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『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』における平賀源内の役どころとは?

「『光る君へ』のあと、文系女子が好きそうな大河ドラマが2年連続ってどうなの?」「スペクタクルな戦闘シーンのない大河なんて…」などという心配も含めて注目されていた『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』ですが、筆者の周囲にいる大河好き、ドラマ好きからは好ましい感想ばかりを耳にします。

「横浜流星さんの濃い顔で月代丁髷(さかやきちょんまげ)ってありかなって思ってたけど意外にいい!」とか、「小芝風花さんの花魁がヤバい」「歴代の大河ドラマを超える役者揃い!」「なんとなく知ってる気がしてた江戸の生活ぶりが見ていて楽しい」「250年くらい前と現代の庶民感覚を比べられておもしろい」などなど…。みなさんの感想はいかがでしょうか?

唐丸(渡邉斗翔さん)のかわいらしさもSNSで話題。(C)NHK
唐丸(渡邉斗翔さん)のかわいらしさもSNSで話題。(C)NHK

■吉原の外は実在の人物ばかり!平賀源内はコピーライターとして登場

さて、今回のテーマは「平賀源内(ひらがげんない)」です。第2回放送で、閑古鳥が鳴いていた吉原に客を呼び戻すために知恵を絞った蔦重(横浜流星さん)は、歯磨き粉に超ナイスな宣伝文句をつけて大ヒットさせた平賀源内(安田顕さん)に協力を仰ぐことを思いつきます。年に2度発行される吉原のガイドブック『吉原細見』の「序」(前文、つかみ)を、人気コピーライターでもあった源内先生に書いてもらおうというわけです。夏に売れなかった鰻に「土用の鰻」というキャッチコピーをつけたのが平賀源内だと、ご存知の方もいるでしょう。

一杯食わされながらも無事に平賀源内の「序」を入手し、『細見嗚呼御江戸(さいけんああおえど)』はよく売れたものの、読んだだけで終わってしまうのか吉原に客足は戻りません。自分を育ててくれた吉原を愛している蔦重は、吉原とその周辺の人々の暮らしを盛り立てるため、トライ&エラーをくり返しながら出版人として成長していくのですが、その過程で折に触れて相談し、知恵を借り、ときには蔦重が力になるなど友好的な相互関係を築いていくのが平賀源内なのです。

源内先生は蔦重のよき指導者?

第5回まで放送された『べらぼう』ですが、平賀源内は早くもその奇才ぶりを発揮しています。

蔦重が尽力してつくりあげた新たなガイドブック『一目千本』で再び活気づいた吉原でしたが、さらなる客入りを望む女郎屋や引手茶屋の主人たちは、女郎の錦絵制作とその金策を蔦重に押し付けます。そんな蔦重を結果的に助けたのも平賀源内でした。源内の“いい人”は今は亡き瀬川菊之丞(女形の歌舞伎役者)でしたが、菊之丞が着た着物や好んだ髪型は、めったに芝居を見られない女性の間で「せめて人気役者を真似したい」と流行したのだと語ります。そこから着想を得た蔦重は、「呉服屋が売りたい着物を着た女郎を錦絵にすれば売れるはず。着物の売り込みになる呉服屋が制作費を出せば…三方よしじゃねぇか!」というわけです。

第5話、花の井(小芝風花さん)とともに、謎を残したまま消えた唐丸に思いを馳せる蔦重(横浜流星さん)。「いつかふらっと戻ってきたら、俺はあいつを謎の絵師として売り出す」と語るのは、今後の展開の伏線になる?(C)NHK

このエピソードでは源内先生が蔦重の企画力を引き出すきっかけをつくったにとどまり、「平賀源内は何者ぞ?」という疑問は募るばかりでしたが、具体的な仕事ぶりも描かれました。秩父の鉱山で土地の人間を使って鉄の精錬を行っていた源内。しかし10年かけたこの事業も売り物になるような鉄ができないばかりか、作業中の火事によるけが人を出すはめに。これを挽回する手立てが、鉄から炭への商売替えです。発想の転換で、ピンチをチャンスに変えようというわけ。こうした姿は、まだ何者にもなっていない蔦重を大いに刺激し、勇気づけたはずです。

エレキテルだけじゃない!平賀源内はマルチクリエイター

■発明家として数々の品を開発

歴史上の人物としての平賀源内は「エレキテルの人」でしょう。エレキテルとは、ハンドルを回して、中のガラスと金属の摩擦によって静電気を発生させる起電器のこと。オランダから輸入された壊れた「eletriciteit」を源内が復元、新たに製作したもので、見世物や医療器具として広まりました。

「平賀源内」を辞書で引いてみると、江戸時代中期の博物学者、本草学者、戯作者、浄瑠璃作者、蘭学者、医者、発明家…そのマルチな才能ぶりがうかがえます。

エレキテルのほかには、耐熱・耐火性に優れた火浣布(かかんぷ)、磁針器(じしんき/羅針盤)、量程器(りょうていき/万歩計の元になったもの)なども開発。おもしろ発明ではなく、後世にしっかり実績を残しているのです。

■学者であり作家であり、画家でもあった!

