標高が生む、紅茶の個性「セイロンティー・ジャーニー」

ディルマ「セイロンティー・ジャーニー」

スリランカの中央部を貫く高地には、気候と標高の違いによってまったく異なる味わいの紅茶が育まれています。ディルマは創業以来、栽培から製品化までを自社で一貫して行う「シングル・オリジン」の先駆者。その理念をより明確に理解できるのがこの「セイロンティー・ジャーニー」シリーズです。土地の個性をまっすぐに映し出す4種のシングルエステートティーと、スリランカの自然やリゾート文化に着想を得た4種のフレーバーティー、合わせて8アイテムで構成されています。

「セイロンティー・ジャーニー」は、スリランカという島の地理的な旅(産地)と感性的な旅(香りと記憶)を一体化したシリーズ。紅茶で国をめぐる2つの旅の提案です。さらに、風土に由来する香りの個性を食卓でどう楽しむかという視点にまで高めた点にも、ディルマが掲げるティー・ガストロノミーの哲学が息づいています。

茶園を歩く──ヌワラエリヤとディンブラ、2つのテロワール

まず、スリランカの地形と標高の違いを旅するように味わえるのが4つのシングルエステートティー。いずれもディルマが誇る「茶園限定」のシングルオリジンです。今回の旅で訪れたのは、ヌワラエリヤのラバーズリープ茶園に属するペドロ工場と、ディンブラのサマーセット茶園の茶葉をつくるダンケルド工場。

ヌワラエリヤは標高1,900メートル付近に位置し、冷涼な風が吹き抜ける丘陵地。「ラバーズリープ(Lover’s Leap)」とは茶園近くに流れ落ちる滝の名で、身分違いの恋に落ちた恋人が永遠の愛を誓い、最期を遂げたという物語に由来しています。この土地の土壌はローム質(粘土を含む肥沃な火山性土)で、水はけがよく、昼夜の寒暖差が大きいため、茶葉はゆっくりと成長します。その結果、香り成分とミネラルが豊富に含まれ、繊細でありながら凛とした風味が生まれます

ディンブラのサマーセットは約1,500mの高さにあり、キャスルレイ湖を望む高地茶園。発酵時間を長めにとるこの工房ではが茶葉がより黒く艶を帯び、抽出するとボルドーのワインを思わせる厚みとストラクチャーを感じます。砂質を含む岩混じりの土壌が昼間の熱を蓄え、乾燥と湿潤が交互に訪れるこの気候が、深みとボディのある紅茶を育てるのだそう。

ティー・ピッカー(茶摘みの女性たち)たちは慣れた足取りで丘を登り、軽快なリズムで茶葉を摘んでいきます。葉の生い茂った茶の木から、2枚の若葉とひとつの新芽だけを正確に摘み取り、背負ったかごに投げ入れるさまは流れるように美しく、まるで舞のよう。収穫された茶葉は計量してから布袋へ収められ、その日のうちに工場へと運ばれます。スリランカでは1年を通して茶葉が収穫され、乾季には繊細で香り高く、雨季には豊潤で力強い表現になるのだそう。

摘み取られたばかりの若葉は、手のひらに乗せるとほんのりと温かく、微かに草花の香りを放ちます。萎凋(いちょう)室では、茶葉を約12〜14時間かけて乾燥。もともと75%ほどあった水分を40%前後まで落とし、柔らかくしなやかな状態に整えます。ここでは機械の熱ではなく、空気の流れを活かした自然乾燥が基本。室内ではスタッフが湿度計を手に、茶葉の状態を細かく確認しながら作業を進めていました。「香りを閉じ込めるには、温度ではなく風が大事」。ゆっくりと水分を抜かれた茶葉は、揉捻(じゅうねん・茶葉を揉むこと)、発酵、乾燥、選別を経て、淡く透き通った金色の紅茶へと姿を変えるのです。

