シェフを務めるのは協同経営者の一人でもあるシモーネ・チプリアーニ。16才で料理の道を志し、現在32才だが、すでにこの世界ではベテランの域。スペインはじめ世界各地で最先端の技術と料理思考を学び、フィレンツェに戻ってからはすでに以前いたレストランにミシュラン1つ星をもたらしている。

伝統的トスカーナ料理を再解釈した料理

左・テーブルにつくやいなや運ばれてきたパンにまずびっくり。これはレモンを炭にし、生地に練りこんで焼いたパン。右。シェフのシモーネ・チプリアーニ。
左・テーブルにつくやいなや運ばれてきたパンにまずびっくり。これはレモンを炭にし、生地に練りこんで焼いたパン。右。シェフのシモーネ・チプリアーニ。

シモーネたちが打ち出したコンセプトは店が客をもてなすというレストランの本質に立ち返ること。店内はかつてトラックの配送所だった場所を改装、一段高い荷揚げスペースは現在シモーネが料理を仕上げる、見せるキッチンとなっている。パリのトレンドがネオ・ビストロなら、「エッセンツィアーレ」のスタイルは「ネオ・オステリア」と言い換えてもいい。本来「オステ」とは客をもてなす主人という意味。料理は伝統的トスカーナ料理を再解釈したハイ・エンド・キュジーヌだが、サービスは本来イタリアの食堂であるオステリアのような人間味あふれるもてなしを追求。実際「エッセンツィアーレ」ではサービス・スタッフはひとりだけで、出来上がった料理はシモーネはじめ料理スタッフが自らは運び説明する。ゲストからみれば、料理人が直に説明してくれて、会話を交わすことができるのはなんとも贅沢だ。

シモーネが提案する料理のコース

「エッセンツィアーレ」の特等席は一段高くなった場所にあるカウンターで、目の前でシモーネが料理を仕上げてくれる。こちらは前菜の「イチゴとフランボワーズ、牛肉のタルタル」
「エッセンツィアーレ」の特等席は一段高くなった場所にあるカウンターで、目の前でシモーネが料理を仕上げてくれる。こちらは前菜の「イチゴとフランボワーズ、牛肉のタルタル」

まず前菜は「イチゴとフランボワーズ、牛肉のタルタル/Battuta Fragola e Lampone」。タルタルは本来パリのビストロはじめ、トラットリアの定番メニューだが、そこはシモーネ風にアレンジ。セルクルで綺麗に整えたタルタルのトッピングはフリーズドライのフランボワーズ、ポロねぎ、しそのスプラウトそしてなんとイチゴ。ビネガーの代わりにイチゴとフランボワーズで酸味を加え、マスタードとわさびクリームで味を締める。甘みと酸味の組み合わせは、イタリア伝統の「アグロドルチェ」というコンセプト。食欲を刺激してくれる前菜だ。

なんともユニークな姿で登場したスパゲッティだが、口に運んでみると確かにウニのアーリオオーリオとなる、口中調理の進化系。
なんともユニークな姿で登場したスパゲッティだが、口に運んでみると確かにウニのアーリオオーリオとなる、口中調理の進化系。

パスタは見てびっくりのプレゼンテーションで登場した「冷製パスタのアーリオ・オーリオ・エ・マーレ/Aglio olio e mare」すなわち海のアーリオ・オーリオ。太めのスパゲットーニにウニとイタリアンパセリ、海苔、オイスターリーフ、さらにニンニククリームをトッピングして、一口頬張ればなるほど、海の香りのアーリオ・オーリオとなる仕掛け。ウニと海苔とニンニク?と思うかもしれないがこれが実はパスタによくあう。

この日のメインは「鶏肉とキャビア」。カジュアルなオステリアだけに高級食材は極力廃し、日常的な食材をシモーネならでのテクニックと組み合わせで楽しませてくれる。
この日のメインは「鶏肉とキャビア」。カジュアルなオステリアだけに高級食材は極力廃し、日常的な食材をシモーネならでのテクニックと組み合わせで楽しませてくれる。

メインで登場したのは「鶏肉とキャビア/Pollo Caviale」これはやわらかく火を入れた鶏もも肉に、鶏のブロードとバター、生クリームで仕上げたソース、キャビア、真空マリネでぱりっと仕上げたレタスで構成したもの。中はしっとり、皮はぱりっとした鶏肉と野菜、キャビアのコンビネーションが心地よい。デザートもいま流行りのデコンストラクション・デセール、つまりデザートの要素を一度分解して再構築したスタイルだ。この日は「オリーブオイルの花」と題し、季節のフルーツやエディブルフラワーをオリーブオイルでまとめたなんともイタリアらしいデザートだった。ちなみにこの3皿のデグスタツィオーネで€35、5皿のコースでも€55とリーズナブルなのも人気の秘密か。

Ristorante Essenziale
Piazza Cestello,3r FIRENZE
TEL:055-2476956
19:00〜22:00 月休
www.essenziale.me

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。