高級ブランドショップが立ち並び、国内のみならず世界各地からも観光客が集う街、銀座。その銀座の街と文化をこれまで支えてきたのは、裏通りに立ち並ぶ老舗、そして熟練の職人たちでした。

そんな“裏通りの職人たち”にカメラを向け、銀座の”今”に迫ったドキュメンタリー映画『God’s IN ZA details 銀座|裏通りの職人たち』の撮影が現在、進行中。クラウドファウンディングで賛同者も募っています。

この映画の監督を務める、映像ディレクターの鈴木 勉(すずき べん)さんと、監修を務め、銀座の街に店をかまえる壱番館洋服店の渡辺 新(わたなべ しん)さんに、「GINZA SIXも開業し、さらに注目を集める銀座の、なぜ映画なのか?」について、お話を伺ってきました。

左から/渡辺 新さんと鈴木 勉さん

なぜ今、“銀座”なのか

鈴木さん(以下、鈴木) 私は幼少期に神谷町に住んでいたため、銀座には親に連れられてよく来ていたのですが、なんとなく、きちんとした服を着てハレの日に来る場所だと思っていたところがありました。ですから、銀座というと「年上の方が行く場所」というイメージが強くありました。

今回、銀座にスポットを当てた映画を撮ろうと思ったきっかけは、2020年の東京オリンピックに向けた再開発で、住みなれた地域が大きく変貌してしまうことを知ったからです。そこで、銀座の風景や街の人々の様子を残していきたいと考えていたところ、同級生の渡邉さんが、銀座で商売をするさまざまな方にインタビューをした本、『銀座・資本論』が出版されたことを知りました。読んでみるとこれが本当に面白くて、ぜひ映画にしたいという話になったのが2年前の2015年。競技場などの大きなアイコンは、映像として記録が残るのかもしれませんが、一般の人々の生活といった小さなことはまったく記録に残らない。そういった部分を、しっかりと映像という記録に残したいと考えたのです。

渡辺さん(以下、渡辺) 私は、実際に現場にいる人たちに「ビジネスではなく、商いとはなにか?」ということを聞いてみたいと考え、銀座で商売をする人々にインタビューをし、壱番館洋服店の会報に載せてきました。ビジネス書は多く本棚に並んでいるけれど、そこに”商いの指南書”はないということに気づいたからです。それはつまり、人づてに聞く以外に知る方法はない、ということ。だったら聞くしかないじゃないか! と思いたち、銀座で商いをする方々に教えていただこうと考えました。インタビューを続けていくうちに、さまざまなプロにさまざまなお話を伺うことができました。たまたまその会報を見た出版社勤めの友人から、「このまま本にできるよ!」と言われたことが、前述の本の出版につながったのです。 これまで、世界中で豊かさを求めて近代化が推し進められてきましたが、21世紀になり、「本当に豊かになったのか?」と思い始める人が増えてきたように感じます。そんななか、商いには本当の意味での豊かさが含まれており、心も体も豊かになるようなエッセンスがちりばめられていることに気づいたのです。特に、バブルの時代を経験している我々の世代は、「お金や物だけがあれば豊かだ」という、単純なことだけではないことに、薄々気づいてしまっています。「21世紀の我々が、真に求めている豊かさとはなにか?」ということが、本を出版させていただいた本の根底にあり、そこに鈴木さんが興味を持ってくださいました。

銀座に店をかまえる老舗の看板

銀座ならではの、職人と商人が融合した職商人(しょくあきんど)とは

鈴木 私は、CMなどの広告映像に長く携わってきましたが、昔は新聞やテレビなどのマス広告によって物が売れていたように思います。しかし、現在はそういったマス広告はほとんど効かなくなってしまっていて、むしろターゲットを絞り、濃いファン層がいるところにしっかりと届けることができる広告が、重要になってきました。

そういった、濃いファンが口コミで広げることで、さらに波及するというような現象が起きていることを目にし、「これは銀座の商売に似ている」と感じました。つまり、最先端の方法を求めていくと、一周してそういった昔の手法に行き着くということ。そして、それをずっと続けてきたのが銀座という街だったのです。

銀座では、店主の方が気軽に近所のお店を紹介してくれますし、訪れた先でも「○○の大将が紹介してくれたんだね」と、一見さんとはまた違った関係性で入店することができます。人と人がつながっていくという面白さは、インターネットで検索して、目的の店だけを目指すという方法とは対極にあることだと思います。

