連載「Tomorrow Will Be Precious!」明日への希望をアクションに変えるPrecious People

明日への希望をアクションに変える方たちの活動に注目し、紹介する『Precious』連載【Tomorrow Will Be Precious!】では今回、障害のある作家や福祉施設とライセンス契約を結び、ビジネスとして展開する企業「ヘラルボニー」CAO(「Chief Art Officer」、日本語にすると最高 “芸術” 責任者)の黒澤浩美さんにインタビュー!

金沢21世紀美術館で約20年にわたり現代美術に携わり、現在はキュレーターとしてもフリーランスで活動を続ける黒澤さんに、これまでのキャリアやお仕事について詳しくお話しをうかがいました。

黒澤浩美さん
キュレーター、「ヘラルボニー」CAO
(くろさわ ひろみ)ボストン大学卒業後、水戸芸術館、草月美術館を経て金沢21世紀美術館建設準備室に参加。開館後はキュレーターとして建築やコミッションワーク、展覧会を多数企画。’11年City Net Asia(ソウル)、’17年OpenArt(スウェーデン)などで総合キュレーターを歴任。’22年より「ヘラルボニー」に参画、’25年4月にCAOに。撮影は「ヘラルボニー」銀座店にて。

【Tokyo】アートで世の中をほぐしていく。キュレーションの力をビジネスに

キュレーターであり、「ヘラルボニー」CAOを務める黒澤浩美さん
キュレーター、「ヘラルボニー」CAOの黒澤浩美さん

黒澤さんの肩書きにある「CAO」とは「Chief Art Officer」、日本語にすると最高 “芸術” 責任者となる。障害のある作家や福祉施設とライセンス契約を結び、ビジネスとして展開する企業「ヘラルボニー」が新設した役職で、アートの視点から経営戦略を牽引する。

「経営って、数字を伸ばしていくことももちろん重要なんですけれど、社会の一員として、果たすべき責務についても真摯に向き合うことも重要だという時代ですよね。アートにまつわる活動には、そういう状況をブレイクスルーしていく力がある。ボディブローのようにじわじわ効いてくるんです。私が参画したことで作品が売れるようになるとか、展覧会にたくさん人が来るとか、そういうことではなくて、作品を通して物事の見方を変えていく、新しい視点をもつ機会を創出するということです。これまで世の中にかかっていなかった橋をつくり始めた、という感じです」

金沢21世紀美術館で約20年にわたり現代美術に携わってきた。現在はキュレーターとしてもフリーランスで活動を続けている。

「キュレーションも、深く研究し、広範囲な情報や学びを総合して、こう展示するという表現行為です。ただ空間に作品が並んでいるのではなく、展示に人が介在しているんだということを意識して展覧会を観ると、よりおもしろく感じられると思います。結局のところ、鑑賞とは、作品や作家ではなく、観る側の問題なんです。『私がどうか』ということ」

媒介になる仕事なのだ、とも言う。
「例えば素晴らしいワインをコツコツつくっている方がいたときに、そのラベルにアートの力で新しい価値を創造して世の中に届ける、みたいなことですね。AとBをつなぐとき、そこにアートやキュレーターが関わると、単にAプラスBになる以上に醸成され、培養土みたいなものができる。凝り固まったものをほぐし、耕して、気がついたら柔らかな世界になっていた。そんな仕事ができたら、と」

◇黒澤さんに質問

Q. 朝起きていちばんにやることは?
 ストレッチ。
Q. 人から言われてうれしいほめ言葉は?
「変わってるね」と言われるとうれしいですね。
Q. 急にお休みがとれたらどう過ごす?
行ったことのないところへ行く。仕事で国内外を移動することが多いのですが、たいていは美術関係のところばかりなので、まったく関係のないところに行ってみたい。
Q. 仕事以外で新しく始めたいことは?
学び直しをしたい。美術以外で考古学とか。漢詩を読めるように勉強中です。
Q. 10年後の自分は何をやっている?
晴耕雨読が夢。売れない古本屋の主人になっていたい。
Q. 自分を動物にたとえると?
ライオン。穏やかにしていると思ったら急に飛びかかってくる、みたいな(笑)。よくみんなに「落ち着いて」って言われています。

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PHOTO :
望月みちか
取材・文 :
剣持亜弥