私はピッツァ職人でもあるのですが、最近とてつもない不安に襲われることがあります。私のピッツァの仕込みには12日間かかるのですが、そうしてつくった1,500円のマルゲリータを、コストパフォーマンスが悪いと批判する人が意外と多いのです。

現代版クラシコイタリアスタイル

完成されたビジネススーツコーデ

肩から胸にかけてのボリューム感が凜々しくもナチュラルな表情を醸し出す、ミディアムグレーのストライプスーツ。装いにやわらぎを添える、上質なニットカーディガン。そして普遍的な木型がスタイルを引き締める、パンチドキャップトウ。そのコーディネートが放つオーラは、いかなる場面においても男たちに大きな力を与えてくれるだろう。スーツ¥620,000・シャツ¥56,000・タイ¥29,000・チーフ¥20,000(キートン 銀座店) ニット¥107,000(クルチアーニ 銀座店) 靴¥152,000(エドワード グリーン銀座店)

そんな私はクルチアーニのポロシャツを所有しているのですが、その現在の日本では理解されにくいほどのこだわりように、勝手に自分のピッツァを重ねて見てしまいます。寡黙なこのポロシャツからは、強烈にイタリア・ウンブリア州の価値観と美意識が感じられるのです。素材は非常にやわらかいのですが、糸の奥の方に芯がある。それは糸を自社でつくっていないと出せないタッチです。

こちらの糸は単糸を二本束ねて撚る「双糸」を使っていますが、現在ではその言葉だけが独り歩きをして、単糸では存在できないような質の低い糸を二本撚りにした、偽りの双糸がほとんど。

その点クルチアーニのニットは、本物の双糸です。メリノのセーターもニットジャケットも、それぞれに最適な糸が自社生産されて使用されています。もちろん着心地は最高ですが、その分維持には手間がかかります。洗濯後にしわになりやすく、アイロンがけは必須。

イタリア人は靴下やブリーフもアイロンをかけますから、ポロシャツがしわになりやすいなど何の問題にもならないのですが。さらに織ネームまで非常にやわらかく高価なベンベルグで織られており、肌に触れてもチクチクしません。このように“クルチアーニ”のニットは、私のピッツァ同様、目に見えないコストを積み重ねてつくられているのです。

近年社会の分断が危惧されていますが、私が憎んでいるのは社会に蔓延する、無知、無学、無関心です。コストや効率性などを追い求めるあまりに、数十年間の研鑽を重ねて習得した、このような知見や技術が評価されずに、社会の隅に追いやられつつあります。

知人の美容院経営者はキートンのすばらしさに感動して、このジャケットのような仕事をしろといつもスタッフに言っています。かくいう私も“エドワード グリーン”のようなピッツァをつくりたいといつも思ってきました。美しくて、体に負担がかからなくて、体感した者の気持ちを高揚させるような……。

キートンもエドワード グリーンもクルチアーニも、その魅力は決してこれ見よがしなものではありません。しかしこれらを費用対効果云々で論じるべきなのでしょうか。私は断じて違うと思います。大量消費社会に抗い、自らのやり方を貫くこれらの名品が改めて評価されることを、私はいつも願っているのです。

※価格はすべて税抜です。※2017年春号掲載時の情報です。

 

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2017年春号 クラシコイタリア の 新しき三種の神器はこれだ!より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/熊澤 透(人物)、唐澤光也(パイルドライバー/静物) スタイリスト/武内雅英(code) ヘア&メーク/ AZUMA(W manegement) モデル/ Cuba 構成/山下英介(本誌)