説します。

【目次】

「一矢報いる」は、諦めない心意気を評価するニュアンスで使われることが多い言葉です。
「一矢報いる」は、諦めない心意気を評価するニュアンスで使われることが多い言葉です。

【「一矢報いる」をしっかり理解するための「基礎知識」】

■読み方

「一矢報いる」は「いっしむくいる」と読みます。「一矢」は「いっし」で、「いちや」ではありませんよ。また、「一矢を報いる」とも言います。

■意味

「一矢報いる」とは、「自分に向けられた攻撃・非難などに対して、大勢は変えられないまでも、反撃・反論する」ことを意味する慣用句です。

「一矢」は「1本の矢」の意。「報いる」には「受けたことに対して、それに見合う行為を相手に行う」意味がありますが、この場合は「仕返しをする」という意味で使われています。文字通り、「敵の攻撃に対して、1本の矢を射返す」という状況ですから、「反撃したところで勝敗が覆るなどの大きな流れが変わるわけではないとわかっているけれど、諦めずに果敢に立ち向かう」といったニュアンスで多く使われます。圧倒的な力量の差がある相手に対しての必死の抵抗を表します。

■由来

「一矢報いる」の由来は定かではありませんが、「元寇の戦い」ではないか、という説が有力です。「元寇」とは鎌倉時代のなかば、1274(文永11)年と1281(弘安4)年の2回にわたり行われた蒙古 (もうこ=元)の日本侵略のこと。当時、日本の武士たちは、元の強大な軍事力に太刀打ちできませんでした。圧倒的に不利な戦況下で、小弐景資(しょうに かげすけ)という武将が元の猛将・劉復亭(りゅう ふくこう)に向け、1本の矢を放ちました。劉は左肩に矢を受け、馬から転がり落ちますが、致命傷には至らず。それを見た小弐景資は、すぐに駆け去ったといいます。この出来事が「一矢報いる」の由来であると言われているのです。


【「使い方」がわかる「例文」5選】

「一矢報いる」という慣用句には「報いる」という語が使われてはいますが、受けた攻撃に見合う反撃は叶わず、結果的には「報われなかった」場合に用いられます。つまり、勝敗で言えば「敗者」の立場で用いる語。逆転勝利に至った場合には使われません。スポーツでよく使われる言葉ですが、ビジネスシーンでも、「具体的な成果は得られなかったけれど、最後まで最善を尽くした」ことを表すフレーズとして使われます。例文を読んで、そのニュアンスを理解しましょう。

■1:「ライバル社とは圧倒的な力の差があり、残念ながら契約は逃したが、一矢報いることが出来たのは、最後まで諦めなかった彼のおかげだ」

■2:「辞職を決め、せめて最後にと、社長へ提言した。一矢報いることができて、もう悔いはない」

■3:「次のコンペで勝てる確率は非常に低いが、先方に強い印象を残すなど、せめて一矢報いたい」

■4:「わずかな手勢ながら、最後の局面で辛うじて一矢を報えたのが、せめてもの慰めだ」

■5:「大量リードされて迎えた最終回。必死の攻撃で1点を返し、一矢報いるのが精一杯だった」


【「類語」「言い換え」表現】

「一矢報いる」の「類語」「言い変え表現」にはどんなものがあるでしょうか。いくつかご紹介しますが、いずれのフレーズにも、「一矢報いる」のような「結果的には報われない」というニュアンスは含まれていません。

■類義語

・蟷螂の斧(とうろう-の-おの):蟷螂とはカマキリのこと。カマキリが前脚を上げて、大きな車の進行を止めようとする意から、弱小のものが、自分の力量もわきまえず、強敵に向かうことのたとえ。

■言い変え表現

・逆襲する

・やり返す

・ひと太刀(たち)浴びせる:相手に打撃を与える。仕返しをする。

・一泡(ひとあわ)吹かせる:相手の意表を突いて慌てさせる。「一矢報いる」とは異なり、先制攻撃にも使われます。

・手痛い一撃を与える

・リベンジする


【「英語」で言うと?】

「一矢報いる」に含まれる「結果的には報われないが(反撃する)」という細かなニュアンスまで表す英単語はありませんが、「反撃する」「同じことをやり返す」という意味であれば[retaliate]が使われます。

・They retaliated in kind.(同一手段で報復した)

・They retaliated against the enemy's attacks.(彼らは敵の攻撃に対し応酬した)

カタカナ語としても使われる「リベンジ」の語源となる[revenge]も考えられますが、こちらは「復讐」を意味し、憎しみなど負の感情を感じさせる言葉です。

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「一矢報いる」は「大きな流れは変えられなくても、せめてもの抵抗を試みる」という意味で使われる慣用句。諦めず最後まで頑張った心意気を示す言葉であり、基本的にはポジティブな意味合いで用いられます。ただし、超ネガティブに「最後の悪あがき」と捉える人もいるようです。一矢報いる行為が「諦めない心」だったのか、「悪あがき」だったのかは、次の一歩をどう踏み出すかに表れます…前を向いて行きたいものですね!

この記事の執筆者
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