今月のMs.Precious……鎌倉在住、48歳。会社役員の夫と中学生2人の4人家族。免許を取得して30年=自分専用のクルマ所有歴で、そのすべてが輸入車。大型車が好みだが、地元は狭い道が多くて何十年乗ってもヒヤヒヤしている。由緒ある家系に生まれた宿命を背負っている反動か、飽きっぽいのと「先進的なもの」「旬な事象」を追いかけるタイプで、最近は電気自動車の魅力に開眼。
今月のクルマ……【LOTUS EMEYA R】
一般層からのブランド認知は決して高くないものの、自動車ファンにとってロータスは大切な名跡。モータースポーツ界の名門であり、ファンにとっては通好みのハンドリングのブリティッシュ・ライトウェウト(軽量スポーツカー)、あるいはカリスマ的な創業者のコーリン・チャップマンの名を想起させる。スーパーカー世代には「ヨーロッパ」だろうし、映画『氷の微笑』でシャロン・ストーン演じる大富豪の作家・キャサリンの自宅に停まっていたのも白と黒2台の「エスプリ」だった。1995年に登場した「エリーゼ」は「これぞ新時代のロータス」という車で世界的な人気に。そのあまりにピュア過ぎるブランドコアゆえに、ロータスがその後の“エコ&脱スポーツ”の時代を生き抜くためには様々な試行錯誤が行われてきた。そして、いまここにある高級EV「エメヤ」は最新の提案にあたる。かつてのロータスとは似てもにつかぬコンセプトだが、それでも流石というべき仕上がり。大型EVの設計は未経験のはずなのに、走行性能の出来栄えは驚くほど良好。

「こんな過激なクルマに乗ってこられたら誰でもドキッとしちゃいます」――松任谷
松任谷 はじめまして。
Ms.Precious よろしくお願いします。
松任谷 これなんですが、大丈夫ですか?
Ms.Precious 大丈夫と言いますと?
松任谷 大きいでしょ。全長は5.13メートル。全幅はミラーを入れないで2メートルとちょっとですから。
Ms.Precious 大丈夫です。私は大きいクルマが好きなんです。なんだったらハマーでも大丈夫ですよ。
松任谷 そうなんですか。それはすごい。ちなみに過去にはどんなクルマに乗ってこられたんですか?
Ms.Precious そうですね。大きいクルマがいいと思いだしたのはラピードあたりからかしら。
松任谷 えっ? アストンマーティンのラピード?
Ms.Precious そうです。私、それまでアストンの2シーターばかりだったんですが、なぜかラピードに惹かれて、乗ってみたらなんだかしっくりきちゃって。
松任谷 ご主人も乗られるんですか?
Ms.Precious いや、彼は電車専門。サラリーマンですから。
松任谷 なるほど、そうなんですね……。ではクルマはご自身のものって感じですか?
Ms.Precious 都内ではタクシー移動が多いですが、運転も割合する方だと思います。
松任谷 失礼ですが、伝統芸能の方ということで、もっと違うイメージをしていて、まだ少し戸惑っています。
Ms.Precious 伝統芸能だとどういうイメージですか?
松任谷 難しい質問ですね。クルマだとベンツのSクラスとか、ロールスロイスとか。ま、センチュリーと言った線もありますかねえ。いずれにしろショーファーがいてご自身は後席、ですかね。
Ms.Precious イメージと違っていてすみません。でも、その方が面白くありませんか?
松任谷 確かに意外性はドキッとさせられますよね。こんな過激なクルマに乗ってこられたら誰でもドキッとしちゃいます。
Ms.Precious ドキッとしてください。この歳で、そう言ってくださる方は少なくなりましたから。
松任谷 ははは。了解です。
「やっぱり速いクルマがいいです。ゆっくり走っても安心感があるし」――Ms. Precious
Ms.Precious ラピードの次はパナメーラでした。なんだかコンセプトが似ていませんか?
松任谷 そうですよね。でもポルシェよりもアストンマーチンの方がお似合いかとも思いますが。
Ms.Precious そう思って、次はテスラにしたんです。モデルS。
松任谷 おおっ、それもある意味近いチョイスですね。イギリスからドイツ経由でアメリカに行った、と……。
Ms.Precious 私、好みは割合はっきりしていて、ドライバーとパッセンジャーが離れているのが好きみたいです。

松任谷 大人ですね。
Ms.Precious もちろん、大人ですよ。いつまでもいちゃいちゃなんてしてられません。
松任谷 ベンチシートで肩を抱いて、みたいな。
Ms.Precious そんな歌ありませんでしたっけ?
松任谷 あったような、なかったような……。
Ms.Precious そんな飛ばす方ではないのですが、それでもやっぱり速いクルマがいいです。ゆっくり走っても安心感があるし。
松任谷 いや、ラピードといいパナメーラといい、モデルSといい、速いと言うよりバカッ速いですよ。
Ms.Precious そうですね。最高速はどのくらい出るのかしら。
松任谷 うーん、試す場所は日本にはほぼないですよね。これもそうとう速いはずですが、もちろん僕も試していません。で、なぜこのクルマに興味を持たれたんですか?
Ms.Precious テスラはいろいろな面で新しくて気に入ってたんですが、3点、許せないところがありました。
松任谷 というと?
Ms.Precious ディーラーがないじゃないですか。だから担当者とかもいなくて、車検とか、整備とか、自分で工場に持って行かないといけないでしょ?
松任谷 あ、そりゃそうだ。
Ms.Precious それともう1点は、モデルSやXを日本ではもう売らない、としたこと。今後、整備とかで困ることも出てくるのでは、なんて思ってしまいますよね。
松任谷 確かに。でもうひとつは?
Ms.Precious スタンドに行かないから窓は自分で拭かなければならないこと。
松任谷 はははは。
Ms.Precious でも、オンラインで最新のソフトウェアが配られて、クルマの中でアップデートするとメーターのデザインが変わったり、ゲームが増えたり、一番凄かったのは乗り心地が変わった時がありました。それがロータスではなくなるでしょ?
松任谷 ところが、あるんですよ。これもオンラインで繋がるようになっていて、ソフトも更新されていくみたいです。
Ms.Precious 本当ですか!? それは嬉しい。あれって夢がありますよね。自分のクルマが生きているみたいに感じますものね。
松任谷 そうですね。様々なところがテスラには似ていると思います。やはり後発ですから、いろいろと研究したんでしょうね。
Ms.Precious デザインは不思議ですよね。宇宙的と言えば宇宙的だけど、すぐに美しいとは思えないかも。

