人の心は逆境に立ち向かい、幸せに向かって歩き出す底力を持っています。しかし、日々の習慣によってそれが遠ざかってしまう場合も……。

そこで天台宗の僧侶・緑川明世さんに、「自ら心をへこませ、いつまでも豊かにならない悪習慣」についてお聞きしました。

心をへこませる悪習慣とは「自分が生き生きできない方向に心を向けてしまう、心のクセ」のこと。幸せに生きるために、これらのクセは解消していきましょう。習慣を変えるだけで、どんどん余計な悩みや悪感情にとらわれなくなってゆきますよ。

■1:ひとつひとつの感情やものごとに「執着」する

ひとつひとつの感情やものごとに「執着」してしまう

仏教の重要な教えのひとつに、「中道」という考え方があります。極端な方向によらず、バランスよく生きて行くことが重要だという考え方です。そのためには、良きにつけ悪しきにつけ、ひとつの感情にとらわれないことが重要になります。

「何かがあったとき、ひとつひとつの感情に固執してはいけません。人間ですから、マイナスな感情が湧き上がってくることも、当然あります。でも、そのマイナスな感情は認めつつも、それを受け流し、ものごとを良い方向に解釈していくようにしましょう。感情を受け流せばそのまま消えていきますが、心の中に溜めていくと、凝り固まってしまいます。嫌な人に対しても『今の対応にはイライラした』と思って、その感情を溜めていくと『この人にはいつもイライラさせられるから嫌い』と、悪感情を成長させてしまうのです。

同じように、自分が『いい』と思うことにも、こだわりすぎないほうがいいですね。『これがいい』という強い思いが他者への押し付けになったり、自分への強いプレッシャーになったりする可能性もありますから。ひとつひとつに執着せずに、ニュートラルな自分を保ちましょう」(緑川さん)

悪感情だけでなく、良い感情であっても、その思いに執着すると他人に迷惑をかけたりすることがあります。自分の感情の動きを認めつつ、しなやかに対処していきましょう。

■2:言葉や態度で「自分や他者を傷つける」&必要以上に「我慢する」

言葉や態度で「自分や他者を傷つける」&必要以上に「我慢する」必要はない

仏教においては、非暴力も重要な教えのひとつです。これは肉体的な暴力だけを指すのではなく、言葉や態度においても同じです。他者はもちろん、自分自身にも暴力をふるってはいけません。

「職場などで、嫌な態度をとってくる人や、ひどい言葉を投げつけてくる人もいます。これは相手から暴力を受けている状態です。相手のことを変えることはできませんから、そうやって自分を傷つけてくる人から離れていくようにしましょう。自分が傷つく環境に身を置くべきではありません。そして自分でも、同じような態度を取って人を傷つけてはいけません。自分が傷ついたり嫌だと思ったことは、人にしないように心がけましょう。

同僚や親戚関係など、自分の意思だけで離れていくことはできない関係であれば、その人のことを違う風に受け止める訓練をしましょう。その人の態度にも、何か理由があるかもしれません。『この人、ちょっと変わった人だな』くらいに受け止めて、必要以上に関わらないようにするのです。相手の問題は相手が乗り越えるべきであって、他人の考え方や行動を変えることはできません。自分では相手をニュートラルにとらえ、自然に接していきましょう」(緑川さん)

自分が傷つく環境に身を置いていると、我慢がクセになることがあります。我慢というのは、自分を傷つける種を心に植え続けているのと同じです。そんなときはただ我慢するのではなく、自分が現状から抜け出す準備を整えて、次のステップへ成長する糧として、その経験を生かしましょう。

■3:自分の感覚や感情に対して「鈍感」になる

自分の感覚や感情に対して、鈍感になってしまう

日々の生活を送っていると、さまざまな感情が浮かび上がってきます。しかし、忙しい日々の中、それらの感覚をそのまま受け流していると、心の感覚が鈍くなってしまいます。

「自分の心にきちんと向き合っていないと、一つひとつの感情が散漫になっていきます。自分が何をやっているかを理解して、気持ちに気付いていけるといいですね。日々疲れが重なってくるとどうしても感覚が鈍ってしまいます。体が鈍ると健やかに過ごせませんし、心が鈍ると目指すべき方向がわからなくなるのではないでしょうか。

