“閉じられた空間で展開される軽妙な会話劇”で笑いと感動を届ける喜劇の天才、脚本家の三谷幸喜さんが5年ぶりに映画を監督！ その気になる作品『スオミの話をしよう』は、主演の長澤まさみさんが豪華俳優陣とくりひろげる極上のミステリー・コメディです。今作が9本目の監督作品となる三谷さんと、長澤さんの4番目の元夫を演じる西島秀俊さんに、作品の魅力を語り尽くしていただきました。
【三谷幸喜監督×西島秀俊さん インタビュー Vol.1】「どうやったら西島さんを笑わせることができるのかに集中しながら演出をしていました（笑）」 を読む
物語最大のクライマックスシーンの緊張感を“意外な方法”でゆるめた長澤さん
―――Vol.1では映画『スオミの話をしよう』におけるユニークな“三谷演出”や、西島さん演じる神経質な刑事・草野の愛すべきキャラクターについてお聞きしました。Vol.2では作品のタイトルにちなみ、ヒロインである“長澤まさみさんの話をしよう”ということで、お二人から見た長澤さんの仕事のスタンスや人となりについて伺えればと思います。
三谷 「実は、本作のスオミはとても難しい役なんです。5人のパートナーが思い描く彼女はそれぞれ少しずつ印象が違ったりするのですが、長澤さんはそんなスオミを“今をたくましく生きるひとりの女性”として僕が思った以上にしっかりと成立させてくれました。演技に対してものすごくストイックな方で、コメディエンヌとしてのはっちゃけたパブリックイメージをもちつつ、繊細な演技にも全力で注力するところに監督として魅力を感じました」
西島 「本当に多彩な色を放てる俳優さんだからこそさまざまな役を演じ分けることができるし、どのようなタイプを演じてもちゃんとチャーミングな人物になる。そんな彼女の魅力があますところなく伝わるこの作品は、長澤さんのために書かれたといっても過言ではないですよね」
三谷 「そうですね。長澤さんのジメジメしていないカラッとした陽性な強さが僕は大好きで、シナリオもそんな彼女を意識しながら書き上げました。ですが実際の長澤さんは演技に対してすごく悩まれる方で、OKが出たあとでも反省されることがたびたびでした。“本当にこれでいいんですか？”と、ご自身としてはもう少し立ち止まって思案をしたそうな様子がうかがえたことも。もしも“じゃあ長澤さんが満足できるまでやりましょう”と言ったら、延々と演じ続けることができるくらい向上心の強い方なんじゃないかと受け取りました」
西島 「芝居をしていないときの長澤さんは、何かこうふわっとした空気をまとっていて穏やかで物静かな印象の方なんです。それがひとたび芝居に入ると周囲がパッと明るくなるような、華やかな演技をされる。そのギャップも素敵だなと思いました」
三谷 「かと思いきや、とんでもなくおちゃめな一面も見せてくれて、物語のクライマックスとなる重要なシーンを撮影していた日のことです。長澤さんの集中が切れないように、その日僕はなるべく近寄らないように離れた場所から見ていたのですが、ふと気づくと長澤さんがこちらに向かってツカツカ歩いてやってこられた。何を言うのかな？と思って見ていたら、“大切なシーンを前にものすごく緊張していたら、口内炎ができちゃって”と、ペロッと見せてくれたのです」
西島 「そんなことが」
三谷 「僕もこれまで人の口の中を見たことがなかったので、ちょっとびっくりして（笑）。周囲の緊張感もご自身の緊張感も、おちゃめにほぐそうとしてくれたのだと思うのですが、なんかそういうかわいらしいことをされる方なんです」
西島 「あのクライマックスの“演じ分け”は、ものすごいインパクトがありましたね」
三谷 「西島さん、演じ終えた長澤さんにひとこと声をかけられたんですよね。長澤さん、それがすごくうれしかったととても喜んでいましたよ」
西島 「リハーサルの時点から本当に素晴らしい演技だったんですが、三谷監督の脚本は “なんてハードルの高い演技を求めるんだ”と驚くようなハイレベルかつハードなシーンだったので、どう演じきるのだろうかと思いながら見ていたんです」
三谷 「（笑）」
