数年前から若者を中心にSNSで話題の「恋コスメ」。婚活リップや花嫁リップなど、コスメは願掛けのような意味合いを帯び、メイクする女性たちに勇気を与えるアイテムとしても人気です。

今回ご紹介するのは、そんな「恋愛成就」を原点にもつマスカラのヒストリー。もしかすると、あなたのマスカラは世界のトレンドからみるとガラパゴス状態かもしれません!

マスカラの知られざるヒストリー

ご協力いただいたのは、メイベリン ニューヨーク(以下、メイベリン)でプロダクトマネージャーを務める菊池裕貴さん。懐かしい思い出とともに、マスカラの誕生秘話を伺いました。

1982年に出されたメイベリンのビジュアル広告(画像提供:メイベリン ニューヨーク)

兄お手製のコスメで恋愛成就し、ゴールイン?

「まつエク」で自然なアイメイクをしている方が増えたとはいえ、菊池さんによると現在50%以上の女性がマスカラを使用し、メイクをするほとんどの人はマスカラを使っているそう。

そんなメイクポーチの中に必ず入っているマストアイテム誕生のきっかけは、なんとメイベリン社の創業者、トーマス・L・ウィリアムズの妹・メイベルの片思いでした。

トーマスが考案した「ラッシュ ブロウ イン」(画像提供:メイベリン ニューヨーク)

「好きな男性に振り向いてもらえなかったメイベルにトーマスが『どうしたの?』と尋ねたら、『私は目が小さいから彼に振り向いてもらえない』と言ったことが開発のきっかけになった、という逸話が残されているんです」

薬剤師だったトーマスは、コンプレックスを持っていた彼女の悩みを解消すべく、1913年にワセリンと石炭粉をブレンドしたものを考案。なんと、これが現在のマスカラの原点なのです。

パッケージに描かれている女性は当時の無声映画の女優エセル・クレイトン (画像提供:メイベリン ニューヨーク)

メイベルは、兄がつくったマスカラを愛用し続け、想いを寄せていた人への恋に成就し、ついに結婚に至ります。ちなみに、ブランド名「メイベリン ニューヨーク」は、メイベルとワセリンにちなんでつけられたのだとか。

妹のためにつくったマスカラの効力を実感したトーマスは、その2年後、「ラッシュ ブロウ イン」というマスカラを販売し、ブランド「メイベリン ニューヨーク」が誕生するのです。

左端が1932年に販売された「ケーキマスカラ」、右端が1959年に発売された「マジックマスカラ」(画像提供:メイベリン ニューヨーク)

そして、固形タイプの塗布剤をブラシで取り、まつげに塗る「ケーキマスカラ」などの開発を経て、およそ46年の歳月の後、現在のマスカラの形状の原点となる、「マジックマスカラ」が誕生。1959年に初めて、ブラシとマスカラ液がセットになった形が世に送り出されるようになります。

写真のマスカラの口部分にあるゴムが「ワイパー」と呼ばれる

「ブラシとマスカラ液が一緒になれば、持ち運びしやすくなりますし、自動的にマスカラ液が塗布され、適量のマスカラ液が取れます。『マジックマスカラ』がなかったら、今でも皆さんはブラシとマスカラ液を別々に持ち運ぶことになっていたと思いますよ」と菊池さん。

ブラシに付くマスカラ液の調節機能を支えているのが、「ワイパー」と呼ばれるゴムの部分。菊池さん曰く、メイベリンに限らずマスカラの部品の中でも、ワイパーの技術はとても奥深いとのこと。

ワイパーは、中の液体漏れを防いでいるだけでなく、マスカラ液のしごきを加減し、まつげの仕上がりを左右させているそう。意外な事実です。

マスカラで飾ったアイメイクがブームとなったバブル期

社会の流れがマスカラを注目させた?

六本木界隈に50店舗以上ものディスコが立ち並び、銀座、新宿、渋谷などの歓楽街には、カフェバーやカラオケパブが流行した1980年代後半のバブル時代。

マスカラが日本で、脚光を浴びはじめたのもこのバブル期です。当時のメイクのトレンドは、太眉に真っ赤なリップとぱっちりとしたアイメイク。夜の街に繰り出す若い女性たちが「アイメイク」に注目し、まつげのボリュームをあげるために、マスカラが必然的に流行したのだそう。

「そもそも、日本でマスカラが流行ったのは、女性の社会進出が密接に絡んでいると思います。女性たちが単純にマナーだけを尊重するのではなく、自分自身の人生を楽しむ、といった価値観をもつ時期に入ったのがバブル期です。自分を主張するという社会の潮流が、まつげメイクへの注目を後押ししたのではないかと思います」

1980年に発売された「ダイアル ア ラッシュ」

ボリュームマスカラが人気だったバブル期、メイベリンでは、世界で初めてマスカラ液の調整機能を備えた「ダイアルマスカラ」がとても人気だったのだそう。ダイヤルをくるっと回して液量を調節する、メイベリンといえばダイアルマスカラを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?

自分の好みのボリュームにカスタマイズできることが人気に火をつけた

マスカラトレンドとガラパゴスな日本

一斉を風靡したギャルメイクを覚えている人も多いはず

バブル崩壊後の2000年代は、安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんが「盛る」アイメイクをしていた影響で、「ギャルメイク」全盛期に突入。まつげの長さにこだわり、上下で別のマスカラを使ったり、ポイントとして付けまつげをして猫目のアイメイクをしたりと、まつげメイクに今よりずっと長い時間かけていた方もいるのでは?

2000年代の「盛る」メイクの次のトレンドとして、注目を浴びたのが「ナチュラルメイク」。現在、ナチュラルメイクは完全に定番化し、まつげは自然なままで、アイメイクするトレンドが続いていますよね。

では、海外と日本で人気のマスカラに違いはあるのでしょうか。

「日本は圧倒的にお湯で落ちるロングのフィルムタイプが人気ですが、ほかの国ではボリュームマスカラの一強です。日本のようにお湯で落ちるタイプは少ないですね。

中国もボリュームマスカラが流行っていますし、韓国ではロングマスカラでもウォータープルーフタイプが人気です。東南アジア各国は、ボリュームを求めるニーズが多く、湿度が高いので、人気なのはウォータープルーフタイプ。マスカラに関しては、アジアの中でも日本はガラパゴス状態なんです。

実際、メイベリンのマスカラ『ラッシュニスタ』は日本では人気が出たのですが、韓国では全く人気が出ず、唯一日本だけで売れているんですよね」

2001年に発売された日本発の「ラッシュニスタ」、ラッシュとファッショニスタを掛け合わせた名前

そのほか、海外では塗り心地やつけ心地にフォーカスしたマスカラがあるのだとか。塗るときの心地良さが、やめられないほどクセになる、といったボリュームとは別の軸を掲げたマスカラがとても売れているよう。

クリーミーなマスカラ液が、まつげをなめらかに伸ばし、塗り心地にうっとりする。メイクの時間にも新たな体験を与える、そんなマスカラが日本にもくるかもしれません。

多くの化粧品メーカーはパッケージカラーやデザインを統一しているがメイベリンは製品によって変わるそう

ひとりの女性の片思いをきっかけに、発明されたマスカラ。マスカラがつくる印象的なまなざしの理由を知ればもっとメイクを楽しめるはず。そして普段選ばないマスカラを使ってみると、いつもと違う気持ちにしてくれるのではないでしょうか?

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高橋優海(東京通信社)