「世界ベストレストラン50」は世界26ケ国、1080人の投票者が18ケ月以内に訪問したレストランへの投票で決まる。つまり、物理的に予約をとって食事しないと1票も集まらないわけだが、そういう意味ではニューヨークでもパリでもなく、モデナという地方都市にありわずか38席しかない「オステリア・フランチェスカーナ」が世界一を獲得したのはそうしたハンデを乗り越えた点でも非常に意味深い。

2018年版、世界ベストレストラン50が発表

世界一のタイトルを獲得した「オステリア・フランチェスカーナ」

2018年度の表彰式はスペインのビルバオで行われ、トップ50にランクインしたシェフが表彰される華々しいセレモニーだった
2018年度の表彰式はスペインのビルバオで行われ、トップ50にランクインしたシェフが表彰される華々しいセレモニーだった

2017年の同コンテストで1位だった「イレブン・マジソン・パーク」は、2016年度の表彰式がニューヨークだったことから多くの投票者が訪問する機会があったゆえ、という分析もあるが2018年度に関していうならばマッシモ・ボットゥーラがライフワークとして世界規模で行なっている、食の貧困を救うための慈善レストラン「レフェットリオ」も評価されてのことではないかと思う。ビルバオの壇上に上がったマッシモはこんなスピーチで表彰式をしめくくった。

見事世界一に返り咲き、ステージに上がったマッシモ・ボットゥーラと、奥様のララ・ギルモア。
見事世界一に返り咲き、ステージに上がったマッシモ・ボットゥーラと、奥様のララ・ギルモア。

「世界一というタイトルはまずモデナとフィレンツェにいるスタッフに捧げたい。しかしパリの『レフェットリオ』のスタッフは表彰式の前に写真とともにこんなメッセージを送ってくれた。

『われわれ全員、マッシモとともに!!』

これはとても素晴らしいことだ。われわれはこうした点で一つになっている。こうしたスポットライトは全てのシェフに当てたいし、そうすることで大きな声で変革を呼びかけることができる。シェフもいまこの会場にいるジャーナリストも全員が力をあわせてひとつになれば、革命を起こせるし、世界を変えることができる。」

マッシモ・ボットゥーラは世界一のシェフという称号以上に、フードロスと貧困を救うチャリティ・レストラン「レフェットリオ」の活動が世界的に評価されている。
マッシモ・ボットゥーラは世界一のシェフという称号以上に、フードロスと貧困を救うチャリティ・レストラン「レフェットリオ」の活動が世界的に評価されている。

ボットゥーラがつねづねいうのはこうした格付けなどでシェフが世界的に認識されれば発言力も強まる。そうすれば料理の力で世界を変えることができるのではないか、ということだ。マッシモが取り組んでいるフードロスと貧困に対する活動は、消費主義社会とガストロノミーにおいてはある種二律背反的にも聞こえるが、トップシェフが発言するからこそ説得力がある、というのがボットゥーラの考えだ。ガストロノミーを超えた新しい料理の世界を創造しつつあるマッシモ・ボットゥーラに祝福を送りたい。

The Worlds 50 Best Restaurant TOP10

1位 Osteria Francescana(ITALIA)
2位 El Celler de Can Roca(SPAIN)
3位 Mirazur(FRANCE)
4位 Eleven Madison Park(USA)
5位 Gagaan(THAILAND)
6位 Central(PERU)
7位 Maido(PERU)
8位 Arpege(FRANCE)
9位 Mugaritz(SPAIN)
10位 Asador Rtxebarri(SPAIN)

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。