人間誰しも、「もっと認められたい」「もっと人とつながりたい」などの欲求を持っているもの。この欲求を知ることで、コミュニケーションは円滑になります。実際、相手が何を求めているかを察し、それを満たすことができる人は優秀ですよね。ビジネスでもプライベートでも一目置かれる存在になるために、「人の欲求」に詳しくなってみませんか?

今回、106万人にものぼるファーストクラス・VIP乗客のサービスを担当した元国際線CAで、人財育成コンサルタントの美月あきこさんにインタビュー。美月さんによると、現代人は「自分にご褒美がほしい」「人とつながりたい」「探求したい」「独自のスタイルを築き、自己表現したい」の4つの欲求を抱えているそうです。

そこで、それぞれの欲求を満たし、仕事相手とのやりとりをスムーズにする方法を教えていただきました。上司や後輩、取引先などの仕事相手が、どんな欲求を抱えているのかを知り、その満たし方を実践すれば、今まで以上に良好な信頼関係を築いていけるようになりますよ!

■1:「自分にご褒美がほしい」という欲求の満たし方

自分にご褒美がほしい・すり減った気持ちを癒したい
自分にご褒美がほしい・すり減った気持ちを癒したい

私たち現代人は日々、競争社会の中で頑張っていますよね。そのため、常に「ささやかなご褒美」がほしいと思っている状態にあると美月さんはおっしゃいます。おいしいものを食べること、温泉やエステでリフレッシュすることもご褒美ですが、最も求めているのが「大事にされる、大切に扱ってもらう」ということ。人は他人に大事にされていると幸福感を覚え、「明日からも頑張ろう」というエネルギーが湧いてくるといいます。

「ビジネスの場でのご褒美といっても、給料やボーナスといった物理的なものではなく、その方のしたことに対して気づいてあげて、フィードバックを投げてあげることも、ひとつのご褒美。いいことをしたら褒めることもご褒美。あるいは、もう少し頑張ってほしい場合に、次につながるヒントをあげることもご褒美になるでしょう」と美月さん。

しかし自分にご褒美が欲しい人に対して、なんでもかんでも、褒めればいいというわけではありません。

「褒める行為が大切だというのはよく言われていますが、あからさまに褒めることもあまり通じなくなっています。そういった場合には、第三者を通じて褒めてみましょう」とアドバイスします。

例えば後輩を褒めたいとき、職場の同僚に「あの人の仕事ぶり、いいよね。言っておいて」などと伝えば、「〇〇さんが、君のこと褒めていたよ」と相手に自然な形で伝わるもの。また「お客さまがすごく喜んでいたよ」という伝え方もあるとのこと。

自分がいないところでも自分を褒めてくれた、認めてくれる人がいるということで、「自分は大事にされている」「大切にされている」と思えることでしょう。

■2:「人とつながりたい」という欲求の満たし方

人とつながりたい・好きな人と一緒にいたい・共感したい
人とつながりたい・好きな人と一緒にいたい・共感したい

現代人は、友人や家族、恋人など自分の周りの人との関係を大切に思い、絆を深めたいとも考えています。この「人とつながりたい」という欲求の背後には、他人に共感してもらいたい、他人に大事にされたいという、人間の本能があるとのこと。

日本人は不満や苦痛をあまり言葉に出さず、態度や表情に表れがち。例えばイライラしている人は上半身が絶えず揺れたり、首をかしげたり、顔をしかめたりするもの。言いたくても言えないフラストレーションが、体からあふれているわけです。

「人に接する職業の人であれば、こういった人の表情や態度を読み解けるようになると、お客さまにお伺いする前に仮説を立て、対策を講じられます」と美月さん。その基本になるのが察することと、相手を大事に考える姿勢とのこと。その結果、相手は「大事にされた」と感じるといいます。

例えば、職場の飲み会でポツンとひとりでいる人がいたとします。その場合、積極的に声をかけて、会話の輪の中に入れるべきなのでしょうか?

「そういう方は、自分がひとりになっていることを周りに知られたくない、という気持ちも持っているものです。『一緒に話しましょうよ』と輪の中に入れようとしても、それは恥ずかしいし、相手が喜ばないというケースもあります。一対多が得意な人もいますが、一対一ではコミュニケーションを取れるものの、一対多になると難しくなる人もいます。その人がどんなタイプなのかを見極めて、対応していかなければなりません」(美月さん)

相手を見極めるには、日頃から人をよく見て、なんらかのヒントをもらえるように、ボールを投げることが大切になるといいます。

「相手からアクションがなかったとしても、必ず挨拶はする。次には挨拶だけでなく何か話をしてみる。会話の中で相手の顔色が変わったり、言葉数が増えたりすれば『これは興味を持っているのかな』というのがわかってきますよね。表面的なことだけで、相手を判断しないことが重要です。相手をいろんな角度から見てあげることが大事になります」(美月さん)

人は、自分のことをよく理解してくれている人や、好きな人と一緒にいるときには心が落ち着き、幸福感を覚えるもの。相手に関心を持ち、相手をよく見ていると、気づけることがたくさんあるはず。相手の表情や態度から、対応も変えていきましょう。

