東京で現在、開催中の展覧会「カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展」を前に、スペシャルな対談が実現!【カルティエと日本 ―2つの絆を結ぶアート―】カルティエ現代美術財団 インターナショナル ディレクター エルベ・シャンデスさん×俳優・鈴木保奈美さん

パリ14区のカルティエ現代美術財団を訪れた保奈美さん。降り注ぐ日差しに、木々たちの喜びの声が聞こえてくるような爽やかな初夏の日。エルベさんとの対談が行われました。

インターナショナル ディレクターとしてあらゆる場所から新たな才能を発見し、パリで、そしてそこから世界各国で、数々の展覧会を企画してきたエルベさんとのアート談義は、時を超え、国境を越え、既存の価値観を超えて、自由への気付きを与えてくれるものになりました。

Herve Chandes さん
「カルティエ現代美術財団」インターナショナル ディレクター
(エルベ・シャンデス)1985年にカルティエ現代美術財団に入社し、90年からは財団の海外進出や活動を推進する役割を担う。94年から2023年までマネージング ディレクターを務め、財団での展示だけでなく、海外での展覧会も数多く手掛ける。
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左/カルティエ現代美術財団 インターナショナル ディレクター エルベ・シャンデスさん、右/俳優・鈴木保奈美さん(保奈美さん衣装)ワンピース¥308,000(フェラガモ・ジャパン)、イヤリング¥1,227,600・ブレスレット¥1,834,800・ リング¥2,164,800(カルティエ)

鈴木保奈美(以下、保奈美):昨日、カルティエ現代美術財団の展覧会に伺って、空間がとても特徴的だなと感じました。インドの「スタジオ・ムンバイ」による、建築がテーマの展覧会(現在は終了)でしたね。ガラス張りの建物の中に彫刻や陶器、工芸、建築素材などさまざまな制作物が展示されていて、圧倒されました。

エルベ・シャンデス(以下、エルベ):今回に限らず、当財団で紹介するアーティストや建築家は型破りなのです。パリに暮らす人たちがなかなかアクセスすることができない、世界各地のアーティストを紹介する現代美術の先駆的場所であることが私たちの役割ですから。


カルティエ現代美術財団は、パリ14区ラスパイユ通りに面したガラス張りの建物で、1994年にフランス人建築家ジャン・ヌーヴェルの設計で竣工。1200平米の展示空間も併設し、展覧会も開催されている。

保奈美:日本人アーティストの作品も積極的に紹介されているという印象です。写真家の森山大道さんや、映画監督の北野武さんなど、初個展がパリというケースも多いのでは?

エルベ:私たちはアーティストにもスタッフにもオープンであることを信条にしています。欧米だから、アジアだから、もちろん日本だから、ということはなく、出合いも案外偶然だったりするんですよ。例えば、ダイドー・モリヤマは、私が日本を訪れていたとき、眠れなくてふと立ち寄ったブックセンターでたまたま彼の写真集を手に取ったのが、展覧会のきっかけになりました。タダノリ・ヨコオもそうですね。そういう偶然もおもしろいと思いませんか?

保奈美:本当にそうですね。展覧会が各国で開催され、アーティストとその作品が世界で知られていくこともとても意義があります。ひとつの展示について、いろんな国の人が関わるイメージでしょうか?

エルベ:そうです。私たちの拠点はパリですが、ここで行った展示は、世界各国に広がっていくんです。芸術祭に参加することもありますよ。各都市のチームとコラボレーションし、関係性を深めていく。アーティストだけでなく、私たちスタッフも、現代美術を通じてたくさんものを受け取ることができるのです。

俳優・鈴木保奈美さん
 

「心を開いて、作品と出合いたい。新しい発見は、私たちの日常に大切な何かを教えてくれるから」―保奈美さん

カルティエ現代美術財団では現在、50か国500人以上のアーティストによる4000点以上の現代美術コレクションを収蔵。海外での展覧会も積極的に企画している。日本では'21年に開催された「横尾忠則:The Artists」展が記憶に新しい。カルティエ現代美術財団の依頼で描かれた肖像画全139作品が一堂に並び、大きな話題を呼んだ。

保奈美:先ほど「偶然の出合いもある」とおっしゃいましたが、エルベさんはふだんからどんなふうにアンテナを張っているのですか?

エルベ:私にとって芸術作品を発見することは、新しい風景のなかを散策するようなもの。心を開いて、受け取り、耳を傾ける。それだけです。

保奈美:私は俳優なので、アーティストと展覧会の関係は、俳優と舞台のようなものではないかなと想像してしまうんです。限定された空間と時間を共有することが似ている、と。そして私は、舞台が終わった後も、観客の方々に心に残るような何かを持って帰ってもらえたらうれしい、といつも思っているのですが、エルベさんはいかがですか?アーティストを紹介したり、展覧会を企画したりする際に、鑑賞者の暮らしや人生に何かしらのインパクトを与えることを意識することがありますか?

