正倉院の宝物を観て、聴いて、嗅いで!最先端の技術で美と歴史の世界を楽しめます
1300年近くにわたって9000件もの宝物を守り続けてきた、奈良・東大寺の旧境内にある正倉院。そのお宝を、最新のデジタル手法を駆使して展示する、エンターテインメント感満載の展覧会です。文化財を守り、未来へつないでいこうとする人々の熱い想いにも胸打たれます。
展覧会の見どころについて、美術ジャーナリストの藤原えりみさんにご案内いただきました。
【今月のオススメ】正倉院 THE SHOW——感じる。いま、ここにある奇跡——

これまで製作されてきた宝物の再現模造を、映像・音楽・照明との組み合わせで展示。宝物を360度からスキャンしてつくった高精細デジタルデータに演出を加えた映像をスクリーンで上映するなど、ドラマティックな鑑賞体験で、正倉院宝物をぞんぶんに楽しめる。レプリカの『瑠璃坏(るりのつき)』のお披露目や、数ミリほどの脱落片からよみがえらせた「蘭奢待」の香りの再現も話題に。

’19年に三の丸尚蔵館(現在の皇居三の丸尚蔵館)で開催された「正倉院宝物を伝える―復元模造の製作事業と保存継承」。私はこの展示で、正倉院宝物のなかでも特に有名な『螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごげんびわ)』の復元模造を見て、その素晴らしさに本当にびっくりしました。1300年前の姿をよみがえらせるために、あらゆる技術を駆使していること、絃には上皇后陛下が飼育されていた国産の古代種の蚕の糸を使っていることなどを詳細な解説文で知り、深く感じ入ったことを覚えています。

この展覧会では、再現模造を紹介するだけでなく、宝物をスキャンした高精細の3Dデジタルデータを使って、細部や質感まで詳しく映像で紹介するなど、最先端の技術によって正倉院の宝物を体験することができます。実物の展示はありませんが、展覧会などでガラス越しに、遠目から見るよりも、ある意味では作品に肉迫できる、またとない機会だと思います。名香として名高い香木「蘭奢待(らんじゃたい)」の香りの再現展示まであり、視覚、聴覚、嗅覚まで使って、貴重な宝物を体験できます。
模造とかデジタル再現というと、「それって美術なの?」と思われる向きもあるかもしれません。でも私は、だからこそ可能になる鑑賞体験があると思います。特に1300年も前の宝物となると、現代では手に入らない素材や、失われてしまった技術がたくさんある。それを研究、保存し、後世に伝えていくという意義についても、深く考えさせられます。現代アーティストによる宝物とのコラボレーション作品も楽しみ! 見どころ満載です。(談)
◇Information:『正倉院 THE SHOW——感じる。いま、ここにある奇跡——』

聖武天皇の遺愛品を中心に、奈良・平安時代の重要文物が納められた正倉院。その物語を、「愛 美 紡ぐ」の3つの視点からひもとく展覧会。
【大阪会場】
大阪歴史博物館
会期:開催中〜8月24日まで
問い合わせ先:06-4301-7285(なにわコール)
【東京会場】
上野の森美術館
会期:2025年9月20日〜11月9日
問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥、喜多容子(Precious)