【目次】

【第10回のあらすじ】

初回放送から2か月半、第10回放送を終えて『豊臣兄弟!』も5分の1が過ぎました。2023年の『どうする家康』以来、『光る君へ』『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』と文系女子好みの2作を挟んで3年ぶりの戦国大河ですが、家族の絆にも重きを置いた笑いと涙ありのストーリーや、信長(小栗旬さん)の参謀として知恵を働かせる藤吉郎(池松壮亮さん)と小一郎(仲野太賀さん)の見事な連係プレーなどで魅せ、新たな大河ファンとなった文系女子も退屈させません。

イケメン軍師の竹中半兵衛(菅田将暉さん)が加わり、ますますIQが高くなった信長陣営。忠誠心と人を巻き込む才能に長けた藤一郎、抜群の調整力と人の心を動かす言葉をもつ小一郎。そして、体が弱く実戦の経験はないけれど常に頭の中で善戦策を練っているという半兵衛。本作のおもしろの多くの部分を、この頭脳戦が占めているといっても過言ではないでしょう。

足利義昭(尾上右近さん)を室町幕府第15代将軍にすべく、荒れ果てた京への上洛を擁してほしいと、義昭の使者が信長の居城となった稲葉山城へやって来ます。この使者が、戦国時代最大のクーデーターともいわれる「本能寺の変」を起こす明智光秀(要潤さん)です。

(C)NHK
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ここで見事だったのが半兵衛でした。光秀と従者の様子を観察していた彼は、この従者はただ者ではないと推測、信長に進言していたのです。確かに、彼らを見る半兵衛の目つきや表情は何かを物語っていましたし、従者が団子を口にしたシーンには筆者も「おや?」と思いましたよ。

仏門で一生を終えるはずだった義昭。「わしにも番が回ってきたようじゃ。乱れた世を救えるのはわししかおらん。力を貸してもらいたい」「この織田信長、必ずや義昭さまを京へお連れし、天下布武を成し遂げてご覧にいれまする」――「天下布武(てんかふぶ)」という言葉、小一郎でなくても正しく理解している人は少ないのでは? 

■「天下布武」とは

「天下布武」とは、信長の政治目標を象徴するスローガンです。「布武」は軍事政権によって乱れた世の中に秩序を取り戻すということ。ここでの「天下」は全国という意味ではなく、畿内5国(山城、大和、河内、和泉、摂津)のことです。京の都に足利幕府を再興し、畿内5国に平和をもたらすことがこの時点での信長の目標だったのです。

信長は義昭上洛を実現させるため、倒すか取り込むかしなくてはならない相手のひとりである浅井長政(中島歩さん)に妹の市(宮崎あおいさん)を嫁がせることに。政略結婚、もっと言えば人質ですね。

藤吉郎・小一郎兄弟に心を許していた市は、小一郎の気遣いにこう答えました。「わたくしも男に生まれたかった。さすればそなたのように兄と共に戦うことができた」「この婚礼は、わたくしの初陣じゃ。これほどめでたきことはない」と胸の内を明かした市。そこで小一郎がかけた言葉がなんと粋なこと!

(C)NHK
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「ならばお市さま、どうかご武運を!」――戦に出立する武士にかける「ご武運を」だったのでした。

6万ともいわれる織田・徳川・浅井の連合軍により、義昭は無事上洛を果たします。長らく争いに巻き込まれ、荒れ果ててしまった都に到着した一軍。都の栄華を微塵(みじん)も感じることができない風景の先に、都のシンボルのひとつである東寺の五重塔が見えていました。

小一郎たちが目にしたのは4代目の五重塔ですが、落雷などで4度消失。現在私たちが目にする東寺の五重塔は、1644(寛永21)年に再建された5代目です。

足利幕府の威光を世に知らしめ、武士の力で世の中に秩序をもたらす――第15代将軍となった義昭は、信長の功績に対して副将軍の地位を与えようとしますが、信長はそれを固辞。この時代も「謹んでお断り申し上げます」はアリだったんですね。

義昭に「天下布武を成し遂げてご覧にいれまする」と誓った信長の腹の底は、実はその先にありました。天下布武などただの通過点にすぎず、信長の真の目標は日の本の統一。もっと大きかったのです!

