オーストラリア先住民によるアボリジナル・アート——注目を集める女性作家たちの声に耳をすます

オーストラリア現代美術が今、注目を集めています。その方向性を握っているのは、女性のアボリジナル作家たち。多様な創作活動を追った、日本で初めての展覧会をご紹介します。 

展覧会の見どころを、編集・ライターの剣持亜弥がご案内します。

Navigator:剣持亜弥
編集・ライター
『Precious』ほか『和樂』でも執筆。本カルチャーページのアート担当。日本美術を中心にアート全般、人全般について取材する。漫画やアニメーション、ネットまわりをはじめとするサブカル系ジャンルも得意。

【今月のオススメ】イワニ・スケース《えぐられた大地》

現代のオーストラリアでは、アボリジナル人口の約8割が都市部に住んでいる。南オーストラリア大学視覚美術学科でガラス制作を専攻し、吹きガラスを用いたインスタレーションを得意とするイワニ・スケースも都市部を拠点に活動。祖先が経験した植民地時代の出来事や、現在も鉱山採掘により削られていく大地の姿を作品で伝えている。

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イワニ・スケース《えぐられた大地》 2017年 ウランガラス(宙吹き) 石橋財団アーティゾン美術館 (C)Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY

オーストラリア先住民のアボリジナル・アート、と聞いて、思い浮かぶのはどんな作品でしょうか。よく知られているのは、無数の小さな点を重ねていく抽象画のようなドットペインティングでしょう。生活や信仰に根づいた自然や動物のプリミティブな描写も特徴的です。アボリジナル・アートは1970〜80年代に世界的に人気を集めました。しかし、当時制作の中心にいたのは男性ばかりで、女性は作家として認められていなかった、という歴史があります。ところが現在、オーストラリア現代美術界ではたくさんの女性作家が活躍し、その多くがアボリジナルを出自の背景としています。 

そんな、国際的にも注目を集めるアボリジナル女性作家たちに焦点を当てる展覧会が、アーティゾン美術館で開催されています。なんとこれ、日本では初めての機会。実はアーティゾン美術館は、’06年に「プリズム:オーストラリア現代美術展」を開催して以降、継続的に作品を収集していて、今回もコレクションからの出品があります。テート・モダンで大規模回顧展も開催されるエミリー・カーマ・イングワリィの絵画や、イワニ・スケースの吹きガラスを用いたインスタレーションなど、多様な表現の作品が展示されます。 

社会問題、環境問題、過去の歴史、失われてしまった文化の復興——。展覧会では幅広いテーマが提示されます。脱植民地化への道のりが、現代のアボリジナル・アートをどのように刺激し、変化させているのか。過去と、現在と、未来を同時に見つめるような、深い思索の時間になりそうです。


◇Information:『彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術』

アーティゾン美術館の所蔵作家4名を含む7名と1組による計52点の作品を展示。伝統文化の息づかいと、脱植民地化の実践を感じさせる、現代の多面的なアボリジナル・アートを考察。

展覧会公式サイトhttps://www.artizon.museum/exhibition_sp/echoes_unveiled/
開催期間:開催中〜2025年9月21日(日)まで
会場:アーティゾン美術館

問い合わせ先

アーティゾン美術館

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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EDIT&WRITING :
剣持亜弥
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