そうやって自分の心を見つめて感情に向き合わないでいると、自分をニュートラルに戻すことができません。悪い感情やこだわりを残してしまうことにつながります。瞑想やヨガなど、自分にあった方法を見つけ、自分の感覚を研ぎ澄ませていきましょう。身体のバランスが取れてくると、心のバランスも取れてくるのです」(緑川さん)

自分の心の動きを理解できるのは、自分だけです。大切な自分の心に向き合う習慣をつけて、感覚を研ぎ澄ましていきましょう。

■4:感情を爆発させる

感情を爆発させてしまう

感情をコントロールするというのは、本当に難しいもの。ニュートラルを心がけていても、理不尽なことがあったりすると、つい怒りを爆発させてしまったり、人前で号泣してしまったりすることもあります。

「対人関係の問題などで、人前で感情を爆発させてしまうと、変な粘着をつくってしまうことがあります。自分でも後から思い返して嫌な思いをしたり、いいことはありません。人と対面していて感情が爆発しそうになった時は、物理的に相手から離れるようにしましょう。そして深く息を吐き出して、自分の中の悪感情を吐き出しましょう。そうやって心を切り替えれば、高ぶった感情を治めていくことができます。もし相手から物理的に離れることが難しい場合は、身体を少し動かしてその場の空気を変えるようにするといいですよ」(緑川さん)

相手から物理的に離れたり、深く息を吐き出したりすることで、少し落ち着いて自分を客観視できるようになります。自分の中の怒りや不安、嫉妬といった感情を正しく自覚し、その感情の嵐に飲み込まれることなく、自分の心を把握しておくことが重要です。

■5:前かがみで「浅い呼吸」をする

前かがみの浅い呼吸を、深い呼吸に

日々、忙しく過ごしている現代人は、パソコンでの作業やスマートフォンの画面を見続けてしまうことが多く、どうしても前かがみになり、呼吸が浅くなっています。意識しないと、深い呼吸ができない人が多いのです。

「呼吸が浅いと、少しのことでドキドキしたり、あわてることが多くなります。深い呼吸をしていれば心身に安定感がうまれ、物事に動じない芯の強さが育ちます。1日1回、深呼吸をするだけでも心が落ち着き、リラックスできるようになるのです。体を整えるには、まず呼吸がとても重要です。1日1回でいいから深い呼吸をしてみましょう。深い呼吸ができるようになると日常的に楽になり、深いリラックスが得られるようになります。

深呼吸だけでなく、瞑想やヨガなどをして体を整えていくことも重要です。自分にあったやり方を見つけて、自分が集中できる方法を見つけていきましょう。呼吸が整って体内の循環がよくなり、身体のバランスが取れるようになり、自然と心のバランスも取れてくるようになります」(緑川さん)

パソコンやスマートフォンの画面ばかり見ていると、視野も狭くなります。できるだけ、背筋を伸びして深呼吸をするクセをつけましょう。

自分が生き生きできていない、自分らしくいられないときというのは、何か心にわだかまりが生まれ、偏りが生まれている状態です。今、自分の心がニュートラルな状態にあるかを意識し、悪い習慣をやめていくことで、心と体を整えていくことができます。自分の人生がより良い方向に進むよう、自分で自分を導いていきましょう。

緑川明世さん
天台宗僧侶
(みどりかわ みょうせい)渡米先でチベット人高僧と出会い仏教に興味をもつ。1989年、天台宗僧侶となり、1991年より調布市の深大寺に勤務。2001年よりインドのデプン寺に定期的に滞在、チベット語と仏教経典を学ぶ。
『尼僧が教える心の弾力のつくり方』緑川明世・著 学研プラス刊
この記事の執筆者
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WRITING :
松村知恵美