【目次】
【第11回のあらすじ】
第11回「本圀寺の変」は、足利義昭(尾上右近さん)の将軍就任に伴う織田信長(小栗旬さん)の上洛、そして三好三人衆らによる義昭襲撃(本圀寺の変)と、政治的な動きが加速。ドラマティックな展開を見せる回となりました。
そして、その裏に複雑に絡んででいたのが、堺(現在の大阪府堺市)の豪商たちに象徴される経済の動き。今回の注目ポイントは、信長が堺の「会合衆(えごうしゅう)」に要求した2万貫という莫大な「矢銭(やせん)」と、それに対する商人たちの投資的判断です。政治と経済が複雑に絡み合い、戦国の世を突き動かします!
ストーリーの起点となったのは、永禄12(1569)年正月の軍事的空白でした。信長が京都を離れ、岐阜へ一時帰還した隙を突いて、美濃を追われた斎藤龍興(濱田龍臣さん)が三好三人衆と合流。将軍・足利義昭が仮の御所としていた本圀寺(ほんこくじ)を襲撃したのです。
実はこの襲撃に、影で大きな影響を及ぼしていたのが、堺の会合衆でした。ドラマでは、信長の命を受けた小一郎(中野大賀さん)と藤吉郎(のちの秀吉/池松壮亮さん)が、「矢銭(軍資金)2万貫を納める代わりに、その銭で鉄砲3000丁を買ってやる」「断れば幕府を敵に回す」と、余裕の微笑みで「巧みに交渉を持ちかけていた」ように演出されていました。
ところが、こと「商い」においては、小一郎や藤吉郎をはるかにしのぐ、したたかな動きを見せたのが、堺の会合衆でした。表向きは今井宗久(和田正人さん)が小一郎たちの要求をのらりくらりとはぐらかし、実は裏では、津田宗及(つだそうぎゅう/マギーさん)が三好側に鉄砲を渡していたのです。
会合衆からの横流しで得た鉄砲を携え、本圀寺を襲撃した三好の兵は数千。信長に美濃を追われた斎藤龍興も、ちゃっかり加勢しています。なんともしぶとい。
対する義昭側は、明智光秀(要潤さん)や小一郎らの兵が数百という絶望的な差がありました。しかも、寺院という構造は本来防御に不向きであり、低い塀と開けた境内は格好の標的となってしまいます。
もはやこれまでと死を覚悟した義昭は自害を決意し、三好三人衆は将軍殺しだという悪名を後世に伝えるよう光秀たちに指示しますが、これに鋭く反応したのが小一郎でした。
「潔く死んで満足するのは侍だけだ」
「無様でも生き延びて、豊作の世をつくってくだされ」
「むだな殺し合いのない世をつくってほしい」という、今は亡き直(なお)の願いをかたちにしたようなセリフでしたね。
その後、本圀寺が三好家の信仰寺院であることを知った小一郎は僧に扮して舌先三寸。たたりをほのめかして時間を稼ぎます。痺れを切らした三好三人衆が火攻めに入ろうとした矢先、姿を現したのは、藤吉郎と半兵衛が率いる織田の軍勢でした。退路を断たれることを危惧した三好軍は退却!
『豊臣兄弟!』では、強い絆で結ばれた豊臣兄弟の前に、次々と現れる「こじらせ兄弟」がひとつの裏テーマとなっています。今回のゲストは足利義輝・義昭の兄弟でした。三好軍を撃退し互いの健闘を讃え合う、小一郎と藤吉郎を見ていた義昭は、密かに「あのふたり、わしのものにできぬか」と光秀にささやきます。ちょっと怖いですね。兄弟に対する不信や妬みをこじらせている彼らは、豊臣兄弟が放つ強い光、強力な絆に心惹かれずにはいられません。
一方、信長の戦略により、浅井長政(中島歩さん)のもとへ嫁いだお市(宮崎あおいさん)は義理の父(浅井久政/榎木孝明さん)から向けられた疑惑の眼差しに、つらい日々を送っていました。当時の政略結婚としては当然のことながら、浅井家の内情を探る織田のスパイと受け取られていたのです。
信長への手紙を咎められた挙げ句、信長から贈られ大切にしていた銅鏡を焚き火にくべられてしまいます。
とっさに炎に手を入れ、鏡を救い出す長政…焼けただれた手!
長政の優しさと誠意が、固く閉ざしていたお市の心をほぐします。焼け焦げた鏡を箱にしまい、夫から贈られた鏡を使い装うお市。心なしか頬を染め華やいだお市の、なんとも幸せそうで美しいこと! このとき初めて、お市は自らの意思で、長政の妻になったのですね。素敵な演出でした!
