今月のMs. Precious……フランス仕込みのオリジナル本格レシピと美しいスタイリングで人気の料理研究家。世田谷区深沢にアトリエ兼キッチンスタジオを構え、普段の足はもっぱらタクシー。最近になって「クルマがあると、新しい発見と出会いがあるかも……」と思いを巡らせる45歳。

今月のクルマ……【Porsche 911 Carrera 】
1964年の誕生以降、「憧れのスポーツカー」の名をほしいままにしてきたポルシェのアイコン的モデル。エンジンが前方にあるクルマが多い中、車体後端にあるのが特徴で、その唯一無二の運転感覚に根強いファンが。ストイックに走りを追求するコンセプトは「知的なアスリート」的印象も。ポルシェは2000年以降、SUVやセダンなどラインナップが広がり、ファン層もニーズもますます拡大。それでもブランドコアは、やはりいまも911。

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新たに登場したカラー「カルタヘナイエロー メタリック」。

友人から「クルマを探している女性がいて。松任谷さん、ちょっと見繕ってやってよ。ポルシェがいいんだって」と頼まれた。僕は「じゃあこれかな?」と、最新の911カレラを用意。表参道のパーキングメーターに停めて、待ちあわせのカフェに入った。


「なぜポルシェ?って、まあ愚問ですかね」――松任谷

Ms.Precious まあ、きれいな色! 黄色とクリームの中間っていうのかしら。それに少しだけライムが入っている感じ。ポルシェっていうと、もっと派手な黄色っていうイメージがあったんだけれど、こんな上品な色もあるんですね。

松任谷 はじめまして。よろしくお願いします。そう、これが最新のポルシェ911です。クルマ好きの間ではコードナンバー992.2なんて言われてますね。で、色はカルタヘナイエロー メタリックです。

Ms.Precious あ、ごめんなさい。あまりにいい色だったからつい、そちらの方に行ってしまって。こちらこそよろしくお願いします。私、あまりクルマのことは詳しくなくて。でも大丈夫でしょうか。

松任谷 大丈夫です。僕もそんなに詳しくないですから。

Ms.Precious えっ、でもクルマ関係のお仕事をずいぶんされていますよね?

松任谷 長いことは長いけど他の仕事もやっているから薄いんです。それにクルマの進化は凄くて、なかなか付いていけなかったりするんですよ。ところでポルシェというリクエストだったので最新のこれを借りてきたのですが、なぜポルシェ?って、まあ愚問ですかね。女性はポルシェが似合いますもんね。

Ms.Precious 20年位前だったか、たしか大学を卒業する頃、高速道路で年配のご夫婦が左側車線をゆっくり走られていたのを見かけたんです。なぜかそのシーンが焼き付いてしまって。

松任谷 ああ、僕もそれに似たシーンなら見たことがあります。僕の場合は70年代だったかも知れませんけど。確か鮮やかなグリーンのポルシェでしたね。運転していた男性は60代くらいだったかな。茶色っぽいハウンドトゥースのジャケットを着てました。

Ms.Precious あら、そんなことまで覚えてらっしゃるんですね。私の方はそこまでは……。で、主人と相談して結局は中古の911を購入したんですよ。あれはいつだったかしら。もう15年位前でしょうか。シルバーのね。でもポルシェはマニュアルだ、って言って聞かなくて、結局私は運転したのは1回だけ。しかもガレージから10メートルくらい。

松任谷 というのは?

Ms.Precious クラッチのつなぎかたが上手くなくて、エンストを5回くらいしたところで主人にもうやめろ、と。

松任谷 まあ、ポルシェのクラッチペダルは割合昔から重いですからね。で、そのポルシェは? 

Ms.Precious どうしたんだろう。まだ乗っているんじゃないですか?たぶん。その後、主人とは別々の道を歩くことにしたんで……。

松任谷 なるほど。でもこれはATです。今はもう911のマニュアルは10%以下だそうですよ。

Ms.Precious 助手席は何度も乗ったから覚えているけれど、中は真っ黒で殺風景でね、ウィンカーレバーなんて折れそうだったんです。

松任谷 そうですね。昔は走ることが第一、みたいなクルマでもありましたよね。それと軽くしたいから、できるだけ色々なところを削ぎ落としているような、ね。

「内装も自分好みにここまで細かく決められるのはポルシェならではなの?」――Ms. Precious

Ms.Precious わあ、外装色もいいけれど内装も綺麗。ものすごくお洒落。これが今のポルシェなんだ……。

松任谷 これは2トーンレザーの内装ですね。オプションで約70万円だそうです。

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「パンチングレザーのシートはカラーが選べてまるでリビングのソファを選んでいるみたい。昔の殺風景なシートとは大違いね。後席は人が乗るには窮屈だけど、荷物が多い私にとってはちょうどいいかも」(Ms. P)

Ms.Precious ちょっとすごいですね。でも有名なブランドのレザーのバッグも今はそれくらいしますよね。

松任谷 ここらへんは価値観の持ち方ですよね。クルマの内装は一番多く接する場所だからこだわるべきとも考えられるけれど、慣れてしまえばよほど変でない限り大丈夫とも言えますよね。

Ms.Precious でも友人とかを乗せたときにセンスを見られたりして……。

松任谷 あ、それはそうですよね。だったらここはこだわりましょう。

Ms.Precious ほかにこのクルマはどんなオプションがついているんですか?

