【目次】
- 「悪い顔」目白押し。大河8年ぶりの寺田心さんの場面も見どころ
- 江戸時代にもあった猫ブーム
- 江戸出版業界の謎ルールにキレる蔦重
- 次回『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回 「「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」のあらすじ
「悪い顔」目白押し。大河8年ぶりの寺田心さんの場面も見どころ
1月5日からスタートした大河ドラマも第4回。みなさまついていっておられますか? 今回は、「悪い顔」が目白押し。前半では「べらぼう」世界の二本柱のひとつである幕府の情勢にも多く時間が割かれ、腹にいろいろ含んでいる方々が、リレー走者がバトンを渡すかのごとく、次々と極上の「悪い顔」を見せていきます。
ときは1774年(安永3年)の秋。入江甚儀さん演じる田安家当主の田安治察(はるあき)が死去、その後の御三卿の波乱を予見して、まずは一橋治済(はるさだ/生田斗真さん)がにやりと悪い顔。そして、次は老中 松平武元(たけちか/石坂浩二さん)。寺田心さん演じる田安賢丸の命を受け、大奥総取締の高岳(たかおか/冨永愛さん)に白川松平家への養子入り拒否の口添えを頼みに行きます。無碍もなく断られると、すかさず持参した“翡翠の香炉”を差し出しながら上目遣いの悪い顔。その香炉を目にした高岳も…と続きます。まさに「金と欲で動いた時代」を表現するにふさわしい演出です。
さらに、徳川家治(眞島秀和さん)からその話を聞いて、田安家の取り潰しを策略する田沼意次(渡辺謙さん)も口元を片方だけギュッと引き上げて低い声で「田安家なぞ潰してやるわ」。ゾクゾクしましたね。
平賀源内(安田顕さん)に「田安、一橋両家の跡継ぎがいない場合には家を断絶する」と書き加えさせた8代将軍 徳川吉宗の偽装書状をつくり、「(敬愛する)吉宗公の意向に背きたいならどうぞお好きに」と田安賢丸に迫ります。なんということでしょう。
田安賢丸は翌年の安永4年に白川藩(現在の福島県)松平家の養子となり、のちに寛政の改革を行った松平定信となる人物です。しかしこのとき16歳。現在の寺田心さんと同世代です。江戸時代の10代は今よりずっと大人として扱われていたことは承知ですが、心くんの幼き頃からテレビでずっと微笑ましく見守っていた親戚のおばちゃん気分の世代は、心くん、こんなに大きく立派になって…と思うと同時に、こんなに心がきれいでまっすぐな賢丸が、策略ありきの世界でむごい仕打ちを受けて…と苦しくもなるのです。演技力の賜物ですね。

■御三卿とは?
さて、今回、田沼意次の罠にかかってしまう御三卿の田安家。では、御三卿(ごさんきょう)とは何でしょうか。ドラマ内でもさらりと説明されていましたが、御三卿は、将軍家の身内的立ち位置で、将軍家に後嗣(こううし)がないとき、御三家の次に後継者が選ばれる立場の家柄で、田安、一橋、清水の3家を言います。8代将軍徳川吉宗が、自身の子である次男(田安家初代)と四男(一橋家初代)を江戸城に住まわせたことに始まり、9代将軍家重が次男(清水家初代)に屋敷を与えて御三卿となりました。今回の田安賢丸のように、政治のため、ほかの大名家に養子となる役割も担っていました。そして、偽造文書の存在は不明ながら、史実でも、田安賢丸の白川藩への婿入りは、田沼意次の思惑によるものとされています。
ちなみに、徳川御三家といえば、尾張家、紀伊徳川家、水戸徳川家で、「徳川家康の男子を家祖とする大名家」というのが一般的ですね。こちらも覚えておきましょう。
そして、続く舞台、江戸吉原でも、「悪い顔」が続々と…。
江戸時代にもあった猫ブーム
一方、吉原では忘八の親父衆が猫の自慢会をしています。愛猫を抱え、にゃあにゃあとしゃべるシーンは好き好きありましょうが、当時、猫がペットとして江戸庶民に可愛がられていたのは事実のよう。浮世絵師 歌川広重の『名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣』を筆頭に、家や軒先に飼い猫が自然といる様子が描かれた浮世絵は数多く、歌川国芳(くによし)の『猫飼好五十三疋』や『流行猫の曲手まり』、『猫と遊ぶ娘』などなど…。人気浮世絵師が猫をモチーフにした作品を描いたということは、それだけ売れたと考えていいでしょう。
その猫自慢会の席で、女郎たちの錦絵をつくるよう迫られた蔦重。女郎たちから入銀させて上前をはねる算段をつけている忘八たちは「お金のことは任せておきな」と言いながら、これまた「悪い顔」をするのです。
■資金集めに奔走する蔦重は昭和の営業マン?
平賀源内から、亡き歌舞伎役者 瀬川菊之丞の人気から着物の流行が生まれたという話を聞いて、錦絵の着物を呉服屋さんが売りたい柄にして、宣伝費として呉服屋さんから資金を集めればいい、と思いついた蔦重は、遊郭に遊びに来た呉服屋さんの宴席におじゃまして、営業活動を行います。お酌をし、踊り、袖にされるも頭を下げ…。なかなか胸が痛くなるシーンでしたが、結果、これは通用しなかった、というのは令和的だったのではないでしょうか。
そして、今回のフィクサーともいえる、西村屋与八(西村まさ彦さん)の登場です。西村屋は、錦絵で有名な地本問屋で、彼の人脈により、呉服屋さんからの入銀も集まり、絵師は当時、美人画で有名な礒田湖龍斎(鉄拳さん)が担当することに。途中、ポンコツ義兄さん次郎兵衛(中村蒼さん)に墨で描かれた版下絵を台無しにされますが、唐丸(渡邉斗翔さん)の類まれなる模倣力でことなきを得て、錦絵の制作はとんとん拍子に進んでいきます。

