“閉じられた空間で展開される軽妙な会話劇”で笑いと感動を届ける喜劇の天才、脚本家の三谷幸喜さんが5年ぶりに映画を監督! その気になる作品『スオミの話をしよう』は、主演の長澤まさみさんが豪華俳優陣とくりひろげる極上のミステリー・コメディです。今作が9本目の監督作品となる三谷さんと、長澤さんの4番目の元夫を演じる西島秀俊さんに、作品の魅力を語り尽くしていただきました。

三谷幸喜さん
(みたに・こうき)1961年、東京都出身。日本大学藝術学部演劇学科在学中の1983年に“劇団東京サンシャインボーイズ”を結成。93年にドラマ「振り返れば奴がいる」(CX)で脚本家デビュー。「古畑任三郎」(94年/CX)で一躍人気脚本家としての地位を確立。以降、数々の舞台、テレビの脚本・演出を手がける。97年に自身の舞台作品を映画化した『ラヂオの時間』(東宝)で初監督。『THE 有頂天ホテル』(06年/東宝)、『ザ・マジックアワー』(08年/東宝)などで映画監督としても人気を集める。2022年に脚本を手がけた3作目のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が大きな話題に。2024年9月13日より脚本・監督を務めた映画『スオミの話をしよう』(東宝)が全国ロードショー公開。
西島秀俊さん
(にしじま・ひでとし)1971年、東京都出身。92年にドラマ「はぐれ刑事純情派5」(EX)で俳優デビュー。翌年「あすなろ白書」(93年/CX)で注目を集め、映画『居酒屋ゆうれい』(94年/東宝)で映画デビュー。黒沢清監督の『ニンゲン合格』(99年/松竹)、北野武監督の『Dolls ドールズ』(02年/松竹)で主演を務め、各賞を受賞する。ドラマ『MOZU』(14年-15年/TBS)、ドラマ『きのう何食べた?』(19年-23年/TX)は映画化もされた人気シリーズに。主演を務めた映画『ドライブ・マイ・カー』(21年/ビターズ・エンド)では、第56回全米批評家協会賞でアジア人初の主演男優賞を受賞した。映画『スオミの話をしよう』ではヒロイン・スオミの4番目の元夫、草野圭吾を演じている。

撮影現場まで笑いに満ちる三谷監督の手腕のなせるワザとは…

――映画『スオミの話をしよう』は“三谷ワールド”の魅力がぎっしり詰まったとても痛快な作品です。本作を考案されたいきさつから教えてください。

三谷「これまで8本映画を撮ってきて、自分がいちばん得意なもの、自分にしかできないものってなんだろうと考えてみたんです。舞台出身の人間だからなのか、僕がつくる映画はどうしても舞台っぽく見えてしまうところがある。それならいっそ開き直って両方のいいとこどりじゃないですけれど、舞台をつくるつもりで映画を撮ってみようと思ったんです。シナリオもいつも書いているようなセリフ劇調にして、舞台のようにワンセットでできるようなシチュエーションで構成しました。 リハーサルも舞台稽古のように少し長めに時間をとりました。そして、俳優のみなさんも実力派の方たちをキャスティングさせていただきました。“いろいろな意味ですごく舞台っぽい映画をつくってみたい”という発想から始めて、最終的にそんな映画が出来上がったと感じています」

西島「まさに、まるで舞台のように長いシーンをワンカットで撮るために、出演者全員で入念なリハーサルを重ねたことが思い出されます。ところがいざ本番になると、三谷監督がテイクのたびに常に新しい要素を足されていくので、現場の俳優陣が内心では戦々恐々としながら本番に向かっていく緊張感と面白さがありました。加えて、僕はとにかく吹き出すのをこらえるのが本当に大変で、緊張しながらも毎日楽しく撮影させていただきました」

三谷「そうなんですよ。僕は西島さんとお仕事させていただくのは初めてだったのですが、西島さんの苦悩に満ちた姿というか困っている様子を見るのが好きになってしまって。途中から“どうやったら西島さんを笑わせることができるのか”ということを集中的に考えながら演出していました(笑)」

