店の名は「29 rôtie」。「ニッキュー ロティ」と読む。どこの地方のどんな料理なのか、ジャンルの想像もつかない個性的な名前のその店は、大塚駅から歩いて8分のところにある。
大塚といえば、老舗「江戸一」や銘酒居酒屋「串駒」など、遠くから足を運ぶ人も多い居酒屋の名店のある町。その地で、2012年5月にオープンした「29 rôtie」は、「串駒」出身の江澤雅俊さんが営む、魅力にあふれる居酒屋なのである。
昭和の色香を残す大塚で見つけた名店
生ハムと燗酒の店「29 rôtie」
JR大塚駅の南口を出て、三業通りと呼ばれる商店街をしばし歩くと、左手に「29 rôtie」がある。三業とは、料理、待合、芸者置屋の三業態のことで、いわゆる花街を指す。昭和の初期から中頃にかけて賑わいを見せた大塚の花街の面影を、今もさりげなく残す界隈だ。
「29 rôtie」の客の多くは、まずは「生ハムと燗酒の店」という評判を聞いて訪れるという。店主の江澤さんが、練馬にあった(現在は成城学園前)「サルメリア69」という店の生ハムに魅せられ、いろいろ食べるうちに生ハムと燗酒の組み合わせの旨さを発見。店を開くなら、これを看板にしようと決めた、という経緯があるからだ。
店内は5席のカウンターと、奥の隠れたところに4席のテーブル席。そんな小ぢんまりとした店の窓際に存在感のあるスライサーが置かれているのを目にすると、生ハムと燗酒の組み合わせに期待が高まる。
とはいえ、メニューを見ると、生ハムが看板メニューなのだからイタリアやスペイン風の料理が主かと思いきや、そうでもない。しかもカテゴライズできれない料理の種類の多さに驚く。「自分が食いしん坊なので、自分が好きな料理をお出ししているだけです」と店主の江澤さんは言う。
実は「29 rôtie」には、生ハムのほかにもうひとつの売りがある。それが、インドの焼き窯タンドリーで肉を焼くロティ料理。店名にあるrôtieとは、フランス語でローストの意味。メイン料理としてメニューに並ぶロティ料理には、牛や豚だけでなく、鴨やハト、馬のリブロース焼きといった、ふつうの居酒屋には見られない高級な素材が並ぶ。料理人としてのスタートはフランス料理の修行から、という江澤さん。だからこそ実現した、スペシャルな居酒屋メニューなのだ。
そんな多彩なメニューから、深夜のひとりカウンター飯にお勧めの料理を出してもらう。まずは、「三つ選んで1000円」とメニューに書かれた、組み合わせ自在の小つまみ3品。次にお目当の生ハム。深夜でもやっぱり食べたいメインには、窒息鴨のモモ肉焼きを勧めてくれた。
まずは、組み合わせ自在の小つまみ3品から
ところで、生ハムと燗酒の組み合わせが評判となるわけを、実際に頂いてみて納得。燗酒と合わせることで、口の中で生ハムがとろけていくような感覚に。同時に生ハムの旨味が口の中いっぱいに広かっていく。もう止まらない。あっという間に一皿を平らげてしまった。生ハムのメニューはサラミも交えて9種が用意されている。ひとり客には2種、または3種の盛り合わせがおすすめだ。
酒は、日本酒、ワインはもちろん、食後酒も充実。閉店の時間は一応24時としているが、あらかじめ電話で確認さえすれば、23時以降の入店も歓迎。24時を過ぎても、ゆったりとカウンター飯を楽しむことができる。
こんな居酒屋があったのか、と食通も大満足。大塚に通いたくなる名店が、また一軒増えた。
※価格は税込み、サービス料は別です
【お問い合わせ】
■29 rôtie
東京都豊島区南大塚1-23-8 はらだ荘1F
TEL:03-6902-1294
営業時間/18時~24時
※23時以降入店の場合、あらかじめ電話をすれば、ラストオーダーも閉店時間も延長可。
定休日/水曜日
アクセス/JR大塚駅から 徒歩約8分
- TEXT :
- 堀 けいこ ライター
- PHOTO :
- 田中麻以