自然豊かな山里で人間の深みを描き出す、映画『かくしごと』。舞台となったロケ地は長野。主演の杏さんは、2拠点生活を送るフランスへ移住する直前まで撮影に取り組んでいたのだとか。インタビュー3回目では、撮影の裏側で支えになったもの、38歳の今抱く「演じる」ことへの思いに迫りました!

俳優の杏さん
シャツ¥217,800[予定価格/6月中旬発売予定]・パンツ¥225,500(フェンディ ジャパン) 靴¥130,900(セルジオ ロッシ カスタマーサービス<Sergio Rossi>) ピアス¥242,000[片耳価格]・ブレスレット¥649,000・ネックレス¥847,000・リング¥352,000(フレッド カスタマーサービス<FRED>)
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杏さん
俳優
(あんさん)1986年、東京都生まれ。'01年モデルとしてデビュー。'05年から海外のプレタポルテコレクションで活躍し、'07年に俳優デビュー。2023年には映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』『キングダム 運命の炎』『私たちの声』『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』『窓ぎわのトットちゃん』と、数々の話題作に出演。俳優業を中心に、ナレーターや声優など多彩に活躍。2022年からは、3人の子供と共に日本とパリの二拠点生活を送る。日々の暮らしを伝える、YoutubeやInstagramも人気。

「演技でも、服が点描みたいに自分を象ってくれる」

――作中では長野県・高遠の美しい日常の風景も印象的でした。映画『キングダム 運命の炎』地方ロケは、ご友人家族と合宿を組んで乗り切られたそうですが、今回はいかがでしたか?

「夏休み時期だったこともあり、長野ロケも合宿で、2~3家族に入れ替わり立ち替わりで一緒に過ごしてもらいました。日中は子供たちと一緒に遊んでもらったり、空き時間は私も参加したり。子供たちも楽しみながら過ごせてありがたかったですね」

――役と自分、切り替えのコツはありますか?

「役衣装を着て、ひとつひとつ支度をするうちに千紗子になるので、それを脱いで自分の服を着ると、何か剥がれていく感覚になりますね。ファッションのお仕事でも同じなのですが、服が気持ちをつくってくれる。素敵な服を着て街を歩くと、すっと背筋が伸びる感覚に近いのかなと思っています。お化粧をしてジュエリーを身につけていく、そのひとつひとつが点描みたいに自分を象ってくれるというか。

関根光才監督は、つくり込むのではない生の表情を、他の大人がどうやったら引き出せるかを大事にされていて。特にラストシーンは、私も「テストを重ねるのではなく、いい意味で場当たりで本番に入れたら」と事前に相談させていただきました。出来上がったシーンを観て、ゾクッとするような最後になったなという衝撃がありましたね」

俳優の杏さん
「衣裳を脱いで自分の服を着がえると、何か剥がれていく感覚に」(杏さん)

――感情が大きく動く役柄で、撮影期間は2日に1回は泣いていたとか。気持ちを和らげていたものは?

「『You Are My Sunshine』を車の中でよく聴いていました。アメリカのポピュラーソングで子供向けにも歌われていますが、"あなたはたったひとつの太陽の光、だからどうか奪わないでください"という歌詞が千紗子の気持ちと重なる部分があって」

――『かくしごと』は、記憶がカギとなる作品です。杏さんが、忘れたくないものは何ですか?

「言葉は忘れたくないですね。ただ、認知症は若年性で発症する可能性もある。事故での記憶障害などを含めると、いつ自分がどうなってしまうのか、誰にもわからないと常々思っています」

――ご自身の軸となっている記憶はありますか?

通っていた小学校では6年間、日記を書く習慣があって。この日記を書かなければ、後でその日がなかったことになりそうだ…という焦燥感を覚えることはよくありました。今はバイオリズムで書いたり書かなかったり。記録は好奇心や興味の源でもあるので、残したいなという気持ちは変わらずにもっています。

俳優の杏さん
「自分ではない何かになれるってすごく楽しいので、好きだなと思います」(杏さん)

――今の杏さんにとって「演じる」とは?

「分が普段生きていたらできないようなことを、たくさん体感できる。自分ではない何かになれるってすごく楽しいので、好きだなと思います。もちろん苦しさもあって、演技とはいえ泣けば心も疲れますし、目が重たいな、冷やさないと腫れちゃうな…といった消耗ラリーが2日にいっぺんやってくることもあるのですが(笑)」

――では最後に、38歳を迎えたご自身が思う、俳優・杏の強みと弱みは?

「とにかくいろんなことにたくさん手を伸ばしつつ、好奇心のおもむくままに挑戦してきました。転じれば、広く浅くなってしまうというのがひとつの弱みかなとは思っています。広げて深める好奇心と努力を、無理のない範囲で続けていきたいです」

俳優の杏さん
「広げて深める好奇心と努力を、無理のない範囲で続けていきたい」(杏さん)

映画『かくしごと』 2024年6月7日(金)全国公開!

映画「かくしごと」キービジュアル
(C)2024「かくしごと」製作委員会
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絵本作家の千紗子は、認知症を患う父・孝蔵の介護のため、渋々田舎に戻ることに。よそよそしい父との生活に疲れ果てていたある日、事故で記憶を失った少年と出会う。少年の体には虐待の痕があり、千紗子は彼を守るために自らを母親だと偽ることを決意する。
ひとつの〝嘘〟から始まった千紗子と少年、そして認知症が進行する父との共同生活。ぎこちないスタートながらも、次第に心を通わせ、新しい家族の形が生まれていく。しかし、そのささやかな幸せは長くは続かなかった。
なぜ彼女は嘘をついてまで少年を守ろうとしたのか。少年に隠された秘密、思い出してはいけない過去、ひとつの嘘をきっかけに明かされていくそれぞれのかくしごととはー。

脚本・監督:関根光才
原作:北國浩二『噓』(PHP文芸文庫刊)
出演:杏、中須翔真、佐津川愛美、酒向芳、木竜麻生、和田聰宏、丸山智己、河井青葉、安藤政信 /奥田瑛二
音楽:Aska Matsumiya
主題歌:羊文学「tears」F.C.L.S.(Sony Music Labels Inc.)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024「かくしごと」製作委員会

公式ホームページ / 公式X

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PHOTO :
三宮幹史(TRIVAL)
STYLIST :
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犬木 愛(AGEE)
WRITING :
佐藤久美子
EDIT :
福本絵里香