西島「そうだったんですね。今作では素敵な共演者の方々とご一緒できたのですが、皆さんキャリアのある手だれぞろいなのに、監督の演出が本当に驚くようなものだったので、撮影中はどこか切羽詰まった空気が漂っていたんです。たとえばヒロイン・スオミの夫は僕を含めて5人登場するのですが、現在の夫役の坂東彌十郎さんに向けて三谷監督が真剣に、“ここでもう1回スイカを食べたら、種はこの場所までぷっと口から吹き飛ばしてください”などものすごく厳密でそんなことが可能なのだろうかというような演技を要求されるんです。でも、彌十郎さんが真剣な表情でどんな演出にもきちんと対応しておられるので、それを目の当たりにしながら毎回笑いをこらえるのが大変でした」

「現場では毎回笑いをこらえるのが大変でした」(西島さん)
「現場では毎回笑いをこらえるのが大変でした」(西島さん)

――いろいろな意味で刺激的な現場の様子が目に浮かびます。そんなユニークな初めての共同作業を通して、お互いに抱いていた印象が変わられたことがあればぜひ教えてください。

三谷「僕は西島さんにお会いするまでは、ものすごくストイックで寡黙でずっと自分の世界に入り込んで考え込むようなタイプの方なのかなと想像していたんです。けれども何年か前に初めて、西島さんが現場ですごく楽しげに落語家のようにお話しされる様子を拝見したことがあるんですよ」

西島「本当ですか」

三谷「そのとき、こちらが勝手に思っていたのとは全然イメージが違う明るい方なんだなと思ったんです。この映画が始まる前にも一度お会いしたら、非常に丁寧に僕の話を聞いてくださって。もうその瞬間に確信しました。“この方は僕と共通言語をもっている”と。

たとえば100のことを伝えるのに100必要な相手と、200言わないと100わかってもらえない相手と、10言っただけで100わかってくれる相手がいたとします。西島さんは僕が10言うだけで 100を理解してくれる方だとわかったのですごくホッとしたんですよ」

西島「ありがとうございます。僕は周囲から三谷監督の現場の楽しさと、やりがいと、ハードルの高さを聞いていたので、初めてお会いしたときはすごく緊張感をもっていたんです。でも現場に入ってみたら先ほどお話しした“スイカのタネ”の演出のように、とにかく三谷監督が発される言葉や演出そのものが面白くて、思っていたのとは違った緊張感を体感しました」

「西島さんは僕が10言うだけで 100を理解してくれる方」(三谷さん)
「西島さんは僕が10言うだけで 100を理解してくれる方」(三谷さん)

ヒロインのスオミを愛した5人の個性的な夫たち

――今作の見どころのひとつとして、長澤まさみさん演じるスオミの夫たちのキャラクター設定が非常にユニークであり、演者陣が豪華キャストであることがあげられます。改めて西島さんはなぜ4番目の夫、“かなり神経質な刑事”草野圭吾役だったのでしょう。

三谷「5人の夫たちの中で、観る人がいちばん感情移入しやすいキャラクターが草野だったからです」

西島「僕は、草野は最も観客が感情移入しにくそうなタイプかと思いましたが(笑)」

三谷「予告編にもあるように、1番目の夫はスオミの“誘拐を疑う庭師”(遠藤憲一)で、2番目の夫は“怪しいYouTuber”(松坂桃李)、3番目の夫は“情に厚い警察官”(小林隆)、4番目が西島さん演じる草野で、5番目が大富豪の現夫(坂東彌十郎)です。なのですが、やっぱり観客は草野の気持ちで観ると思いますし、草野を演じられるのは西島さんなんですよ」

西島「草野は“ほかの元夫よりも俺のほうがちょっとでも勝っていたい”と思ってしまうような、ある意味、自分ではいちばん認めたくない小さなプライドを隠せなかったりする人なんですよね。ですから、もしかしたら僕の中にもある“俺って小さいかも”と思う部分を強調して反映させて行こうと考えました。それが少しでもチャーミングに映ればいいなと思っていたのですが、出来上がったものを見たら草野はやはりなんだか感じの悪いヤツでした(笑)」