■『雛形若菜初模様』とは?
西村屋の協力により、蔦重がつくった『雛形若菜初模様』。「雛形」は、見本帖、というような意味、「若菜初模様」は、お正月に着るお着物の模様という意味で、江戸中期の浮世絵師 礒田湖龍斎の人気シリーズで7年間で100以上作成されました。吉原の人気の花魁を美しい色合いで描いたもので、着物だけでなく、髪型や小物などにもブームを巻き起こしたといわれています。
また、『雛形若菜初模様』は、礒田湖龍斎だけでなく、鳥居清長など、ほかの浮世絵師も作成していることから、『雛形若菜初模様』はファッション雑誌名、というより「カタログ」といった意味あいの言葉だったと考えられます。

江戸出版業界の謎ルールにキレる蔦重
そして完成した錦絵を呉服屋たちにお披露目する日。飛び入り参加してきた鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助さん)と江戸市中の地本問屋を取りまとめている、リーダー的存在の鶴屋喜右衛門(風間俊介さん)に、版元でなければ本は売れない、株仲間でないと版元にはなれない、そして蔦重は仲間には入れない、と言われてしまう…。つまり、お金を出してくれたクライアントの前で、蔦重が一枚噛んでいると『雛形 若菜初模様』は出版できない、と宣言され、手を引かざるを得ない状況にされてしまうのです。今の世も、利権絡みはめんどうくさいものですが、才能ある蔦重は「出る杭」とみなされたのかもしれません。
蔦重を退けることに成功した鱗形屋と西村屋は祝杯を上げ、ふたりは「悪い顔」に。ここで初めて西村屋も蔦重を陥れる作戦に加担していたことがちゃんとわかります。第4回は鱗形屋が「俺は蔦重ごと吉原を丸抱えしたいのさ」と野心を吐いて終わりますが、どうも駿河屋市右衛門(高橋克実さん)が気になります。いつも怒鳴り散らして蔦重に手を上げるのに今回はやけに控えめ。お披露目会でもキレる蔦重を「吉原のためだ」とたしなめるのみ。これはこの先、蔦重のためにひと肌脱いでくれそうな…。どうでしょう。

次回『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回 「「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」のあらすじ
株仲間に入れず、落胆する蔦重(横浜流星さん)は、鱗形屋(片岡愛之助さん)からお抱えの改(あらため)にならないかという誘いを受けるも、ためらう。そんななか、蔦重は平賀源内(安田顕さん)の紹介で、須原屋(里見浩太朗さん)に出会う。一方、唐丸(渡邉斗翔さん)の前に唐丸の過去を知る男(高木勝也さん)が現れ、唐丸を脅し、追い詰めていく。また、秩父の中津川鉱山では、源内らが出資者から罵倒され、平秩東作(木村了さん)は人質にされてしまう…。
※『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』~第4回 「『雛(ひな)形若菜』の甘い罠(わな)」のNHKプラス配信期間は2025年2月2日(日)午後8:44までです。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 簗場久美子
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 前編』(NHK出版)/『はじめての大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 歴史おもしろBOOK』(小学館)/『大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 蔦屋重三郎とその時代』(宝島社)/田中優子著『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(文藝春秋) :