松任谷 伝統芸能ではどういうものが美しいとされるんですか?
Ms.Precious 伝統は長く続いたということだけで、美しいという価値観はいつも動いていると私は思うんです。だから昔の美しい、と、今の美しい、は違って当たり前だと思っているんですよ。使っている言葉だって歴史の中で変わってきているわけだし。もちろん、昔のスタイルが大事、と思う人たちもいて、たまに喧々がくがくの論争になったりします。
松任谷 頑固な方達も多そうですよね。大変でしょう。
Ms.Precious いえ、私もそうとう頑固ですから。
松任谷 なるほど、そろそろ乗ってみてください。
Ms.Precious はい。これもキーを持って近づくとドアノブがせり出してくるんですね。今の流行かしら。
松任谷 そういうクルマは多いですね。しかも、自動ドアだから室内から開け閉め出来ます。
Ms.Precious ああ、センサーが付いていて、隣にクルマがいても、ドアがぶつからないやつですよね。
松任谷 そうですね。でも気をつけてください。僕もテスラのモデルXですけど、一度隣のクルマに盛大にぶつけたことがありました。しかも、キーを持って近づいただけで開くタイプなので、もう目の前で何もすることが出来ず……。
Ms.Precious 私のも同じだから気をつけます。で、これも同じ?
松任谷 さあ……僕が借りているあいだは自動的には開きませんでした。どうかすると開くようになるかも、ですね。
Ms.Precious ああ、フロアは想像よりも高いですね。畳ぶんくらい高い感じがしました。それに比べてシートは低くて、ああ、でもこれ、ラピードのシートを思い出しました。硬めでグッと体を包み込むような感じ。アスリートに後ろから抱きしめられている感じでしょうか。
松任谷 うーん、なるほどな表現ですね。では運転するのは二人羽織ですか?
Ms.Precious そうですね。この感覚、久しぶりで懐かしいです。
松任谷 テスラより進んでいるところと言えば……例えばこのガラスルーフですが、10分割されていて、必要なところだけスモークにしたり出来るんです。日焼けしたくない人とか、開放的な方がいい人とか、いろいろいるじゃないですか。

Ms.Precious 後席にあるこのモニターを使ってもコントロール出来るんですね?

松任谷 そうです。後ろの席はリクライニングも出来ますね。足元もこの手のクルマとしては広いし、なかなか快適です。
Ms.Precious ということは、マッサージ機能も?
松任谷 もちろんです。いろいろなモードがありました。
Ms.Precious 操作はいろいろと慣れないといけなそうだけど、運転自体は簡単ですよね。スターターはテスラと一緒で何もないんでしょ?
松任谷 そう、キーを持って乗り込んで、ただ踏めば動き出しますね。

Ms.Precious 走っていいですか?
松任谷 待ってください。僕も隣に乗りますから……。
Ms.Precious では行きます。
松任谷 どうですか?
Ms.Precious テスラとは違いますね。まず、アクセルペダルを踏んでもおっとりとしたスタートをします。割合鈍感な感じですね。それと乗り心地はどこかゆらっとした感じがありますね。硬いのにゆらっとしているのかな。
松任谷 ただね。スピードが上がるとテスラとはまるで違う感覚になると思います。そこはロータスなんですね。テスラはスポーツカーじゃないけど、これはスポーツカーなんです。
Ms.Precious ああ、確かにこの吸い付くような感覚はラピードやパナメーラに近いですね。
松任谷 このカメラモニター式のサイドミラーは大丈夫ですか?
Ms.Precious これ、好きです。雨の時にもたぶん見やすいんだろうし、きっと夜とかもモニターだから明るく見えるんでしょうね。

松任谷 本当に新しいものに対する偏見が少ないですね。それでも頑固なんですか?
Ms.Precious そうですね。わかりにくい頑固なのかもしれませんね。
松任谷 嫌いな人とかいますか?
Ms.Precious ここだけの話、たくさんいます。
松任谷 怖いな。
Ms.Precious 大丈夫。取って食ったりしませんから。
松任谷 いや、そっちの怖さじゃなくて……。
Ms.Precious そうだ、大事なこと忘れてた。私の家にはテスラ用のコンセントが付けられているんですけど大丈夫かしら。
松任谷 それは大丈夫。アダプターだってあるし、心配は要りません。
Ms.Precious では、これ気に入りました。さっそくオーダーしちゃおうかな。
松任谷 早業ですね。
Ms.Precious ものごと、すべてインスピレーションです。
松任谷 なるほど。

今月のクルマ
【LOTUS EMEYA R】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:5,139×2,005×1,464mm(21インチホイール装着車)、 1,467mm(22インチホイール装着車)、2,575kg
車両本体価格:¥22,682,000(ベース価格)
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
- PHOTO :
- 小倉雄一郎(小学館)
- WRITING :
- 松任谷正隆
- EDIT :
- 三井三奈子