エルベ:とても興味深い質問ですね。もちろんそうであれば素晴らしいことですが、なかなか難しいことでもある。私が展覧会をオーガナイズするにあたって心掛けていることは、「どれだけ美しい物語を語れるか」ということでしょうか。これだけでも大きな試みだと感じています。

保奈美:たくさんの美しい物語が紡がれてきたというわけですね。

エルベ:そうです。物語を語ることが私たちの行うべきこと。そういう意味では、展覧会は小説のようなものかもしれません。アーティストも、鑑賞者も、その登場人物なのです。

「展覧会とは、小説のようなもの。アーティストたちと鑑賞者たちは、皆、その小説の登場人物なのです」―エルベさん

カルティエ現代美術財団インターナショナル ディレクターのエルベ・シャンデスさん
 

1974年に「カルティエ」が日本に最初のブティックを開いてから50年となる2024年。それを記念し、東京国立博物館で開催されるのが「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話」だ。メゾンと日本を結ぶさまざまなストーリーを、「カルティエと日本」「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」というふたつの絆をひもときつつ紹介する。

エルベ:私たちはこれまで30年以上にわたって、写真、建築、デザイン、絵画まで、多様な分野の日本のアーティストとの関係性を築いてきました。今回の東京での展覧会では、そういった人と人との関係も如実に物語られます。カルティエ現代美術財団と日本との歴史は、出合いの歴史です。そして、そうした親密な関係性のなかから生まれた新作が披露される。そのことを日本の皆様にお伝えできればという気持ちがあります。

保奈美:参加アーティストを拝見すると、村上隆さんや杉本博司さん、三宅一生さんなど日本の私たちもよく知るアーティストもいれば、気鋭の方もいらっしゃいますね。新作も観られるのでしょうか?

エルベ:ええ、今回は16人のアーティストの作品をご紹介します。なかでもショウ・シブヤの新作シリーズは見どころのひとつです。彼はブルックリン在住のアーティストで、われわれの依頼によって、歌川広重にオマージュを捧げた連作を制作しました。ぜひ楽しみにしてください。


澁谷翔は『ニューヨーク・タイムズ』の1面全面にその日の日の出を描く〈Sunrise from a Small Window〉を2020年コロナ禍を機に手掛けている。歌川広重と『東海道五十三次之内』(1832年)へのオマージュとして制作された今回の連作〈日本五十空景〉では、日本全国47都道府県すべてを訪れ、毎日、地方日刊紙の1面に空を描いた。

保奈美:「日本との絆」がテーマの展覧会ということもあって、日本人の私たちとしてはつい前のめりになってしまいそうですが(笑)、オープンな気持ちで訪れることで、たくさんの新しい発見がありそうです。

エルベ:それこそが私たちのミッションです。新たな才能を見出し、紹介する。世界各国で展覧会を開催するたびに思うのは、アーティストたちはわれわれと共に、国を越えて旅をしているのだということ。この感覚が、いつも私自身にあります。

保奈美:旅をしながら、展覧会という小説を紡いでいるのですね。

エルベ:そうです。私たちとアーティスト、コラボレーター、鑑賞者で一緒につくり上げる小説です。

保奈美:私も登場人物になれることを楽しみにしています。

緑に囲まれたガラス張りの空間はアーティストの自由な発想を広げていく

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Fondation Cartier pour l’art contemporain カルティエ現代美術財団 

1984年設立。企画展、ライブパフォーマンス、講演会といったプログラムを通して、あらゆる分野の現代美術を世界に広めることをミッションとする民間文化機関。パリ14区モンパルナスのラスパイユ通りに位置する、建築家ジャン・ヌーヴェルが手掛けた建物で展示を開催している。

261, Boulevard Raspail75014 Paris,France
https://www.fondationcartier.com/
※展覧会詳細はHPで確認のこと。


「カルティエ」と日本との「対話」を浮き彫りにする知的な展覧会「カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 ―美と芸術をめぐる対話」

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「カルティエ」が日本で最初のブティックを東京・原宿にオープンしたのが1974年。それから50年を記念して、「カルティエ」と日本をつなぐ展覧会が開催される。会場となる「東京国立博物館 表慶館」の左右対称に置かれた展示空間を利用し、右翼ではアーカイブジュエリーを中心に貴重なプライベートコレクションなどを、左翼ではカルティエ現代美術財団と日本のアーティストとの絆を紹介する。建物中央で展示される澁谷翔の新作インスタレーションも必見。

期間:7月28日(日)まで開催中
場所:東京国立博物館 表慶館
開館時間:9:30〜17:00、金・土曜日は〜19:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日、7月16日 ※7月15日は開館
料金:一般¥1,500、大学生¥1,200

TEL(ハローダイヤル):050-5541-8600

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

PHOTO :
浅井佳代子
STYLIST :
犬走比佐乃
HAIR MAKE :
福沢京子
WRITING :
剣持亜弥
EDIT :
喜多容子(Precious)
パリ・コーディネーター :
AYUMI SHIMODA