三谷「いやいや、西島さんに演じていただいたことで、草野を主人公にした刑事モノをつくってもいいぐらいのキャラクターにまで成長してくれたと僕は思っているんですよ。シナリオを書いた時点では僕は西島さんのことをほとんど知らなかったのですが、草野って相当神経質でどちらかというと困った男なんです。でもそうした人物を演じてもらいたいと思える何かは、西島さんに感じていました。一見変わった男である草野の心情が理解しやすくなるような、お客さんに寄り添えるお芝居をできる方ということでお願いして大正解でした」

「西島さんは一見変わった男である草野の心情が理解しやすくなるような、お客さんに寄り添えるお芝居をできる方」(三谷さん)
「西島さんは一見変わった男である草野の心情が理解しやすくなるような、お客さんに寄り添えるお芝居をできる方」(三谷さん)

――出演されているほかの夫のみなさんについても、何かエピソードがあればお聞かせください。

三谷「お芝居の力量のある方々に出演いただいたのですが、元夫でいうと遠藤さんもけっこう緊張されていましたね。キャリアのある方なのにひとつひとつのシーンごとに“今の、大丈夫でしたか…?”みたいにご自身で反省されている様子が印象的でした」

西島「僕は“情に厚い警察官”を演じた小林さんの存在自体がとにかくもうツボにハマってしまって。眉を強調するようなしっかりしたアイメイクも手伝って、小林さんの演技のたびに吹き出さないようそっと目をとそらしてました」

三谷「松坂さんには、ちょっと性格的に問題のある“怪しいYouTuber”役をお願いしたんですよ。5人の中で彼が最もプライドが高い男なのですが、西島さん演じる草野との水面下での心理的なバトルもすごく面白かったですし、とても細かいお芝居をきちんとされる方だなと感じました」

――“有能な捜査官”役の瀬戸康史さん、“神出鬼没な女”を演じた宮澤エマさん、“富豪の世話係”の戸塚純貴さんについてはいかがでしたか。

西島「瀬戸くんはなんでもできる人でびっくりしましたね。ダンスシーンのレッスンでも僕を含めたほかの男性陣は“これはどうしたら…”というところからスタートしたのですが、瀬戸くんはリハーサルの段階からしっかり仕上がっている印象でしたし、スキルの高さに驚かされました。戸塚くんからは“やるぞ”という意気込みが伝わってきました」

三谷「確かに、戸塚くんはいちばん若手ながら何かギラギラしていました。瀬戸さんも僕のやりたいことをパッと理解してくれる方でムードメーカーでもありましたし、宮澤さんもすごくいい空気をつくってくれました。3人がいることで現場のムードが変わって、いい形で進む感じが常にありました」


映画が始まった瞬間からエンドロールまで、会話劇のスピード感とテンポの良さで一気に魅せる映画『スオミの話をしよう』。Vol.2では主人公スオミを演じる長澤まさみさんについて、三谷さんと西島さんにたっぷり語っていただきました。

三谷幸喜 脚本・監督|映画『スオミの話をしよう』9月13日(金)全国公開!

(C) 2024「スオミの話をしよう」製作委員会

ある日、大富豪の妻・スオミが突然姿を消す。彼女が行方不明になったことを知り、スオミを愛した年齢も職業も異なる個性的な5人の男性たちが、夫の住む大豪邸に集まる。彼らはそれぞれスオミについて語っていくが、浮かび上がる思い出の中の彼女は見た目も性格も異なっていて……

脚本と監督の三谷幸喜と主演の長澤まさみが、映画で初のタッグを組んだミステリー・コメディ。大富豪の妻・スオミが行方不明になったことを知って集まった5人の男性たちが、彼女の夫が暮らす大豪邸で、彼女について熱く語っていく。ヒロイン・スオミの個性溢れる元夫たちを、西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎ら、豪華キャスト陣が演じる。

監督・脚本:三谷幸喜
出演:長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林 隆、坂東彌十郎
戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ
製作:フジテレビ 東宝
制作プロダクション:エピスコープ
配給:東宝
(C) 2024「スオミの話をしよう」製作委員会

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PHOTO :
高木亜麗
STYLIST :
中川原寛(三谷さん)、カワサキタカフミ(西島さん)
HAIR MAKE :
立身 恵(三谷さん)、亀田 雅(西島さん)
WRITING :
谷畑まゆみ