世界に通じるピノ・ノワールを追い求めて~ブドウ栽培家佐藤明夫の情熱

数々のワインコンクールを総嘗めにした、高山村が誇るブドウ農家のカリスマ

左から、「シャトー・メルシャン 長野シャルドネ キュベ・アキオ2016」「シャトー・メルシャン 長野ピノ・ノワール キュベ・アキオ2015」
左から、「シャトー・メルシャン 長野シャルドネ キュベ・アキオ2016」「シャトー・メルシャン 長野ピノ・ノワール キュベ・アキオ2015」

 佐藤さんは、日本ワインコンクールで多くの受賞歴を重ねる「北信シャルドネ」や「長野シャルドネ」のブドウ栽培者。また、シャルドネとともにピノ・ノワールで「キュヴェ・アキオ」という自らの名をつけたワインを世に送り出している。特筆すべきは「北信シャルドネ」がG7伊勢志摩サミット2016にてワーキングランチ/総理夫人主催夕食会で提供されたことだろう。醸造所を持たずしても彼の名前は高山村のブドウと共にもはや全国区の実力を誇る。

 佐藤氏のブドウ畑のいくつかは標高約830メートルの地と600メートルの地の二か所にある。これは同じ種類のブドウでも標高によって味わいが変わることを意識しているものだ。

 高山村の中心地から山田温泉を目指してゆるやかな上り坂を上がっていった先はまさに山の中だ。更に進むと福井原という小さな集落があり、そのなかにピノ・ノワールとソーヴィニオン・ブランの圃場が一気に視界のなかに登場する。その姿はどうやって表現したらいいか悩むほどだ。フランスはブルゴーニュ地方のコートドールの丘を切り抜いたように、なだらかにカーブする丘陵地帯に立ち並ぶブドウの樹。きちっと揃えられた葉が緩やかに曲線を描き、それを見たものは思わず感嘆の声が出る。

「ワイン畑は美しくないといけないんです。そのために僕たち栽培者は毎日こつこつと葉や雑草を刈っていくんです。だってこんなにいい形をした丘はここにしかないんですから。」
「ワイン畑は美しくないといけないんです。そのために僕たち栽培者は毎日こつこつと葉や雑草を刈っていくんです。だってこんなにいい形をした丘はここにしかないんですから。」

賞賛されるワインの秘密は、『健康なブドウをつくる』努力にあり

 高山村の隣にある中野市でブドウ農家に生まれ、高山村に移住してきたのはその畑の持つポテンシャルに気づいたからに他ならない。特に住居を構える福井原はブドウづくりの限界点ともいわれる標高800mをわずかに超えるところに位置する。北向きの斜面ではあるが、風通しがよく、乾燥しており、そして何といっても寒暖の差が非常に大きく、良質なブドウづくりの要素がすべてそろっている理想の地だ。

 ブドウ農家として、さまざまな栄誉に輝く佐藤さん。ほかの農家と違う秘密はなにかとたずねてみたら、「とにかく、いいブドウをつくること。それにはいい環境をブドウに与えることに心を砕く。こまめに世話をし、健康なブドウを醸造家にお届けする、それだけです」と笑う。

 その日々の積み重ねにも、よそにはない工夫や努力や秘密があるはずでしょう? とさらに聞くと、

 「僕たちの仕事はほとんどが草刈りです。地面に生える雑草も微生物を途絶えさせないために農薬で除草したりせずに伸びてきた分を刈り取っていくんですよ。夏の間はたいへんですね。ブドウの葉を切り、下の雑草を刈りとり、その連続です」と答えてくれた。

ピノ・ノワールのブドウ。気候や雨などで果実が割れてしまう非常に難しい品種だそう。
ピノ・ノワールのブドウ。気候や雨などで果実が割れてしまう非常に難しい品種だそう。

難しい「ピノ・ノワール」栽培にかける、ワインへの深い情熱

 そんな佐藤さんがことさらに情熱をかけるブドウの品種がある。それがピノ・ノワールだ。

 前出の【信州たかやまワイナリー】の鷹野さんも、「佐藤さんのピノ・ノワールはちょっとすごいですよ」と興奮気味に話していた。

 佐藤さんとともにブドウ畑を歩いていると、一番奥にぽっかりと約1haほどの休耕地があった。センサーが立てられ気象データを取得し蓄積している。その畑に、また新たにピノ・ノワールを植えるという。実は、昨今の温暖化も考え、高山村の一番標高の高いところにわざわざ土地を購入したのも、このピノ・ノワールをつくりたいということが大きな理由だった。

「ここで世界に通じるピノ・ノワールをつくりたいんですよ」

 彼はこれまでにない強い言葉でそう語る。ピノ・ノワールはフランスだとブルゴーニュ地方、アメリカではオレゴン州など乾燥した気候を好む品種だ。病気に弱く、育てづらい品種でもある。日本でもトライしている生産者は少なくはないが、毎年安定して良質なワインに仕上げるところはほとんどないと言っていい。

「たまに、これは旨いというピノ・ノワールに出会うこともあります。実はかなりの確率でそれはたまたま、なんですよね。日本ではすっごい難しい。ブルゴーニュですら年によって大きな差が出るくらいだし。僕はこの畑で持続可能な最高のピノ・ノワールをつくるって決めたんですよ、それをつくるにはできる限りのどんな努力もどんだけ金もかけたっていいと思っているんです。」

栽培しているブドウの世話は基本的に二人で行っているという佐藤さん。情熱をかけているブドウづくりについて語るときはいつも最高の笑顔だ。
栽培しているブドウの世話は基本的に二人で行っているという佐藤さん。情熱をかけているブドウづくりについて語るときはいつも最高の笑顔だ。

 日本最高のピノ・ノワールをつくる―。

 カリスマブドウ農家である佐藤明夫の夢をかなえるための情熱は、とどまることを知らない。佐藤氏の話にぐんぐんと引き込まれていきながら、仮にそのワインがどんな価格だったとしても飲んでみたいと思うのは、そこに大きなロマンを感じるからではないだろうか。(2017.11.09)

高山ワインが帰るお店はこちら!

信州高山アンチエイジングの里【スパ・ワインセンター】

【藤田屋酒店】

  • 藤田屋酒店 TEL:026-242-2046
  • 住所:〒382-0821 長野県上高井郡高山村大字牧1655-3
    営業時間:9:00~20:00(月曜定休)

記事元:ヒトサラ https://hitosara.com/contents/oishii_nippon/studying/01/index_03.html

この記事の執筆者
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