『911』がこれほどまでに人気を集める理由は、まず1963年の誕生以来、エンジンを車体後部に配置した設計、および基本的なプロポーションをほとんど変えていないため、スポーツカーのアイコンとして、どの時代のモデルでもそれとわかることが挙げられる。

そして、レースを通じて磨き上げられたメカニズムは、適切なメンテナンスを欠かさなければ、機械式腕時計のようにいつまでも精緻に動き、そのうえ狭いながらも後席を備えた広いキャビンは、普段使いからロングドライブまで幅広く対応する。ファッション性と実用性を兼ね備えた『911』は長寿命設計ゆえに、元気な個体が多いこともあって(スペックや快適性は最新モデルが優れているとしても)、マニアックなファンの需要が年々増えている。これが高騰の主たる理由だ。

クルマ選びの視点を変えて本当の贅沢を愉しもう

ポルシェ『911タルガ4』

太いセンターピラーを残してキャビンの直上部分だけが開閉するタルガトップは、クーペとカブリオレ、それぞれの魅力を味わいたいエゴイストに最適。『911』伝統の、美しいカーブを描く後部ガラスも引き立ち、背中で語れる。
太いセンターピラーを残してキャビンの直上部分だけが開閉するタルガトップは、クーペとカブリオレ、それぞれの魅力を味わいたいエゴイストに最適。『911』伝統の、美しいカーブを描く後部ガラスも引き立ち、背中で語れる。

ただ、1~2年前までは、それでも買いやすいモデルはあった。それが着脱式の屋根を備えた『911タルガ』で(固定式ガラスルーフだった時代もある)、軽量モデルや高性能モデルよりも「軟派」な印象があるためか、911バブルのなかでも現実的な相場で取り引きされていた。それが値上がりを始めているのは、硬派系『911』の良質な個体が、さすがに市場に出回らなくなったための代替人気なのだろうが、こう考えることもできる。すなわち、人気が高騰する過程で、『911』のスポーツ性以外の部分が評価されつつあるのではないか、と。

『911タルガ』の歴史は1966年からと古く、直上の屋根だけが開き、キャビン左右の柱が残る構造にすることで、横転時の安全性とボディ剛性を両立させているのが特徴だ。『911』にはフルオープンのカブリオレもあるが、個性があり、スポーツ走行もリゾートでのクルージングも楽しい『911タルガ』こそ、本当の贅沢を知るファッショニスタにとって、理想の存在なのだ。近年の異常なまでの旧車人気は、『911』が本来持つ洒脱な一面を浮かび上がらせ、成熟した非マニア層にも、その魅力を知らしめているのだ。

幸いにも『911タルガ』は現行型でも健在だ。だから旧車にこだわる必要もない。そもそも、こうしたエレガントかつ狼な「ラグジュアリー・スポーツカー」の選択肢は、ポルシェだけに留まらない。スペック偏重主義をやめて、ファッションのひとつとして捉えることが、クルマ選びの視点を変えるのだ。この夏は、そんな「ラグジュアリー・スポーツカー」を駆って、優雅な男の夏旅に華を添えていただきたい。

DATA:ポルシェ『911 タルガ4 GTS』
ボディサイズ:全長4,528×全幅1,852×全高1,291㎜
車両重量:1,605kg
エンジン:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:2,981cc
最高出力:450PS/6,500rpm
最大トルク:550Nm/2,150~5,000rpm
トランスミッション:7速PDK(AT)
価格:¥19,944,445(ポルシェ カスタマーケアセンター)

※2018年夏号掲載時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年夏号ラグジュアリー・ スポーツカー を味わい尽くす
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/柏田芳敬 構成/櫻井 香