昔は容姿でいじめに遭うなどコンプレックスに苛まれていた?

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2025年10月にロンドンで開催された、クルーニー財団主催「ジ・アルビーズ」授賞式 にて。(C)Mike Marsland/WireImage

メリル・ストリープは今も美しい。76歳にしてこういう美しさは、ある意味不思議だ。なぜなら、若くあろうと頑張っている感じがまるでしないから。"奇跡の76歳"という表現はふさわしくないのだろう。そうではなくて、何というか、生物として若々しく美しい。生命力なのだろうか? それとも知性や知恵なのか?

意外なことに、メリル・ストリープは若い頃、容姿に強いコンプレックスを持っていたと言われる。ハイスクールの時代、分厚いメガネにチリチリ頭、男子にその容姿をからかわれるような存在であったとも言われるのだ。それも、逆に言うと今とあまり変わらない"大人顔"が災いしたと言う。つまり少女の頃から老けていた……。
ただ逆に、若い頃に老け顔だった人は、年齢を重ねてもあまり印象が変わらないと言われる。だから、この人は老けないのだとも言えるけれど。

話を元に戻せば、こうしたコンプレックスを乗り越えて、いきなり人生を逆転させた鍵はやはり演技だった。ハイスクール時代に演技に目覚め、圧倒的な存在感を放ち、やがては学校でも注目の的となったと言う。もちろんメガネを外し、持ち前の美しさもきちんと周りに伝わった。その役の人物になりきるカメレオン系の演技力は、もうこの頃から始まっていたのだろう。

この人の演技の凄さについては、ここで今更語る必要もないはずだが、その才能は若い頃から際立っていて、ヴァッサー大学在学中に演技で奨学金を得て、イェール大学演劇大学院で学び、卒業の段階で、権威あるキャロル・ダイ演技賞を受賞したという。

オーディションで「醜い女」と陰口を叩かれた?

そして卒業後は舞台を中心に活躍するが、映画界に進出する時にもじつは、大きな挫折があったという。映画『キングコング』のオーディションを受けた時、監督が「なぜこんな醜い女を連れてきたんだ」とイタリア語でつぶやくが、実はイタリア語が少しできたことで激しくショックを受けたというのだ。その時に主役を勝ち取ったのが、ジェシカ・ラングだったと言うが、何を持ってメリル・ストリープは醜いと言われたのか? おそらくは、いわゆる"ハリウッド映画の金髪美女"とは全く違うタイプだったこと。知的な清潔感は必要なかったということなのだ。

その容姿が見事功を奏するのが『クレイマー、クレイマー』 。家庭よりも仕事を選ぶものの愛情深い聡明な母親を演じ、アカデミー賞を始め、賞を総なめしているのだ。それからの快進撃は説明するまでもないだろう。いわゆる美人女優としてのポジションではない、しかし他の人では演じられない美人をいくつも演じてきた。『ソフィの選択』『恋におちて』『愛と悲しみの果て』『愛と精霊の家』『美しすぎて』、そして『マディソン郡の橋』……。

左/1979年公開、ロバート・ベントン監督の映画『クレイマー、クレイマー』のワンシーン。ダスティン・ホフマン、ジャスティン・ヘンリーと(C)Express/Getty Images 中/1983年4月、第55回アカデミー賞授賞式にて。映画『ソフィーの選択』で主演女優賞を受賞(C)Michael Montfort/Michael Ochs Archives/Getty Images 右/映画『マディソン郡の橋』のワンシーン。クリント・イーストウッドとメリル・ストリープ(C)Warner Brothers/Getty Images
左/1979年公開、ロバート・ベントン監督の映画『クレイマー、クレイマー』のワンシーン。ダスティン・ホフマン、ジャスティン・ヘンリーと(C)Express/Getty Images 中/1983年4月、第55回アカデミー賞授賞式にて。映画『ソフィーの選択』で主演女優賞を受賞(C)Michael Montfort/Michael Ochs Archives/Getty Images 右/映画『マディソン郡の橋』のワンシーン。クリント・イーストウッドとメリル・ストリープ(C)Warner Brothers/Getty Images

映画『プラダを着た悪魔』はなぜ成功に至ったか?