お店の方も毎日店頭に立っているので、ほかの街のように「職人と商人が分業されていない」部分も、銀座の特徴。そのため、お客さまとのコミュニケーションが、商品やサービスにダイレクトに反映されるというわけです。常にお客さまの顔を見て、店頭に立ち新しいことを取り入れていく、という商いのスタイルが銀座の特徴であり、魅力なのです。もちろん、単に技術だけを習得するのであれば短期間でできるかもしれませんが、やはりお客さまとのつながりなどを構築していくには、10年程の長い期間が必要です。

渡辺 意外かもしれませんが、銀座は下町から発展した商店街ですので、下町情緒のような温かみのある街でもあります。店主同士で「ちゃん付け」で名前を呼び合ったり、何十年も通ってくださるお客さまがいらっしゃるなど、下町ならではの温かさが、銀座にはあるのです。

「銀座は敷居が高い」と言われることもありますが、低ければよいというわけでもないと私は考えています。なぜなら、ふさわしい場所や、居心地のよさがある場所も必要だと感じるからです。要は、T.P.O.に合わせて楽しむことが大事だということ。

そして、店から店へ紹介してもらうことでご縁がつながるので、温度をもった情報=ご縁で豊かな生活が広がるというのが、銀座の特徴。だから、面倒くさいんです(笑)。そんな、“面倒くささ”が好き! という方には、ぜひ銀座を訪れていただきたい。消費文化が成熟し、早くて便利な物事が増えてきましたが、プロセス自体を楽しみたいという方も、きっといらっしゃるのではないでしょうか。

鈴木 面倒くさい部分もありますが、それと同時に温かさも銀座にはあるのです。マナーなどが厳格なイメージがありますが、結局はいかにお店の方とコミュニケーションを取れるかということではないでしょうか。店主の方々の多くはお客さまを喜ばせることが大好きなので、そういった思いにはきっと答えてくれるはずです。

渡辺 わざわざ手間をかけて銀座に足を運んでくれるお客さまは、そういったコミュニケーションも求めていらっしゃる。お買い物をしていただくなかで、会話も買っていただいているということなんですよ。そういった、インタラクティブなコミュニケーションを何十年も続けていくことは、それ自体が職人の大きな財産になると思います。だからこそ、銀座で商売をやる人は職人であるだけで続かない。つまり、職人と商人が融合した「職商人(しょくあきんど)」という、極めて特殊な人々が多いんです。つまり、豊かな会話をお客さまに提供できるエンターテイナーでもあり、人を惹きつける魅力…つまり芝居をする役者のようなものだと思います。

鈴木 勉さんと渡辺 新さん。壱番館の店先にて

映像でなければ伝わらない、老舗の魅力

渡辺 最近は、トリュフやフォアグラなどの高級食材、ブルゴーニュのような地域などのキャッチーな単語が入った、スペックがわかりやすいお店が多いですよね。それが好きな方もいらっしゃると思いますが、銀座に限らず、長年のお客さまを大事にしている老舗のスペックは、実はそこまで大げさなものではないんですよ。例えば、食材は地元で獲れたヒラメやイカなどの平凡なものです。ですから、長年お客さまを惹きつける魅力というのは、スペックには表しづらい。しかし、それをなんとかして伝えたいという気持ちがあり、映像という情報量が多く、世界共通の“映像”というフィルターを通して伝えるしかないと考えたのです。

鈴木 いくら題材が素晴らしく、よい取材をしていても、映像だけで技術の高さや美しさを完璧に見せることは難しい。特に、テレビというスピードの中では、ドキュメンタリーの映像クオリティには限界があります。そういった点では、今回は1年近くかけてじっくりと撮ることができるので、テレビのドキュメンタリー番組を凌駕するような映像クオリティになるはず。映画として、どれほど日本人や海外の人を惹きつけるものを撮れるか、ということに腐心していきたいですね

今回の映画製作にあたり、誰もがウェブ上でプロジェクトに出資することができる「クラウドファンディング」で、制作費の出資者が募られました(受付終了)。パートナーとして参加した方には、出資額に応じて銀座の老舗からの商品や、クレジットとして名前が載る権利など、特典も多数用意されています。

God’s IN ZA details 銀座|裏通りの職人たち
https://www.ginzaeiga.jp

この記事の執筆者
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クレジット :
撮影・構成/難波寛彦