「あうんの呼吸」は「ふたり以上で何か同じことをする際に、息がぴったり合う」ことを表す慣用句です。「阿吽」はもともと仏教の教えの中で使われていました。現在ではビジネスシーンでも、チームワークのよさなどを表現するのに使われる言葉ですから、正確な意味を知っておきたいところです。ということで、今回は「あうんの呼吸」の意味や使い方のわかる例文、反対語から英語表現まで解説します。

【目次】

あうんの呼吸とは、「息がぴったり」という意味の慣用句です。
あうんの呼吸とは、「息がぴったり」という意味の慣用句です。

【ことわざ「あうんの呼吸」の「あうん」とは?まずは「基礎知識」から】

■「漢字」ではどう書く?

「あうんの呼吸」の「あうん」は「阿吽」と書きます。「吽」が難しいですね!

■そもそも「あうん」とは?

「あうんの呼吸」を理解するために、まずは「阿吽」の意味から見ていきましょう。「あ−うん」は、サンスクリット語の[a-hūm(ア・フーム)]の音を写したものです。仏教では、「阿」は口を開いて発音する最初の音声で、すべての字音は阿を本源とされています。対して「吽」は、口を閉じて発音する音声で、字音の終末であることから、このふた文字は万物の始まりと終わりの象徴とされています。

■「あうんの呼吸」とは?

「阿吽」には、さらに別の意味もあります。「阿」は呼気、「吽」は吸気を表すのです。ここから転じて、複数の者がひとつのことを行うとき、思いが同じになる絶妙なタイミングのことを「あうんの呼吸」と言うようになりました。さらには…寺院の山門に安置されている仁王 (におう)さまや、神社の狛犬(こまいぬ=高麗犬の意)を思い浮かべてみてください。向かって右の口を開いているほうを「阿形(あぎょう)」、左の口を閉じているほうを「吽形(うんぎょう)と言い、「対になっているもの」を指して「阿吽」と用いるのです


【「使い方」がわかる「例文」5選】

ビジネスシーンにおいては、例えば同じプロジェクトチームの一員同士、相手が何を必要としているか、何をしようとしているのか、「言葉にしなくても互いに分かり合えた状態」であることを指します。「あうんの呼吸」で、互いをフォローし目的に向かって業務を遂行できたら、それは最高のチームであると言えるでしょう。

■1:「打ち合わせ中、提案のエビデンスとしてデータを持ってくるべきだったと内心後悔していたら、同僚がさっとグラフを示してみせた。まさにあうんの呼吸。ナイスプレーだったよ」

■2:「急な異動で心配したが、彼らの仕事ぶりを見たら息がぴったり。あうんの呼吸という感じだったよ」

■3:「部長が『あれ…?』とごそごそ何かを探していたら、秘書がすかさず『資料ならここに』と指しだした。ああいうのをあうんの呼吸というのだな」

■4:「相撲の仕切りでは、ふたりの力士の呼吸が合うことを『あうんの呼吸』と言う」

■NG:「君はほんとに気が利かないな。もう僕の下に3年もいるのだから、いい加減あうんの呼吸で合わせてくれよ」

「あうんの呼吸」は「息がぴったり合った状態」ですから、「何も言わなくてもこちらの気持ちを察してほしい」といった意味で、「あうんの呼吸で頼む」のように使うのは不適切です。


【「類語」「言い換え」表現】

「あうんの呼吸」の「類語」や「言い変え表現」をご紹介しましょう。

■似た意味の四字熟語

以心伝心
「心と心で通じ合っていること」を表す表現です。転じて、広く「言葉を使わないで伝える」という意味で使われます。

・拈華微笑(ねんげみしょう)
仏教では「言葉では表現できない教えを直感的に伝える」ことを指し、転じて広く「言葉にしなくても心が伝わる」という意味で用いられます。

■類語

・暗黙の了解
「暗黙」とは「口に出さないで黙っていること」。つまり「暗黙の了解」は「言葉にしなくても納得している」という意味になります。

■「言い変え」表現

・シンクロする
「シンクロ」は「シンクロナイズ」を略したカタカナ語で「一致させる」「同時に起こる」という意味。「動きがシンクロした」のように、事前の打ち合わせなしに同じ行動を取った際に使われます。

・つうかあ
「つうといえばかあ」の略。互いに気心が知れていて、ちょっと話をすればすぐその話の内容がわかる様子。

・息が(ぴったり)合う

・相性がよい


【「反対語」は?】

・同床異夢(どうしょういむ)
同じ床に枕を並べて寝ながら、それぞれ違った夢を見ること。転じて、「同じことを行いながら、考えや思惑が異なること」を表します。

・隔靴掻痒(かっかそうよう)
「靴の上から足のかゆいところをかく」の意から、「思うようにならないで、もどかしいこと。核心にふれないで、はがゆいこと」を指す四字熟語です。


【「英語」で言うと?】

「あうんの呼吸」をそのまま表す英語表現はありません。「仲のよい」や「相性のよい」といった意味であれば、[get along well with~]や[good chemistry]が使えます。

・We are getting along very well with each other.(私たちはお互いとても息が合っている)

・We got through the pinch with a good chemistry.(私たちはあうんの呼吸でピンチを切り抜けた)

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昭和を代表するドラマ脚本家で作家の向田邦子さんの『あ・うん』は、言葉にせずともわかりあえる中年男性ふたりの友情と、親友の妻に対する秘めた恋心を描いた名作です。言葉にするのは簡単ですが、あえて言葉にしない。あえて言葉にしない相手の気持ちを察しても、それと指摘しない…こんな微妙なバランスの上になりたつ関係を構築できるのも、大人ならでは。大人の語彙力を駆使し、ここぞという場面で「あうんの呼吸」を使ってみてくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『四字熟語ときあかし辞典』(研究社) /『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社) :