松任谷 このクルマは走りよりも、むしろ居心地重視のオプションが多いですね。例えばこのガラスサンルーフ。走り屋は重くなるから絶対に付けないオプションですけど、居心地重視なら僕も欲しいオプションかなあ。

Ms.Precious へえ、外装色がインテリアにまで入り込んでいるんだ……。

松任谷 うーん、と、これは20万円ちょっとのオプションかな。

Ms.Precious オプションだけの総額は?

松任谷 これによると、エクステリアカラーのプラス約30万円も加えると、合計で700万円弱ですね。

Ms.Precious まあ、ちょっとびっくり。オプションだけでいいクルマが買えてしまうお値段ですね。でも逆に言えば、かなりオートクチュールのポルシェが作れるってことですよね?

松任谷 そうですね。例えばこのクルマに付いているウィングなんかは約85万円のオプションなんだけど、これ、必要ですか? ポルシェのことだからサーキットでも走るなら効果があると思いますけど、 付けなくてもある程度の速度が出るとウィングはせり出してくるし、 ないほうがスッキリして綺麗だと思いませんか?

Ms.Precious 確かに。やる気満々みたいな感じがするから、私にはなくていいかも……。

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「松任谷さんはこのウィングは要らないって言ったけど、私はどちらでも。だけど、これを付けずに浮いた80万円ちょっとで旅行に行けるって思うと……」(Ms. P)

松任谷 そう、だから、自分の好みははっきりと反映させた方がいいと思いますね。そろそろ走りましょうか。近づいたらロックが外れてドアハンドルもせり出してきたでしょ?

「ポルシェ独特の音。これって官能的ね」――Ms. Precious

Ms.Precious 私が運転するんですよね? わかりました。シートはずいぶん低いわ。昔のポルシェとはずいぶん違う感じがする。それにシートデザインが全く違うし。うちにあったのはもっとソファ感が強かったけど、これは仕事場の椅子のような硬さ。

松任谷 でも、昔のポルシェの方が仕事場って感じだったでしょ? 仕事場と言うより作業場かな。

Ms.Precious このメーターはフルデジタルなんですね。で、このステアリングホイール上のダイヤルをくるくる回すと表示が変わるんだ。何種類の表示があるんだろう……。

松任谷 僕が知る限りでは5種類ですかね。地図を全面に表示させることも出来るし、真ん中あたりに少しだけ映すことも出来ますね。これはだいぶ前からアウディがやっていましたけど。まあ、一応アウディとはファミリーですから。でも、911でこういう表示が出来るようになったのは今回からです。

Ms.Precious スターターはボタンなんですね。ポルシェはずっと回すやり方だとばかり思ってました。

松任谷 そうですね。一部のモデルは回転式のままにするそうですが、ノーマル系の911はこれですね。では走りましょう。

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「ボタンを押すだけっていうのは風情がないようだけど、今はほとんどがこのスタイルなんですね。インテリアカラーをエクステリアとリンクさせられるのは素敵。室内が華やかになるわね」(Ms. P)

Ms.Precious 緊張するなあ。下手でも怒らないでくださいね。

松任谷 大丈夫です。いろいろな方の助手席に乗っているので慣れていますから。

Ms.Precious エンジンはハイブリッドになったって聞いたけど。

松任谷 そうですね。GTSというモデルが今のところ唯一のハイブリッドですけど、これは普通に小さめのターボが2つ付いた3リッターモデルですね。そのうち、これもハイブリッドになるかもだなあ。

Ms.Precious いいなあ、この音。ポルシェはこうでなくちゃ。ここらへんは変わってないのかな。

松任谷 まあ、エンジン自体は昔とは別物ですけど、サウンドの共通点はありますよね。なんというか機械そのままの音というか、音を演出していないっていうか。

Ms.Precious 乗り心地は硬いですね。以前のものは薄いゴムの上に座っているみたいだったけど、今度のは畳の上に座っているみたい。それにこれ、ロードノイズですか? ゴーッて言ってる。

松任谷 これ、オプションの大きいホイールを履いているから……。それでもずいぶん乗り心地は良くなったと思いますけど。

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「タイヤも太いし、ホイールも大きいのね。パッと見はイカついけど、見慣れるとカッコいいのかも。最初見た時は圧倒されたけど、むしろこの数時間で"これもアリだわ!"なんて思えてきました」(Ms. P)

Ms.Precious 高速に乗りますね。おーっと、いい感じ。スピードが乗ると一体感が出てくるんですね。硬いことは硬いけれど安定感があるというか、がっちり感があります。車線変更もグラッとこないし。

松任谷 さすがにスポーツカーですよね。

Ms.Precious この間接照明? なんだかムードあります。

松任谷 これも無段階で色が変えられるみたい。ほら、この丸いカラーパレットで……。

Ms.Precious ところで私、こんなクルマに乗っていたら嫌味な女に見えないでしょうか?

松任谷 いやいや。ご自分のスタイルでオプションをチョイスされれば、出来る女に見えると思いますよ。ちょっと近づきがたい雰囲気になるのかも、だけど。

Ms.Precious 誰も寄ってこないのも寂しいですよね。

松任谷 でも黄色系の色は夏に虫が寄ってくるそうです。

Ms.Precious 虫はいらないかな。

松任谷 ですよね。

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今月のクルマ
【Porsche 911 Carrera 】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,560×1,850×1,300mm
車両本体価格:¥16,940,000(ベース価格)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

ポルシェジャパン

TEL:0120-846-911

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子