ラバーズリープの香りは、まるで高地の空気そのもの。優雅で透明感のある味わいはさ、さながらブルゴーニュのピノ・ノワールに潜むフィネスを感じさせます。軽やかな酸と香りは、白身魚やハーブを使った前菜などと調和しそう。一方、サマーセットの茶葉が抽出する深いボディとタンニンの厚みは、肉料理やスパイスとの相性を連想させ、ペアリングの可能性が広がります。

テラスでのアフタヌーンティー。抹茶のロールケーキやイチゴのタルトはフレーバーティーに。スコーンはラバーズリープにマッチ。こちらのキューカンバーサンドはトーストスタイル。
テラスでのアフタヌーンティー。抹茶のロールケーキやイチゴのタルトはフレーバーティーに。スコーンはラバーズリープにマッチ。こちらのキューカンバーサンドはトーストスタ
紅茶にインスパイアされたペアリングディナー。ディンブラティーでマリネしたマグロのたたきや、マンダリン・フランジパニ&ハニーティーの香りをつけた牛フィレのパイ包み、ディンブラのコクが素材と同調。モリンガのカレー風味スープはキャンディティーでスモークしたカニとチーズのラビオリ入り。それぞれの紅茶とともに。Ceylon Tea Trails
紅茶にインスパイアされたペアリングディナー。ディンブラティーでマリネしたマグロのたたきや、マンダリン・フランジパニ&ハニーティーの香りをつけた牛フィレのパイ包み、ディンブラのコクが素材と同調。モリンガのカレー風味スープはキャンディティーでスモークしたカニとチーズのラビオリ入り。それぞれの紅茶とともに。
 
海辺に用意されたハイティー。スクエアのパンを重ねてトップに薄くスライスしたきゅうりを並べた、ショートケーキのようなルックスのキューカンバーサンドがキュート。海辺に用意されたハイティー。スクエアのパンを重ねてトップに薄くスライスしたきゅうりを並べた、ショートケーキのようなルックスのキューカンバーサンドがキュート。
流木を並べて作られたワイルドなビーチバーで、ディナー前のティーカクテル。ココナッツを用いたスリランカの蒸留酒アラックに紅茶を加えたカクテルが美味。
流木を並べて作られたワイルドなビーチバーで、ディナー前のティーカクテル。ココナッツを用いたスリランカの蒸留酒アラックに紅茶を加えたカクテルが美味。

Wild Coast Tented Lodge

ケープ・ウェリガマ

インド洋を望む高台に建つ「ケープ・ウェリガマ」は広大な敷地の中に全39室が点在するリゾート。 潮風吹くテラスでのアフタヌーンティーやティーペアリングディナーはもちろん、海を見下ろすメインバーやシーサイドのビーチバーなど、オーシャンビューでのティー・ガストロノミーを体験できます。

インド洋を見下ろすテラスでシーブリーズアフタヌーンティー。ロゼのプロセッコにストロベリーティーを使ったウェルカムのあとは、茶葉をグラスの外側にあしらったギムレット風のカクテル。
インド洋を見下ろすテラスでシーブリーズアフタヌーンティー。ロゼのプロセッコにストロベリーティーを使ったウェルカムのあとは、茶葉をグラスの外側にあしらったギムレット風のカクテル。
マンダリン・フランジパニ&ハニーティーの茶葉でスモークした羊のチーズとビーツを入れたアランチーニ。デザートはアールグレイを入れたガナッシュにグルテンフリーの生地を敷いたケーキ。
マンダリン・フランジパニ&ハニーティーの茶葉でスモークした羊のチーズとビーツを入れたアランチーニ。デザートはアールグレイを入れたガナッシュにグルテンフリーの生地を敷いたケーキ。

Cape Weligama

一杯の紅茶に、誠実を込めて。ディルマCEOが語る哲学と技術

ディルマは、プレミアムなシングルオリジンにこだわったピュア・セイロンティーブランド。他の紅茶ブランドと異なり、ブレンドを行いません。「紅茶業界では、多くの企業が価格を下げるために混ぜ合わせますが、私たちは純粋な土地の味を守るためにシングルオリジンのみを扱います」。とCEOのディルハン・フェルナンド氏は言います。気候変動による風味の揺らぎも「自然の指紋(fingerprint of nature)」として受け入れ、茶葉の個性と捉えます。