■3:「探求したい」という欲求の満たし方

探求したい・自己投資したい・何かに挑戦したい・学びたい
探求したい・自己投資したい・何かに挑戦したい・学びたい

あなたは自分のスキルを上げるために、語学留学や各種スクールへ入学、資格取得を頑張っていたりしませんか? 現代人は何かに挑戦できる体験や学ぶ場を、程度の差はあれ、常に求めています。

「普段はお話しないような人とつながる、普通では巡り会えない人に出会う機会を得ることも”投資”だと考え、動いている人も、スキルアップを考えている人のなかにはいらっしゃいます。私たちには、今の自分自身を変えていきたい、チャレンジしていきたいという欲求もあるのです」(美月さん)

ビジネスの場でこのような欲求を満足させるには、「相手が知らないようなヒントを差し上げる、自分が知っていることで相手に役に立つことがないかを考え、教えて差し上げることも必要になるでしょう」と美月さんは言います。情報を交換することで、相手の欲求を満たすということですね。

ただ逆に、自分ではとても役に立てそうもない、こちらが提供できるような情報がない、といった場合は「教えてください」の一言がいいそうです。「教わるという探求心」です。たとえば、会社の同僚や上司と話をしているとき。

「最近読んでいるビジネス書をうかがった後に、『私もその内容に興味があるので、ぜひ教えてください』『私もその本、気になっていました。面白かったですか?』などと話しかけることで、共通項ができて話が盛り上がり、あまり話したこともない相手でも仲良くなれたり、近くなれたりします。『教えてください』はキラーフレーズですよ」(美月さん)

ほかにも「すごく勉強熱心だよね」「アンテナが立っているよね」「会議での発言が変わってきたよね」なども、学びたい欲求が高い人には喜ばれる言葉なのだとか。自分を見てくれている人がいることで「もっと頑張ろう」という気持ちにもなるため、関係がよりスムーズになります。

■4:「独自のスタイルを築き、自己表現したい」という欲求の満たし方

独自のスタイルを築き自己実現したい・自己ブランド化を確立したい
独自のスタイルを築き自己実現したい・自己ブランド化を確立したい

最後は、自己表現の欲求。現代人は個人の好みを表現し、自分らしさを打ち出せる機会を求めています。そのため、自己表現し、自己ブランド化を確立したいと願っているのです。この「独自のスタイルを築き、自己表現をしたい」という欲求は、2番目に紹介した「人とつながりたい」という欲求の先にあるものだそうです。

人とのつながりができれば、さらにその人たちから「すごい」と認められたいという欲求が生まれるといいます。認めてあげることで、欲求は満たされるでしょう。しかし、いつも「イエス」ばかり言う、相手を持ち上げてばかりはNG。迎合しすぎると、自分の魅力がなくなってしまうのです。

「ビジネスの場では、相手を非難せずに、自分なりの意見を相手が納得できるように話を展開できるようになると、自分の強みになります。相手の意見に対してただ反対意見を述べるのではなく、『こういう見方もあるのではないでしょうか』『私はこう考えるんですよね。なぜなら……』と、広い視野を見せていきましょう。そうすることで相手から『この人よく勉強しているな』と感心されます」(美月さん)

例えば上司の意見に対して「ちょっと待ってください。こういったマイナス面もありますよね」「こういったことになると、会社のリスクになるかもしれません」と伝えれば、上司を助ける立場にもなれるでしょう。

取引先に対しても同じで、いつも相手に言われるまま実行するのではなく、「ここを変えると、コストパフォーマンスがよくなります」などと提案することで、より深い話ができるようになるといいます。

後輩に対しては「それを去年やって失敗したんだよね。でもこういうやり方をしたら、うまくいったよ。もしかしたら、こっちのやり方のほうがいいかもね」と自分の実体験をもとにアドバイスする方法もあります。

また相手の意見に対して「自分にはなかった考えだったので、とても勉強になりました」などと相手の視野の広さや、考えの深さを褒めることも、相手の認められたい欲求を満足させることにつながっていくでしょう。

以上、現代人の抱える欲求を満たす方法をお届けしました。日本人ならではのおもてなしの心はビジネスの場で大いに役立ちます。仕事相手とのやり取りをスムーズに進めるためにも、まずは相手をよく見ることから始めてみましょう。

美月あきこさん
人財育成コンサルタント
(みつき あきこ)大学卒業後、日系および外資系航空会社で国際線客室乗務員(CA)として通算17年間勤務。CA経験者のポテンシャルを活かした企業向けマーケティング「空飛ぶマーケッター」や接遇研修などを行うCA‐STYLEを主宰。自身も人財育成コンサルタントとして、全国各地で年間180回以上の研修・講演を行う。総合情報サイトAll Aboutで「ビジネスマナーガイド」としても活動。
『ファーストクラスに乗る人の一流のおもてなし』美月あきこ・著 祥伝社刊
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
椎名恵麻
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