武田信玄(高嶋政伸さん)、上杉輝虎(のちの謙信/工藤潤矢さん)、長宗我部元親(磯部寛之さん)なども登場し、ますます目が離せなくなりました。


【褒美が茶碗!? 戦国時代と茶の湯】

稲葉山城を陥落し、岐阜城と改めた信長。城下に屋敷を与えられた小一郎は、家来たちのこまごまとした不平不満やいさかいの調整に大忙しです。そこへやってきた小六(蜂須賀正勝/高橋努さん)に「兄者からじゃ。これで川並衆の者たちをねぎろうてやれと」と渡したのが、継ぎはぎだらけの茶碗。その価値を知らない小六は不満気でしたが、信長からの褒美のひとつで30貫の価値があると知って大喜びです。

 

■茶碗ひとつで…

当時の30貫を現代の貨幣価値に換算するのは難しいのですが、エリート武士を1年間雇えるくらいの金額だったという説も。あの茶碗に30貫の価値があるという話が本当かどうか定かではありませんが、数十人で宴会をしても余りある金額だったことは確かでしょう。

さて。秀吉といえば、持ち運び可能な黄金の茶室をつくって天皇に献茶したり、身分を問わず誰でも参加できる巨大な茶会を開いたり。かと思えば、茶の湯を特権階級の証に使ったり、政治に茶の湯を持ち込んだりと、茶の湯なしで秀吉を語ることはできません。

まだ、この藤吉郎がやがて茶の湯政治を行う秀吉になろうとは…という感じですが、今回はほんの少しその片鱗? いえ、秀吉に限らずとも、武将たちが茶の湯とその道具に並々ならぬ熱意をもっていたことが垣間見られました。

信長からの褒美である、30貫の価値があるという茶碗がそのひとつ。そして、信長が敵味方を判断するために出した書状を受け取った群雄のひとり、大和多聞山城主の松永久秀(竹中直人さん)が経を唱えながら虹色の光彩を放つ茶碗を手にしていたシーンです。ちなみに…久秀の右側にチラッと見えていたのが、のちに信長の手に渡るくらいならと自害の道連れにしたといわれる茶釜「古天明平蜘蛛」では? と、茶道をたしなむ方々のSNSで話題になっていたようです。

■重要な「政治ツール」だった茶の湯

粉にした茶葉を湯で溶いて飲む――「僧侶の眠気覚まし」から「貴族の趣味」へ、そして商人によって「ビジネス教養」へと昇華された茶の湯。信長や秀吉が活躍した16世紀後半には、茶の湯は「政治の道具」であり「外交の切り札」や「経済としての担保」になりました。また、ストレスの多い戦国武将にとって、茶の湯は一種の「メンタルケア」でもあったのです。花魁ひとりで城が傾くといわれたのは江戸時代。その直前の室町時代には、茶碗ひとつで城が傾きかねませんでした。

のちに秀吉の茶頭(茶の湯の師匠)となる千利休は、「侘び茶」というジャンルを確立させた茶聖。彼らには壮絶なエピソードが多く、唯一無二の関係だった秀吉と利休だけで「大河ドラマが一作つくれるのでは?」と思うほどですが、『豊臣兄弟!』に利休は果たして登場するのか…? 前作『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』での東洲斎写楽同様、どこまで引っ張るのか気になります。

戦国武将と茶の湯の名器には、おもしろいエピソードが多く残っています。それは…またの機会に。茶道具や茶室でのシーンは、注意深く見ておくことをおすすめします!


【次回 『豊臣兄弟!』第11回「本圀寺の変」あらすじ】

畿内を手中に収めた信長(小栗旬さん)は、小一郎(仲野太賀さん)と藤吉郎(池松壮亮さん)に新たな命令を
下す。大和を治める武将・松永久秀(竹中直人さん)を介し、堺の商人・今井宗久(和田正人さん)らに、矢銭
2万貫を納めさせろというのだ。だが堺の商人はくせ者ぞろいで、兄弟は苦戦を強いられる。

(C)NHK

そんななか、将軍となった義昭(尾上右近さん)を引きずり下ろしたい三好三人衆が、信長不在の機会を狙い、義昭のいる京の本圀寺(ほんこくじ)を襲撃する。

※『豊臣兄弟!』第10回「信長上洛」のNHK ONE配信期間は2026年3月22日(日)午後8:44までです。

※高嶋政伸さんの【高】は「はしごだか」、宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料:参考資料:参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟!~ 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) :