それにしても気になるのは、義父・久政の存在です。ドラマを観ている限り、浅井家の実権は久政にあり、長政は逆らえない様子。これが史実としての、のちの悲劇につながっていくのでしょうか。
【「武力」と「富」、「情報」が錯綜する「本圀寺の変」】
信長が上洛した当時、堺は単なる貿易都市ではなく、日本で唯一「大名の手出しを許さない」自治都市としての最盛期を迎えていました。
■「東洋のベニス」と称された自治都市・堺
堺は古くから日本政治の重要な拠点として栄えた地域ですが、戦国時代に入ってから九州の平戸や長崎にポルトガル船が来航すると、貿易がもたらす珍品や贅沢品が集まる、日本最大の貿易都市となりました。なかでも鉄砲や硝石(鉄砲の火薬の原料)の流通を独占したことで得た経済力は、一国の大名に匹敵する軍事力(傭兵)を雇えるほどだったといいます。
宣教師ガスパル・ヴィレラが「東洋のベニス」と称賛した通り、堺は「最新の技術」と「情報」、そして「黄金」が渦巻く場所だったのです。
堺の町は自治組織である「会合衆」によって治められていました。「会合衆」とは大名に支配されない特権的な商人層のこと。彼らは莫大な富を武器に、自治的な都市運営を行っていました。外敵から身を守る自警団を雇うことで、戦乱の世においても独立を保ち、商売に専念できる環境を維持していたのです。
『豊臣兄弟!』に登場した津田宋及や今井宗久も会合衆に属する豪商のひとりで、彼らは茶人としても活躍し、のちに千利休と共に「3大宗匠」と称されることになります。彼らにとって茶の湯は、武将との政治的交渉の場(道具)として機能していたのですね。今回、松井久秀(竹中直人さん)が信長に茶入を献上するシーンがありましたが、「あれは大名物『茄子(なす)』では?」とSNSがざわついたそうです。
■投資先を見極める、したたかな「商人の計算」
こうした堺という都市が備えた強大な経済力と自立性を、天下統一を目論む信長が見逃すはずはありません。実効支配の第一歩として、京の治安維持と軍資金の確保を目的に、会合衆に「矢銭2万貫」の献上を命じたのです。
「矢銭」とは、戦場での「矢の代金」を意味し、戦国時代に大名や武将が資金調達のために庶民に課した軍資金で、実質的には強制的な重税ともいえるものでした。信長が要求した2万貫は、現在の貨幣価値で約20億円〜24億円に相当する金額だったといわれています。
信長にとって、会合衆への矢銭要求は、単なる資金集めではありませんでした。それまで誰も手を出せなかった「堺」という都市を支配下に置くことで鉄砲や硝石の流通を独占し、天下の主が誰であるかを京の周辺に知らしめるという意味をもっていたのです。
一方で、堺の商人たちにとって、信長に2万貫を払うことは、それまで関係が深かった「三好からの利権を捨てる」決断を意味していました。彼らは、信長を「上洛してきた新興勢力」、三好を「旧来の有力者」として、天秤にかけていたのですね。
鉄砲を三好側に流したのも、彼らにとっては「信長という高い税を課す者」への、いわばリスクヘッジ(保険)。本圀寺が包囲された際も、「信長が負ければ2万貫払わずに済む」という冷徹な計算がはたらいていたのではないでしょうか。これが、堺という都市が生き残るため、会合衆が練り上げた生存戦略だったのです。
結果的に、信長陣営が本圀寺を守り抜いたことは、軍事的な勝利であると同時に、堺の商人たちに「信長は投資に値する覇者である」と確信させる結果となりました。
■富を制する者が天下を制す
「富を制する者が天下を制す」とは、戦国時代において「軍資金(経済力)を支配した武将が勝利する」という歴史的教訓です。織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康らは、物流の要所を確保し、楽市・楽座などの経済政策から莫大な富を築き、軍事・政権の基盤としています。
小一郎と藤吉郎は、初めて目にした堺の「富」に圧倒されていたはずです。堺で手に入らぬものはなく、金さえ払えば戦の勝敗を決める兵士たちですら集めることが可能で、実際、小一郎たちは本圀寺で彼らに救われました。堺が象徴するのは、「金」と「流通」、そして「情報」の重要性です。
新たな視点を手に入れた小一郎は、今後、この考えを自らの実務に反映させ、長く利益を循環させる「持続可能な経済支配」を模索し始めるのですが…これはもう少し先のお話。
物語は次なる局面へと動き出します。
【次回 『豊臣兄弟!』第12回「小谷城の再会」あらすじ】
信長(小栗旬さん)は義昭(尾上右近さん)に“天下人の石”と呼ばれる藤戸石を贈る。だが義昭は、信長と目指すものが違うことに気付き始めていた。一方、藤吉郎(池松壮亮さん)は京都奉行に就任。任務に追われる小一郎(仲野太賀)と藤吉郎は、あるとき信長に連れられ、市(宮﨑あおいさん)のいる小谷城を訪ねることに。長政(中島歩)と市は幸せに見えたが、裏では織田を快く思わない長政の父・久政(榎木孝明さん)が不穏な動きをしていて…。
※『豊臣兄弟!』第11回「本圀寺の変」のNHK ONE配信期間は2026年3月29日(日)午後8:44までです。
※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 河西真紀
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟!~ 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版)/堺市(https://www.city.sakai.lg.jp/index.html) :

















