「カプリコーン、レオ、サジタリアス…」12星座それぞれの生まれの呼び名をぜんぶ英語で覚えているのは、ロバータ・ケリーの「恋の星占い(Zodiacs)」のヒットのせいだ。「山羊座のひと、獅子座のひと」と数え上げていく、ミュンヘン・ディスコの中でもとびきり能天気なナンバーが、モータウンの合間に混ぜると妙に気分を上げる。本牧<リンディ>での人気は当然として、もっとブラックな<ラブ・マシーン>でも、ブラザーすらサビに合わせて片足で回るステップを踏んだ。誰にでも、誕生日の星座がある。
「ヴァン クリーフ&アーペル」
『ミッドナイト ゾディアック リュミヌー アリエス』
別に星占いを信じないとしても、自分が何座なのかは、意識のどこかには沈んでいるだろう。だとすれば『ミッドナイト ゾディアック リュミヌー』の12連作は、全人類を12分節するスケールの試みであり、まったく新しいアプローチの超・高級腕時計だ。「星座が光る腕時計」でありながら一切の電池を使わない、純然たる機械式である。
12種の腕時計それぞれの文字盤には、西洋占星術で使われる黄道十二宮の星座が描かれ、エナメルビーズの星が配置されている。その星々は8時位置のボタンをひと押しすると発光し、星座を煌めかせるのである。ヴァン クリーフ&アーペルのポエティック アストロノミー=詩的な天文時計が採ったこの表現は、無粋な電気仕掛けなどではなく、まったく新しい機械式超高級腕時計の作法を確立した。煌めく輝きは、それを命じる力で動く。
正確にいえば、ボタンを押す力で内蔵したセラミックのリボンを振動させる。振動が電気に変わるピエゾ効果で、星たちの下のダイオードを光らせるのである。人力での発光は、「星よ輝け」という神の命令に類するものだ。
ヴァン クリーフ&アーペルの「ライト オン デマンド モジュール」と呼ばれる光る機械式時計の技術自体は、2年前に1作だけ発表された一角獣座の腕時計で実現されている。黄道を2巡する間に、今度はすべての人を統べる腕時計が揃った。
十二宮=ゾディアックをモチーフにするのも、これが初めてではない。レディス向けには星座がテーマの腕時計がラインナップされていたこともある。時計ではないが、12星座を揃えた18金製のメダル型ペンダントヘッドは伝説的な銘品で、半世紀近く前の品が時々クリスティーズのオークションでも見かける。伝統は継承されているのである。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト