多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、大切な「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。今回は、2018年3月29日にオープンした「六本木 kappou ukai」をご紹介します。

六本木から世界に向けて発信する「美食劇場」 

「六本木 kappou ukai」の格子戸を開けようとしたところ、中から聞こえてきたのは賑やかな歓声。カウンター割烹というスタイルから、緊張感の漂う静謐な空間を思い浮かべていたのですが、一歩足を踏み入れると、そこはまるで役者(料理人、サービス陣)、舞台(店舗、カウンター)、観客(食事を楽しむゲスト)がそろった「劇場」。目前で繰り広げられる役者たちのパフォーマンスに、絶え間なく歓声があがります。

「美食劇場」と呼びたくなる「kappou ukai」は、創業50余年の「うかい」グループが展開する初の割烹料理店。2014年オープンの1号店「銀座 kappou ukai」に続く出店先として選ばれたのは六本木。外国人観光客の増加や2020年の東京オリンピックを見据え、ひときわ国際色豊かでエキサイティングな街から、「うかい」の世界観と日本の食文化を広く発信したいという思いのもと誕生したのが「六本木 kappou ukai」です。

全16席、栗の大きなカウンターが「美食劇場」の舞台。料理人とゲストの目線が合うように設計されています。檜のまな板がカウンターより高く造られている点にも注目を。料理人の手元を隠すものは一切なし。カウンターのなかで行われるすべてが真剣勝負であり、エンターテイメントです。
全16席、栗の大きなカウンターが「美食劇場」の舞台。料理人とゲストの目線が合うように設計されています。檜のまな板がカウンターより高く造られている点にも注目を。料理人の手元を隠すものは一切なし。カウンターのなかで行われるすべてが真剣勝負であり、エンターテイメントです。
完全個室は2部屋。希少な本聚楽土を使った壁や曲線をいかした造りなど、日本の美学が息づく空間。
完全個室は2部屋。希少な本聚楽土を使った壁や曲線をいかした造りなど、日本の美学が息づく空間。

カウンター内に掲げられた「美味方丈」こそ、「kappou ukai」が目指す究極の食空間。一丈四方の凝縮された空間で、食材を育んだ土壌や気候、生産者の愛情に思いを巡らせて幸福な時間を過ごすことを指す「うかい」の造語です。「うかい」全体の世界観を表現する言葉のひとつですが、料理人とゲストがカウンター越しに食を通して共に時間を紡ぐ「kappou ukai」は、この概念をもっとも端的に体現する業態といえるでしょう。

「美味方丈」なるひとときは、竹林をエッチングガラスで表現した幻想的なエントランスを抜け、席に着いたときから始まります。内装をはじめ、和の伝統と現代的な美意識が融け合う店づくりも、「うかい」ならでは。料理人がその日の食材を大皿に盛って説明してくれるころには、こちらの「緊張感の漂うカウンター割烹」という予想が心地よく覆され、「これから『食』のエンターテイメントが始まる」という、予感にも似た高揚感へと変わっていきます。

「できたて」に焦点を当てた料理

料理はおまかせコースのみ。「劇場」ですから、演目と同じですね。和の技法で旬の食材を味わうというテーマのもと、物語の流れ(=コースの構成)や衣装(=器)など、すべての要素を複合して練りに練られた演目を丸ごと楽しむわけです。

料理するうえで大切にしているのは、ずばり「できたて」と語るのは、銀座と六本木の統括料理長を務める他力野慶太さん。「切りたて、焼きたて、揚げたて……調理法は違えど、いずれの料理も『できたて』に焦点を当てています。カウンターというスタイルなので、いかにベストな状態とタイミングでお客様の目の前で仕上げることができるかという点も含めて、『できたて』感のある料理が命。そのうえで、味つけや演出などが単調にならないよう、メリハリのある流れを考えます。コースのなかに驚きのある料理を忍ばせたり、今の時期なら鱧の骨切りから見せるなど見応えのあるパフォーマンスを組み込むのも緩急の一例」(他力野さん)。

食材の旬に添ってメニューは約2か月を目安に変わりますが、銀座と六本木ではまったくメニューが違うとか。「旬の食材という点では重複もありますが、基本的に食材も料理も別。六本木のお客様はビジネスというよりプライベートで家族や友人とお食事される方が多い印象。それに合わせて、六本木では料理の方向性やボリューム感について、より食事そのものが楽しめるメニューを考えています」(他力野さん)。

ディナーコース(¥19,440)より、「淡路の鱧と初夏野菜のすき鍋」。季節の食材を使ったすき鍋は「kappou ukai」名物。初夏はともに淡路産の鱧と新玉ねぎを合わせて。ご覧ください、美しく処理された鱧! これを骨切りの段階から間近で見ることができるなんて、わくわくしますよね。
ディナーコース(¥19,440)より、「淡路の鱧と初夏野菜のすき鍋」。季節の食材を使ったすき鍋は「kappou ukai」名物。初夏はともに淡路産の鱧と新玉ねぎを合わせて。ご覧ください、美しく処理された鱧! これを骨切りの段階から間近で見ることができるなんて、わくわくしますよね。
煮炊きの様子を間近で眺めることができるのは「kappou ukai」の醍醐味。個室やテーブル席でも料理人が目の前で仕上げますのでご安心を。
煮炊きの様子を間近で眺めることができるのは「kappou ukai」の醍醐味。個室やテーブル席でも料理人が目の前で仕上げますのでご安心を。
調理のみならず、料理人がゲストの前で仕上げて取り分けるところまでが「kappou ukai」のすき鍋。ぷるりと絶妙な食感に仕上がった鱧に、上品な出汁、玉ねぎの甘み、ゆずの爽やかさが絡みます。※実際の鱧は炙りでの提供になります。
調理のみならず、料理人がゲストの前で仕上げて取り分けるところまでが「kappou ukai」のすき鍋。ぷるりと絶妙な食感に仕上がった鱧に、上品な出汁、玉ねぎの甘み、ゆずの爽やかさが絡みます。※実際の鱧は炙りでの提供になります。
すき鍋同様、季節の焼き物も「kappou ukai」名物。こちらはディナーコース(¥19,440)より「伊勢海老の炭火焼」(このボリュームで1名分!)。大皿は人間国宝の十四代柿右衛門作。器や箸にもこだわり、料理長がつくり手に相談しながら特注するものも多いとか。※実際は木の芽焼きとして卵黄と白味噌のソースをつけ、付け合わせにグリーンアスパラの炭火焼きを添えた料理になります。
すき鍋同様、季節の焼き物も「kappou ukai」名物。こちらはディナーコース(¥19,440)より「伊勢海老の炭火焼」(このボリュームで1名分!)。大皿は人間国宝の十四代柿右衛門作。器や箸にもこだわり、料理長がつくり手に相談しながら特注するものも多いとか。※実際は木の芽焼きとして卵黄と白味噌のソースをつけ、付け合わせにグリーンアスパラの炭火焼きを添えた料理になります。

食べる側だけでなく、つくり手にも大きな影響を及ぼすのが「劇場」型のカウンター。他力野さんは「kappou ukai」で初めてお客様の前に出るようになって、がらりと意識が変わったと言います。「常に『見られること』、『魅せること』を意識するようになりました。心持ちだけでなく、もちろん料理にも影響します。お客様の反応がダイレクトに分かるので、それに合わせてメニューを変更することも。直接の意見や要望ではなかったとしても、カウンターから伝わってくるものがあるんですよね」。さながら「劇場」のような空間ではありますが、この距離感ゆえに一方通行で終わらないのがおもしろいところ。「kappou ukai」は料理人とゲスト双方のライブなやりとりから生まれる、インタラクティブな「美食劇場」なのです。

「魅せる」料理には、「魅せる」酒

旬の食材+こだわりの器+ライブなパフォーマンスで「魅せる」料理には、それに見合う「魅せる」酒が必要です。「六本木 kappou ukai」は酒も「役者」ぞろい。唎酒師やソムリエの資格をもつスタッフが提案するのは、和・洋の名酒、希少な酒、古酒の数々。さらには、ここにしかない「うかい」限定酒も。ぜひその日の気分やメンバーに合わせて料理に合わせたお酒を相談してみてください。きっとペアリング以上の感動やサプライズが待っているはずです。

“幻の酒”「十四代」、「鳳凰美田」のマグナムボトル、平成27年度醸造と熟成をさせた「出羽桜」の限定酒など、老舗から注目の蔵元まで全国から美酒が勢ぞろい。日本酒は1合¥1,940〜、シャンパンはグラス¥2,380〜、ワインはグラス¥2,700〜。
“幻の酒”「十四代」、「鳳凰美田」のマグナムボトル、平成27年度醸造と熟成をさせた「出羽桜」の限定酒など、老舗から注目の蔵元まで全国から美酒が勢ぞろい。日本酒は1合¥1,940〜、シャンパンはグラス¥2,380〜、ワインはグラス¥2,700〜。