サッチャー夫人など、実在の人物を、本人かと錯覚するほど酷似させることもでも有名だが、モデルがいながらも独自の人物像を作り上げたのが、じつは『プラダを着た悪魔』だった。
怒りをあらわにする怖さではない、無言で相手を威圧し従わせる重厚な怖さ、厳かなる悪魔を演じ、当然のようにアカデミー賞にノミネートされる。もちろん映画も大成功収めるのだが、実はもともとこの映画制作は茨の道だったことが知られている。

モデルとなったVOGUE編集長、アナ・ウィンターはかつての部下が書いた本の映画化によって、まぁ当然のことだろうが、自分が悪魔のモデルになることに難色を示し、様々な策を講じようとしたというが、なんと、自分の役を演じるのがメリル・ストリープだとわかった途端に、理解を示したと言う。
メリル・ストリープが演じるならば、内容が上質のものになるに違いないと感じたから、とも言われるし、この女優に対するリスペクトの感情が強かったからとも言われる。かくしてアナ・ウィンターの理解が成功の大きな要因になったといってもいいのだろう。そもそも、この人物に対する批判中心のネガティブな内容であったら、これほどの成功を果たすはずがないのだ。

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2025年7月、映画『プラダを着た悪魔2』の撮影現場で目撃されたメリル・ストリープ(右)とアン・ハサウェイ(C)Aeon/GC Images

ハリウッド一の偉大な女優なのに、この人の人柄は………

奇しくも、今回の『プラダを着た悪魔2』が制作されていた頃、アナ・ウィンターの引退が伝えられたが、この続編も時代の変化による出版業界やファッション業界のその後が描かれる。「成功」とはそもそも何なのか? 幸せとは?と言うことも、そこから読み取れるのかもしれない。

ちなみにメリル・ストリープ自身は、ハリウッド1の大女優という地位を築きながらも、威圧的でも怖くもないと言う。ユーモアもあって柔軟で、じつに善い人であると言われる。スキャンダルも一切なく、長年連れ添った彫刻家の夫とは、先ごろ離婚をしたが、理由を全く明かさず。おそらくは子供たちが成長したのと、別の道を歩く時が来たという、極めて普通の人の感覚なのだろう。その立場で、こういう普通さを備える驚くべきバランス感覚が、無類の若さの意外な理由かもしれないとも思う。

ちなみにこの人は、自分はまだ未完全だという姿勢を崩さず、自分の仕事も社会への奉仕と捉え、常に共演者を立てる謙虚さをもつと言われる。一流の人ほど謙虚とされるのは本当なのだ。それも静かな知性から生まれる能力のうちと言われるのだろう。

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2025年8月、映画『プラダを着た悪魔2』の撮影現場でのメリル・ストリープとスタンリー・トゥッチ。アメリカ自然史博物館前にて(C)James Devaney/GC Images

そして、若さの正体においてひとつ重要なことを言えば、この人は若い頃から老け顔ではあっても"清潔感の塊"のような美貌を誇っていること。それを丁寧に丁寧に保ってくると、こういう76歳が出来上がるのだろう。映画の中では厚化粧だが、素顔の本人は本当に素顔っぽく、だから余計に若いのだ。そして、何か特別なことをしなくても、心の安定とバランスの良い知性、そして自分を大きく見せない、むしろ小さく見せる精神性、それが大切なのだと、この人にはまざまざと教えられる。偉そうじゃないから若いのだ。
そういう年齢の重ね方も含めて、ハリウッド史上最も偉大な女優……そう言っても良いのではないだろうか。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
齋藤薫
EDIT :
三井三奈子