新緑のまぶしい季節になりました。気候がよく、自然が美しく目に映える5月は、GWにたっぷり休暇を取った人もそうでない人も、お出かけゴコロや旅ゴコロを刺激されるのではないでしょうか。ところで5月16日が「旅の日」なのはご存知ですか? 本日はその由来など、さくっとご紹介しましょう。
【目次】
【5月16日の「旅の日」ってどんな日?】
■「旅の日」とは?
「旅の日」は、旅の文化の向上、そして自然環境の保護や地域の活性化を目的として、さまざまな活動をしている「日本旅のペンクラブ」が昭和63(1988)年に提唱して誕生した記念日。日本人の旅行観や旅行関連業界の将来などを考え、語り合う機会をつくることを目的とし、平成21(2009)年からは、毎年、「旅の日」川柳の募集、大賞選定も行われています。
■なぜ5月16日?「旅の日」の由来
全行程約600里(2400km)、東北と北陸を徒歩で巡った私たちの“旅の大先輩”である松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅に出発したのが元禄2(1689)年3月27日。これは現在のカレンダーで表すと5月16日になります。「旅の日」は、日本人に最も有名な日本の旅人、芭蕉の旅のはじまりの日にちなんで選ばれた日なのです。
■何をする日?
日本人の旅行観や旅行関連業界の将来など、“旅”を通じてさまざまなことを考え語り合う日として制定された「旅の日」には、旅行ジャーナリストやライター、編集者、作家、写真家、歌人、大学教授、建築家など、多彩な職種の会員が集うのだとか。“観光大国”を提言してきた日本ですが、現在、オーバーツーリズムや観光マナーなどさまざまな問題を抱えています。私たちも、この「旅の日」をきっかけに、“旅”について考えたり家族や仲間と話し合うといいかもしれませんね。
【「旅」にまつわる雑学】
■「旅」って何?
そもそも「旅」とはなんなのでしょうか。改めて“旅”について『デジタル大辞泉』を引いてみると、「住んでいる所を離れてよその土地を訪ねること」「自宅を離れて臨時に他所にいること」とあります。距離や目的に関わらず、日常ではない場所へ行くことを「旅」や「旅行」というのですね。
■江戸時代の「旅のインフルエンサー」と言えば?
一般庶民が「旅」ができるようになったのは江戸時代になってから。徳川家康が東海道(江戸から京都まで)に53の宿場を設置したのちのことです。約60年ごとに3度起こったお伊勢参りブームや、十返舎一九が享和2年から文化6(1802~1809)年にかけて書いた『東海道中膝栗毛』の爆発的ヒットもあって、人々は見たことのない土地や文化に触れられる“旅”に熱狂! 寺社参拝が目的の信仰の旅だけでなく、物見遊山の行楽の旅が流行したのです。『東海道中膝栗毛』の主人公である弥次さんと喜多さんは、江戸時代の「旅のインフルエンサー」といっても過言ではないでしょう。
【「松尾芭蕉」にまつわる雑学】
「旅の日」を5月16日に制定した由来は松尾芭蕉にありました。「古池や 蛙飛び込む 水の音」や「夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡」「秋深き 隣は何を する人ぞ」など、俳人としてあまりにも知られている芭蕉についても少々ご紹介しましょう。
■漂泊の詩人
正保元(1644)年に現在の三重県にあたる伊賀上野に生まれたのがのちの芭蕉、松尾忠右衛門宗房です。藤堂藩士の家に十代で仕えた宗房は、嫡男である藤堂良忠のもとで俳諧に親しみ、藤堂家を辞したのちは江戸へ下って江戸俳諧で活躍。37歳で深川に隠棲し、やがて芭蕉と名乗ります。40代は『野ざらし紀行』や『更科紀行』、そして『おくのほそ道』などの旅へ。行く先々で詠んだ俳句による句集のほか、紀行文と組み合わせた作品集をつくりました。これが「漂泊の詩人」や「旅する詩人」と呼ばれる理由です。
■旅ゴコロを掻き立てる『おくのほそ道』関連CM
2018年春に放映されたJR東日本「大人の休日倶楽部」のテレビCMでは、芭蕉が『おくのほそ道』の旅で最も長く滞在したといわれる栃木県大田原市の黒羽を女優の吉永小百合さんが訪ねています。撮影地は八溝山地の奥深い自然の中にたたずむ雲巌寺という禅寺。竹林、朱塗りの反り橋、お堂、仏像…芭蕉が詠んだ「木啄も 庵は破らず 夏木立」という芭蕉の詩も紹介され、雨に濡れた美しい緑が印象的なCMでした。また、サントリーのコーヒー「BOSS」のCM「宇宙人ジョーンズ 奥の細道篇」では、松島や奥州平泉を行くジョーンズが「東北の秋は気持ちいい」と詠んでいましたね。
■『おくのほそ道』の冒頭は…
月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり――これは『おくのほそ道』の冒頭文です。月日は永遠の旅人であり、やってきては過ぎていく年もまた旅人である、と芭蕉は述べているのですが、これは唐王朝時代(8世紀)の中国の詩人、李白の一節を踏まえたもの。原本は「天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり(天地はあらゆるものを泊める宿であり、時の流れは永遠の旅人である」というものです。
***
今回は「旅の日」にちなんだ雑学をご紹介しました。社会人の次の旅のタイミングはお盆休みでしょうか? 帰省するも、遠出するも、近場で過ごすのもよし! すてきな旅の時間を過ごし、人生を深めていきたいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『プレミアムカラー 国語便覧』(数研出版)/日本旅のペンクラブ https://tabipen.jp/ :