「スーツについて語るのは無意味だ。そんなことはくだらない。それよりも人生と芸術を語るべきだ」 パニコに会うとだれもが圧倒されるそうだ。

男の理想が具現化された現代最高のスーツ

ナポリ最高峰のサルトリア

正確な裁断とファブリックの選択はスーツのクリエーションにおいて重要な部分だと語るアントニオ・パニコ氏

それはスーツを着用した彼のたたずまい、特に彼の声ゆえにだ。有無を言わせぬ重厚さを持つ低いトーンのヴォイスは聴く者を王国へと誘う。

そこではパニコが王であり法律である。訪問者は彼の法律に従わなくてはならない。しかし、いちど客として迎えられた者はパニコの懐の深さを知り、同時にそのスーツに魅了される。

パニコのスーツは「男のスーツはこうあるべき」といったサルトリア・ナポレターナの理想を体現している。芯地を最小限に抑えたジャケットは紙のように軽量だが、計算し尽くされた仕立ての技術が加わると、ドレープによって胸部の豊かさが強調され、男性的で彫刻を思わせる構築的なラインは他に並ぶものがない。

マエストロの名を欲しいままにしてきたアントニオ・パニコ。彼のキャリアは常にナポリ仕立ての王道を歩んできた。

1941年、ナポリ郊外のサルトの街カサルヌオヴォに生まれ、生涯の師であるロベルト・コンバッテンテに学んだ。「彼こそが真のマエストロだ。彼から1957年に学んだ型紙を、私は今でも使用している」

型紙から完璧なプロポーションを作る技術は他の追随を許さない

仮縫いは基本2回で、2ピースは2,500ユーロから。

そこには型紙を使用しないとされるナポリ仕立ての通説を覆す真実がある。パニコはこの型紙から完璧なプロポーションをつくる数値を学び、それを基礎に彼の美学と卓越した技術をもって、現在のパニコのスタイルを完成させた。

その後、アットリーニ亡き後、ルビナッチのヘッドカッターとして、2代目マリアーノ・ルビナッチと共に20年以上働き、ナポリ最高峰のサルトリアの地位を築き上げた。

巨匠と呼ばれる今も「すべてのスーツが挑戦だ」と語るパニコ。進化を続ける情熱と姿勢が巨匠たる所以である。

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この記事の執筆者
TEXT :
長谷川 喜美 ジャーナリスト
BY :
MEN'S Precious2017年夏号 ナポリ王国の栄華を伝える3大マエストロの饗宴より
ジャーナリスト。イギリスとイタリアを中心にヨーロッパの魅力をクラフツマンシップと文化の視点から紹介。メンズスタイルに関する記事を雑誌中心とする媒体に執筆している。著作『サヴィル・ロウ』『ビスポーク・スタイル』『チャーチル150の名言』等。
公式サイト:Gentlemen's Style
クレジット :
撮影/Luke Carby 構成・文/長谷川喜美