例えば、歓声必至の江戸切子。上の写真にずらりと並ぶ、色とりどりのお猪口たちをご覧ください。「六本木 kappou ukai」では年間を通して江戸切子のお猪口で日本酒が楽しめます。それはまるで、ひと口ごとに煌めく液体をいただくような感覚。ただでさえ旨い酒が、伝統工芸をいかしつつも華やかな「うかい」流のおもてなしによってより「魅せる」存在へと昇華されていく瞬間です。

「美食劇場」を形づくる役者……もとい、スタッフの皆さん。左から副料理長の松本修政さん、「銀座 kappou ukai」の副料理長を経て六本木の料理長に就任した大川陽生さん、唎酒師の資格をもつ支配人の谷沢秀人さん、フロア・マネージャーの水野 彩さん。ちなみに、統括料理長の他力野さんは「若い世代を前に出したい」と写真を辞退。これもなんだかドラマのよう!?
「美食劇場」を形づくる役者……もとい、スタッフの皆さん。左から副料理長の松本修政さん、「銀座 kappou ukai」の副料理長を経て六本木の料理長に就任した大川陽生さん、唎酒師の資格をもつ支配人の谷沢秀人さん、フロア・マネージャーの水野 彩さん。ちなみに、統括料理長の他力野さんは「若い世代を前に出したい」と写真を辞退。これもなんだかドラマのよう!?

「うかい」の2ブランドが集結した、なんとも贅沢な空間

「六本木 kappou ukai」にはさらなる仕掛けがあります。実はこの店舗、同時にオープンした鉄板料理店「六本木うかい亭」と隣接しており、それぞれのエントランスを抜けると店内が繋がっているのです。

両店を結ぶ通路の「六本木うかい亭」側から「六本木 kappou ukai」を見た様子。鏡張りの天井や階段のライトアップが非日常感を高めます。
両店を結ぶ通路の「六本木うかい亭」側から「六本木 kappou ukai」を見た様子。鏡張りの天井や階段のライトアップが非日常感を高めます。
気品ある金色と鮮やかな朱赤、さらには窓外の新緑が映える「六本木うかい亭」。すべて個室、すべて鉄板を備えたシェフズテーブル。「kappou ukai」とスタイルは違いますが、ここにも料理人のプレゼンテーションと技がいきる「美食劇場」が広がります。
気品ある金色と鮮やかな朱赤、さらには窓外の新緑が映える「六本木うかい亭」。すべて個室、すべて鉄板を備えたシェフズテーブル。「kappou ukai」とスタイルは違いますが、ここにも料理人のプレゼンテーションと技がいきる「美食劇場」が広がります。

けやき坂通りに面したバーラウンジは2店舗共通。ウェイティングバーとして、また食後の余韻を楽しむ場所として利用することができます。さらに、両店を繋ぐ通路には「うかい」グループが運営する「箱根ガラスの森美術館」所蔵の香水瓶コレクションを展示。王侯貴族が愛でた香水瓶が並びます。

「うかい」を代表する2ブランドを集結し、その世界観や美学を深く伝えようとする空間。ここで味わえるのは、料理や酒に留まりません。意匠やおもてなしを通して、ほかの真似ではなくオンリーワンたろうとする「うかい」のスピリットに触れることこそ、「食」のエンターテイメントの奥に潜む魅力。「美食劇場」は、目や舌のみならず、心にまで滋養をくれる場所といえそうです。

問い合わせ先

  • 六本木 kappou ukai
  • 営業時間/12:00〜14:00(LO)、18:00〜23:00
    土曜・日曜・祝日は11:30〜14:30(LO)、17:30〜23:00
    定休日/月曜
    ランチ¥10,800、ディナー¥19,440、¥24,840のおまかせコースのみ(すべて税込)。
    カウンター16席。テーブル席2卓(4名卓、6名卓。最大12名)。個室2室(8名まで対応。個室料¥10,800/税込)。
  • TEL:03-3479-1515
  • 住所/東京都港区六本木6-12-4 六本木ヒルズ 六本木けやき坂通り2F

この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
竹之内祐幸
EDIT&WRITING :
門前直子