ディルマでは、新商品の開発に6か月から2年の官能試験を経て「標準レシピ」を定め、それを厚い背表紙の記録帳に記帳。父の署名に続き、息子・孫が署名を重ねることで、品質と誠実さを未来へと受け渡します。「代が代わっても、一度確立したレシピは絶対に変えない。このレシピがお客様との約束だからです」。高品質な紅茶のおいしさを多くの人に届けたいという思いで父が創業したブランドを引き継いだフェルナンド氏は「利益よりも誇りを、最大でなく最高のブランドに」という教えを胸に、全製品の品質と理念を家族で守り続けています。

一杯の紅茶が支える、スリランカの未来

ディルマのもう一つの顔は、社会と自然の両方を守る企業としての姿です。「紅茶の価値は、飲む人を幸せにするだけでなく、作る人をも幸せにし、自然を守るものでなければならない」、そうした理念のもと、ディルマはMJF慈善基金やディルマ・コンサベーションを通じて、教育・福祉、また野生動物の保護や生態系の再生にも力を注いでいます。

コロンボ南方・モラトゥワにあるMJFセンターは、ディルマの社会貢献活動の象徴ともいえる拠点です。発達障がいのある子どもたちの早期療育、若者への職業訓練、女性のスキル育成など、多様なプログラムを一か所で提供し、地域の家族が安心して通える場所として機能しています。専門スタッフによる個別支援に加え、音楽・ダンス・スポーツなどの創造的活動も充実し、子どもから大人までが自分らしい未来を描くための「学びと再出発のコミュニティ」として重要な役割を果たしています。

スリランカ南部に広がるウダワラウェ国立公園では、象をはじめとする野生動物の保護と生態系の保全が進められています。ディルマ・コンサベーションは、象との共存をテーマにした研究支援や、保護区周辺の環境教育プログラムを展開し、人と自然の摩擦を減らす取り組みを続けています。また、水源や森林の再生、野生動物の行動モニタリングなど、科学的知見を基盤とした支援も行い、生態系そのものを守る長期的な保全モデルづくりに貢献しています。

三角テトラ型ティーバッグで、開封した瞬間にそれぞれの香りが広がり、抽出された紅茶の色や口中での味わい、余韻まで含めて「スリランカを巡る旅」が体験できます。

製品ラインナップ

ヌワラエリヤ「ラバーズリープ茶園」:標高約1,700メートル。滝の伝説に名を取り、ハチミツやユーカリを思わせる清々しい香り。繊細で上品な味わい。

ディンブラ「サマーセット茶園」:標高約1,400メートル。霧と湿潤に包まれた地。明るい水色としっかりとしたボディを持つ芳醇な紅茶。

キャンディ「クイーンズベリー茶園」:中高地産。丸みのあるコクとバランスのよい味わいで、穏やかで親しみやすい印象。

ウバ「ウバハイランズ茶園」:東部の高地の茶園から。ミントやライムを思わせる芳香と深い余韻。世界的に知られる名園のひとつ。

これに対して、フレーバーティー4種は、スリランカ各地の自然やホテル体験を香りで表現した、いわば感性の旅いずれもシングルオリジンのセイロンティーに、天然由来の香りをまとわせたもの。

アールグレイ&バニラ:古代遺跡シギリヤ・ロックにインスパイアされた気品ある一杯。ベルガモットとマダガスカルバニラの優雅な香り。

レモン&ハニー:ウダワラウェ国立公園のゾウの保護活動をテーマに。柑橘の爽やかさと蜂蜜のやさしさが調和。

マンダリン・フランジパニ&ハニー:ヤーラ国立公園の自然をイメージ。華やかでトロピカルな香りが広がる。

ストロベリー&ミント:海辺のリゾート「ケープ・ウェリガマ」に着想。ミントの涼やかさと果実の甘酸っぱさが心地よい。

いずれも個包装ティーバッグ(2g×20袋)/1,620円

問い合わせ先

 

 

PHOTO :
Sanjaya Mendis
EDIT&WRITING :
谷 宏美