西島 「4分半以上に渡る長回しのシーンでしたが、長澤さんはいくつもの難関を次々とクリアされて、その圧巻の“演じ分け”には思わず見入ってしまったほどでした」
“笑い”は豊かな文化であり日常のつらさも忘れる大切なひととき
―――今作は広い世代の方が楽しめるエンタメ作品になっていると思われます。これから観る方たちにどんなふうに届いてほしいか、メッセージをお願いします。
西島 「本当に厳しいニュースや暗いニュースを多く目にする時代になっていますよね。本作はそれこそ子どもから大人まで楽しくご覧いただける作品になっていますので、こんなときこそ皆さんで劇場に見に行って一緒に笑って、楽しいひとときを過ごしていただけたらなと思います」
三谷 「僕はいつも作品をつくるときに、たとえば現代の日本を描くとかリアリズムみたいなものにはこだわらないようにしているんです。そのジャンルなら僕よりうまくつくれる方がたくさんいらっしゃいますから。三谷幸喜がつくるべきは、見てくださる方の日常生活とはちょっと離れた世界の話。でもファンタジーやSFほどかけ離れたものではなく、少しだけ異なる世界に没入して楽しんでいただいて、作品に触れている間は現実を忘れて楽しんでいただけるものをつくりたいと常に思っているんです」
西島 「そういう意味でいえば、今作は衣裳や美術にとてもいいものが使われていて、監督もおっしゃったように日常とは少し離れた豊かさでつくられているんですよね。たとえば今作の舞台となる富豪の邸宅のリビングはこだわりのインテリアでつくられていて、僕たちもセットに入った瞬間、その世界に没入してしまうほどでした」
三谷 「僕の中では“日常ではない世界の話であること”を端的に表すアイテムのひとつが“靴”なんです。だから僕の芝居に出てくる人物たちは、靴下やスリッパなど日常を想起させるものは履かずに、みんな靴を履いているんですよ。今作も家の中ですがみんな靴を履いている。そこにちょっと僕なりのメッセージと言いますか、“これは日常を描いてるものではないんですよ”というアピールがあるんです。そんなことも頭の片隅に置いていただきつつ、とはいえなにも考えずにまるっと作品を楽しんでいただけるとうれしいですね」
芝居のプロたちによる極上のエンタメ映画の舞台裏を明かす三谷監督と西島さん。おふたりのクロストークにも笑いがたえない豊かなひとときでした。Vol.3では、おふたりの素顔に迫る３つの質問をぶつけてみました。
■三谷幸喜 脚本・監督｜映画『スオミの話をしよう』9月13日（金）全国公開！
ある日、大富豪の妻・スオミが突然姿を消す。彼女が行方不明になったことを知り、スオミを愛した年齢も職業も異なる個性的な5人の男性たちが、夫の住む大豪邸に集まる。彼らはそれぞれスオミについて語っていくが、浮かび上がる思い出の中の彼女は見た目も性格も異なっていて……
脚本と監督の三谷幸喜と主演の長澤まさみが、映画で初のタッグを組んだミステリー・コメディ。大富豪の妻・スオミが行方不明になったことを知って集まった5人の男性たちが、彼女の夫が暮らす大豪邸で、彼女について熱く語っていく。ヒロイン・スオミの個性溢れる元夫たちを、西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎ら、豪華キャスト陣が演じる。
監督・脚本：三谷幸喜
出演：長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林 隆、坂東彌十郎
戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ
製作：フジテレビ 東宝
制作プロダクション：エピスコープ
配給：東宝
(C) 2024「スオミの話をしよう」製作委員会
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- PHOTO ：
- 高木亜麗
- STYLIST ：
- 中川原寛（三谷さん）、カワサキタカフミ（西島さん）
- HAIR MAKE ：
- 立身 恵（三谷さん）、亀田 雅（西島さん）
- WRITING ：
- 谷畑まゆみ