本草学者としては、中国古来の植物を中心とする薬物学を習得し、日本初の薬品博覧会を開催しました。火浣布はくだんの秩父の鉱山事業中に山中で石綿(現在のアスベスト)を発見して生まれたものですが、薬用とする植物や動物、鉱物の形態や産地、効能などを研究するのが本草学であるため、本草学者が平賀源内の本来の姿だと評価する研究家もいるようです。

また、ヨーロッパの学術や文化、技術の総称である蘭学にも精通し、当時の世相を風刺した物語作品で「江戸戯作の開祖」とも呼ばれました。

秋田藩の招きで秋田に逗留していた時期には、藩主の佐竹曙山や藩画家・小田野直武に西洋画の理論を指導。秋田蘭画と呼ばれるジャンルを誕生させるきっかけをつくっています。

■歌麿や写楽より先!源内が描いた「西洋婦人図」は日本の元祖大首絵

源内が描いた唯一といわれる油彩画「西洋婦人図」は神戸市立博物館に所蔵されていて、企画展などに出陳されることもあるので鑑賞する機会があるかもしれません。西洋女性のバストアップ姿を描いた肖像画ですが、人物画は立っていても座っていても、ひとりでも複数人でも“全身を描く“のが日本の伝統でした。礒田湖龍斎(いそだこりゅうさい)に描かせた呉服屋のPRにもなった女郎の錦絵も、全身を描いたものでしたよね。とすると、上半身にグッと寄った源内の「西洋婦人図」は相当な衝撃だったはず。のちに蔦重は“大首絵”と呼ばれる肖像画の浮世絵で喜多川歌麿や東洲斎写楽を売り出し成功を収めるわけですが、ここにも源内のエッセンスが振りかかっていたと想像できるのです。

時の実力者、田沼意次にも重宝される世渡り上手な源内

江戸時代中期に第9代と第10代将軍の治世下で老中を務め、幕政を主導したのが田沼意次(たぬまおきつぐ/渡辺謙さん)。第4回で炭の販売を始める源内が、その資金500両の調達を意次に求めるシーンがありました。ここで意次は、商いが盛んになり民が潤えば幕府の収入も増えると源内に礼を述べます。本来なら幕府が成すべきことを主導してくれてありがとう…というわけですね。たとえそれが源内にとっては苦肉の策のもうけを見込んだものだとしても、彼には人を引き寄せる魅力があったのです。

平賀源内のイメージにビタはまりの安田顕さんも楽しみ!

天才肌の源内を演じるにあたって、頭の回転の速さを表現するために、セリフは聞き取れる範囲での最大限の早口にしている」とインタビューで語っていた安田顕さん。(C)NHK
天才肌の源内を演じるにあたって、頭の回転の速さを表現するために、セリフは聞き取れる範囲での最大限の早口にしている」とインタビューで語っていた安田顕さん。(C)NHK

さて、マルチな才能がダダもれの平賀源内を演じているのは安田顕さん。平賀源内といえばキセルを手にした肖像画を目にしたことがあるかもしれませんが、安田さんはそのイメージにビタッとはまっていると思いませんか? 頭の回転が速くアイディアマンで、実行力があっていい意味で人たらし…といった感じの“安田源内”。平賀源内は江戸っ子ではありませんが、江戸っ子が大好きな言葉遊びを早口でまくしたてたりする様子も、きっとこんな人だったんだろうと想像させます。史実としての確証はないようですが、瀬川菊之丞と恋仲だったという姿も違和感がありません。今後の“安田源内”からも、目が離せませんね。

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次回 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回 「鱗剥がれた『節用集』」
のあらすじ

蔦重(横浜流星さん)は、吉原細見だけでなく挿絵入りの 青本をつくろうと、鱗形屋 孫兵衛 (片岡愛之助さん)と 共に アイデアを考え、ネタ集めに奔走する。そんななか、須原屋(里見浩太朗さん)から『節用集』の偽 板 が出回ってい ると 聞き、蔦重の中に、ある疑念が生じる…。一方、江戸城内では、松平武元(石坂浩二さん)が莫大な費用がかかる日光社参を提案 する 。 田沼意次(渡辺謙さん)は 、予算の無駄遣いを理由に、徳川家治(眞島秀和さん)に中止を訴えるが …。

※『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』~第5回 「「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」」のNHKプラス配信期間は2025年2月8日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『蔦屋重三郎と江戸のアートがわかる本』(河出書房新社)/『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 前編』(NHK出版)/『はじめての大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 歴史おもしろBOOK』(小学館)/『大河ドラマ べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 蔦屋重三郎とその時代』(宝島社)/ :